第10話 悪路を行く

 ソノフェン王国を出立してから2日目。

 シズフェ達はソコラ共和国を後にする。

 ソコラ共和国はソノフェン王国とカラバ王国の間にある国だ。 

 ただ、ソノフェン王国に比べるとかなり小さい。

 市民の数も1000名に満たず、産業も特にない。

 訪れる者もほとんどおらず、ソノフェン王国の使節か、変わり者の商人がごくまれにいるぐらいである。

 それでも城壁の中で暮らせる地がある事は良い事であった。

 この世界において人の住める場所は限られている。

 水場に放牧する場所か耕作地等があり、そして魔物から防衛に適した場所でなければ住むのは難しい。

 そのため、そういった場所に人は集まり城壁を建造し国を作る。

 条件の良い場所に多くの人間は住みたいと願うだろう。

 しかし、全ての人間が城壁の中に住めるわけではない。

 市民権を得られず、城壁内で住めない者は城壁外で住むか、別の場所で国を作るしかない。

 ソコラ共和国もそんな城壁内で住めなかった者達が何とか住めそうな場所を探して作られた国だったりする。

 建国者は元ソノフェン王国の3名の貴族出身者で、市民権を持たざる者達を集めて作った国である。

 宿屋はなく、宿泊しようと思ったら、どこかの家の客となるしかない。

 シズフェ達はヴィナン王子の紹介状と戦乙女の地位があるので貴族の館へ宿泊できた。

 そして、ソコラ共和国を出立したのである。

 問題はここからであった。

 ソコラ共和国からカラバ王国まで、宿泊できる国はない。

 馬車で行っても3日はかかるので、途中何度か野宿をしなければならないだろう。

 馬車があるとはいえ、かなり大変であった。


「さすがにこれは酷いな……」


 時刻は昼、シズフェ達はカラバ王国へ続く道を進んでいる時だった。

 馬車を操るケイナが眉を顰める。

 街道が整備されておらず、馬車が酷く揺れている。


「うう、何とかならないの、ケイナ姉……。うぷ……」


 乗り物酔いをおこしたマディが馬車の隅でぐったりしている。


「さすがに整備されていない道を馬車で行くのはつらいわね……。あまり人が通らない道を整備したりはしないものね」


 シズフェもかなり気分が悪いが、マディ程ではない。

 当たり前だが街道の整備はその街道を必要とする国が整備しなければならない。

 ソコラ共和国からカラバ王国へ続く道はカラバ王国しか必要としていない。

 そして、街道の整備にはかなりの資金が必要だとシズフェは聞いている。

 道を切り開くだけでもかなりの資金が必要であり、石畳を敷き詰めようと思えばさらに費用が高くなるだろう。

 そして、人手も必要であり、人の往来の少ないカラバ王国には街道の整備をするのが難しかったようである。

 それでも馬車が通れる道を作っただけでもかなり努力したと言えるだろう。

 なぜなら、馬車が通れない道はかなり多いからである。

 物資を運ぼうと馬かロバに積み荷を乗せて悪路を進むしかなく、普通の商人は近づかない。

 そのため、そういった国はますます貧しくなるのである。

 

「シズフェさんなるだけ早めに休めそうな場所を探した方が良いかもしれません。この道では夜の中を進むのは危険です」


 レイリアは道を見ながら言う。

 レイリアの言う通りであった。

 悪路を夜進むのは危険すぎる。

 小さな段差でも、見えずに進めば命取りになりかねないからだ。

 時刻は昼を過ぎたばかりだが、早めに休んだ方が良いだろう。


「確かにそうですね……。無理はできない。ノーラさん。夜営が出来そうな場所があったら教えてくれる?」

「ああ、わかった。森の感じから、この先に水場があると思う。そこで休むと良いだろう」


 ノーラは前方を見ながら言う。

 シズフェが前を見ても、水場があるかどうか、さっぱりわからない。

 しかし、感覚が鋭いエルフのノーラにはわかるのだろう。

 シズフェ達は先に進む。


「それにしても、こいつ……。すごいわね」


 シズフェはマディとは反対側で横になっているノヴィスを見る。

 昼食をたらふく食べて後、ぐっすり寝ている。

 馬車に酔い昼食が入らなかったシズフェやマディとは大違いである。

 シズフェはノヴィスを見て少し羨ましくなるのだった。

 

 





  




 

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る