ここにいないあなたへ

ピクトグラム

プロローグ

 手を伸ばしても、あの子の背中には届かない。必死に走っても、海の底を歩いているように地面に足がつかず、私だけが追いていかれる。きっと一声かければ、彼女は妥協の末、荒い海流に耐えながらも私のことを待ってくれるだろう。けど、違う、そうじゃない。それじゃ私たちは対等にはなれない。今の関係から、何も変わらない。私は、追いつきたいんだ。不格好でもいい、不似合いでもいい。膝に泥を付けながら、惨めな姿になろうと構わない。この思いの行先は、あなたが終着点じゃなきゃダメなんだ。音が鳴っている踏切の先にあなたがいたら、私は走らなきゃいけないんだ。

 ……だけど、もし私の手が届いて、あなたの隣に立てたのなら、私はどんな言葉をあなたに贈ればいいんだろう? 感謝の言葉? はたまた、友情の再確認? それとも……。

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