第7話:元先輩は現生徒

「以上で本日のホームルームを終わります。明日からは本格的に授業が始まると思うので忘れ物をしないように。忘れ物をしてしまった場合は直前に言わず、早めに担当の先生に申し出ましょう。以上でホームルームを終わります」


 ホームルームを終えると、生徒達は集まって話し始めた。この後親睦会をするらしい。一部の生徒はそんなものやる意味あるのかと言わんばかりに勝手に帰宅していく。先輩は相変わらず、輪の中心にいる。入学して二日目だというのに。


「和泉さん、少しだけよろしいですか。すぐ済みますので」


 輪の中心に居る彼女に声をかける。生徒達も会話をやめて私の方に注目した。気まずい。とりあえず先輩を教室から連れ出し、廊下で話すことに。


「なんですか? お昼の告白の返事ですか? 付き合ってくれるんですか?」


「いえ。付き合いません」


「ええ!? なんでぇ!? 絶対脈アリじゃん!」


「お、大声で脈ありとか言わないでください!」


「あ、否定しないんだ」


 昼休みに、私は先輩から口説かれた。冗談だと思っていたが、本気だったらしい。昔から両思いだったのだろうか。当時から私の気持ちに気づいていたのだろうか。あの頃私が勇気を出して告白していたら、付き合ってくれていたのだろうかと色々考えてしまう。だけど、今の私達は教師と生徒だ。私は教師として、彼女の気持ちに答えるわけにはいかない。


「良いですか、和泉さん。私は教師で、貴女は生徒です」


「でも、成人同士ですよ」


「そういう問題ではありません。私達教師は、生徒一人一人、平等に接しなければいけません。誰か一人を特別扱いしてはいけないんです」


 私の答えに「真面目すぎでしょ」と教室からヤジが飛んできた。だけど先輩だけは「なるほど」と納得したように頷いた。そして「君はこの仕事に誇りを持っているんだな」と複雑そうに、だけど優しく笑う。理解してくれたようだが、複雑だ。せっかく両想いだと判明したのに。


「先生は明菜ちゃんより仕事の方が大事なんですかー」


 教室の窓を開けて不満そうにヤジを飛ばしてきたのは、河野翡翠さん。彼女は先輩と仲が良い。中学が一緒だったらしい。といっても、歳の差十歳だから一年も被っていないのだが。先輩の妹ならギリギリ被っているかもしれない。

 河野さんの言いたいことは分かる。私も学生のころだったら同じ感想を抱いていただろう。


「良いよ翡翠ちゃん。先生の気持ちは分かったから」


「えー! 諦めんの!?」


「うん。森中先生のことは諦める」


「ずっと好きだったんでしょ!?」


「そうだよ。だからだよ」


「だからって……わけわかんないよ……」


「大人になれば分かるよ。先生、揶揄ってすみませんでした」


 そう言って先輩は私に素直に頭を下げた。教師と生徒だから付き合えないと言ったのは私だ。だけど、そんな簡単に納得しないでほしかったなんて、矛盾した気持ちを抱いてしまう。やっぱり私はまだ、先輩より子供なのかもしれない。

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