伯爵家にて


伯爵家の家族用の居間には今、かつてなくピリッとした空気が広がっています。



まぁ、原因は出戻り娘の私なんですけど。




「…もう一度言ってくれないか…。」


「…。」


「…。」


「…お父様、お母様、…私、今後結婚は致しません。


…そして近く、領地へ向かおうと思います。」


「っっ!!…まだ帰ってきたばかりだろう。それに、結婚に関してはお前に責任はない!」


お父様とお母様は悲痛な顔をしています。


とても大切にして頂いているのにこんな娘で申し訳ありません。



…でも、結婚はしたくないんです。(貴族失格)



「いえ。今回、私のせいで、お父様、お母様だけでなく、伯父様達にも大変なご迷惑をお掛けしてしまいました。



その責任を取る意味でも、生涯結婚する気は無いのです。」



私はキリっとした顔で伝えました。


とりあえず下手な期待をされても困るので、お父様とお母様には、はっきりと伝えておかなければいけません。


大変申し訳ないとは思いますが孫は諦めて頂きたいです。



「い、いや、しかし…。ほら、伯爵家も後継者の問題が…」



お父様はなんとも苦りきったような渋い顔をしてなんとか説得を試みます。


「お父様が以前おっしゃっていたように親戚筋の方から優秀な方を選んで譲って下さい。」



でも、私は知っているのです。


元々、お母様が子供を産む予定がなかった事を。



…つまり、当初の予定に戻るだけなのです。




そして、私にはこの伯爵家を継げるほどの才覚がない事も自覚しております。


ここに私が居ると、他の貴族に勘違いされてしまいます。


きっと次の後継者の方が肩身の狭い思いをするでしょう。


…。




お父様は納得出来ないのでしょう。


ずっと渋い顔のままです。


「…」


チラッと私の顔を見ます。


何か悩ましげな表情をした後に口を開きます。



「…第二王子殿下とか…。」


あぁ、第二王子殿下ですか。



「そういえば、結婚を申し込まれましたので断わりました。」


「…。…は?」



第二王子殿下には親族話し合い後のちょっと空いた時間に、呼び出されました。


そして、そこで求婚されたのです。


『もし兄としてしか見られないと言うのなら、いつまでも待つから…』


と、言われましたが、兄どころか(前世)息子のような年齢なのでちょっと無理です。


申し訳ないけどサクッと断らせて頂きました。(彼は涙目でした)



王子の求婚を断るなんて通常は無理なので、この伯爵家の権力に改めて感謝です。


うっかり承諾してしまったら夢の老後どころか女同士のバトル(王子モテるので)と過労(王子の嫁仕事多い)と海外出張(外交嫁同伴)で大忙しです。



私の目標は老後をのんびり過ごすことなので息子ほどの年齢ということが無くても、彼はなしですね。



そういえば、お父様が第二王子との仲を邪魔していた話も聞きました。


まぁ、正直これはどうでも良いのです。(第二王子に興味ないので)


しかし、これはあくまで結果論であり、第二王子のことも、結婚相手として今はもう考えられませんがあのおバカさんに恋をする前ならワンチャンあったかもしれません。


…いや、無かったかもしれません。(ま、どっちでも良いか)





まぁ、たしかに私も私で世間知らずのおマヌケさんなので心配になる気持ちはわかります。


…それでも、お父様に私の人生全てをお任せしたいとは記憶の戻る前でも考えていませんでした。



子供はいつの間にか成長しているものです。(52歳主婦談)


いつまでも小さな子供ではないのですよ。


甘やかされて幸せでしたが、世間知らずではあとで苦労します。(実体験中)



「もし、万が一結婚をするとしても、第二王子殿下は考えられません。


ですから、お父様がしていた事も怒ってはいませんよ。」


お父様は私が言葉に口をパクパクしています。


その後にはガックリと項垂れています。


「…私のして来た事は一体…。」



あれ?


喜んでくれると思ったんですが思っていた反応とは違いました。(愛重め男親ゴコロは複雑なんですね)



横でお母様は残念な物を見る目でお父様を見ています。


あ、私と目があってニコってされました。


「わたくしは…寂しいけど応援するわ。


…なんだか頼もしくなったみたいだし。


ただ、…次は困ったり何かあったら、すぐに教えてちょうだいね。」


お母様は既にいつもの優雅さを取り戻しております。(さすが元王女)


「ありがとうございます、お母様。」


私とお母様がニコニコ笑いあっている横でお父様はため息をついています。(1つ幸せが逃げました)


「せめて、領地に行かずここで過ごせば良いのではないか?」


お父様の問いかけに首を振ります。



「国王陛下にお願いを叶えて頂いたのに放ったらかしには出来ません。


領地に行ったら邪魔にならない程度にお手伝いさせていただく予定です。」


まぁ、道の事に関しては私の責任ですので、なんとか管理する方のお邪魔にならないようにお手伝いさせて貰うつもりです。


結局のところ、そういった面でも、偉そうな事を言いつつお父様達の協力が必要になのは申し訳ないと思います。


でも、より良い結果となるなら意地など張らず、頭ぐらい下げるのが正解なのかなと気付きました。



お父様はまだ納得出来ていないようですが、私が折れないことを理解したのか諦めの表情を浮かべます。


「わかった。…好きにすると良い。


…ただ、結婚については今後どうなるかわからない事だから、ひとまず保留だ。


今後は領地にてしばらくゆっくりすると良い。


ただ、無いとは思うがまた同じ様な事が起きぬよう定期的にそちらに監査をいれる。


無論、いつでも我が家に戻ってきても良いからな。」


「お父様、ありがとうございます!」


私の満面の笑顔にお父様は苦笑を浮かべます。


お母様も優しく微笑んでくれました。



ついに、待ち望んでいた許可が頂けました。


監査ということは定期的にアドバイスもしていただけます(ニヤリ)



私の目標の老後生活スタートです。




仕事が出来てしまったのは予定外ですけれど、今度こそ領地でのんびりと穏やかに過ごす事が出来るでしょう。(フラグではありません)




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