第16話 キャンディス・仁奈川
アメリカ大使館の方……? 『方』ってなんだ!? 『方』って!? 怪しさ満点だなと思いながら、俺はドア越しに用件を聞く。
「アメリカ大使館の方が、何のご用でしょう?」
「動画の件でお話を。霧のことやエルフのことに、我が国は大変興味があります。ロスで霧が発生したんですよ。お話を聞かせてください」
「えっ!?」
ロサンゼルスで!? ネットは見ていたけれど、魔法の動画ばかり見ていたので気が付かなかった。
「それは、いつのことですか?」
「昨日です。カリフォルニア州政府と米国政府が対応しています。佐藤さんの動画を見て、藁にもすがる思いで来たんですよ。お話を聞かせてください」
「わかりました!」
俺はドアを開いた。ドアの前にはすらりとしたスーツ姿の黒髪美人が立っていた。一瞬、モデルじゃないかと思ったほどだ。
「どうも。キャンディス・ニナガワ・ブラウンです。これ差し入れです。どうぞ!」
「あっ! どうも、ありがとうございます」
キャンディスさんは、両手に持った大きなレジ袋を俺に手渡した。中を見ると、マーシーのチョコレート、マイルドターキ、マドワイザーなど、アメリカづくしだった。レジ袋が大声で『USA! USA!』とアピールしている。
うん。キャンディスさんが、アメリカ大使館関係者であることは、間違いないだろう。
俺はキャンディスさんをキッチンのテーブルに案内した。ペットボトルのお茶を出して、キャンディスさんと向かい合って座る。
改めてキャンディスさんを見ると、アメリカンサイズの胸が『USA! USA!』と激しく主張している。
(わかったから! わかったから!)
俺は内心ドギマギして、キャンディスさんの胸を見ないように必死だった。
キャンディスさんは、あまり遠慮する性格ではないらしく。ペットボトルのお茶を美味しそうに飲み出した。
俺もペットボトルのお茶を飲みながらキャンディスさんに話しかけた。
「よく、ここまでこれましたね」
「大使館の車をゆっくり走らせてきました。電車もバスも運休ですからね」
「アメリカ大使館というと赤坂ですよね?」
「ええ。H市まで高速は使えましたよ。ただ、警察車両が多かったですね」
高速道路に警察車両が沢山……? 警察が広域で動いているのか……。H市に応援かな?
政府広報があまり機能していないので、こういった情報はありがたい。
俺はキャンディスさんの情報を知ろうと話を続ける。
「キャンディスさんは、日本語がお上手ですね?」
「母が日本人なんです。十歳まで東京のF市にいました。ミドルネームのニナガワが、母の姓です。仁義の仁に、奈良の奈に川で、仁奈川です」
F市は米軍横田基地が隣接している。お父さんは軍関係者かもしれない。
「あっ! じゃあ、仁奈川さんとお呼びした方が良いですね」
「いえ。キャンディで良いですよ。ユウマさんとお呼びしても良いですか?」
「ええ。構いません」
「じゃあ、ユウマ。エルフと何があったか最初から教えて欲しいな」
「わかった」
俺は突然霧が発生したこと、コンビニで起きたことや機動隊が全滅したこと、レジスタンスの三人と出会ったこと、エルフと戦闘をしたことを話した。
キャンディさんは、相づちを打ったり、質問をしたりするが、非常に話しやすかった。肩肘張らない感じのコミュニケーションは、アメリカ育ちっぽい。
ただ、内緒にしたこともある。
身体強化魔法に成功したこと、翻訳をしてくれる魔法の指輪をもらったことは伏せた。
これはおいそれと話して良いことじゃないと思う。どんな影響が出るかわからないからだ。色々想像出来るが、最悪実験動物のように監禁されて研究対象にされるかもしれない。そんなのは真っ平だ!
いずれ俺が手本にした動画が拡散されるだろうが、俺が身体強化魔法を使えるのは、出来るだけ秘密にした方が良いだろう。
魔法の指輪に関しては、想像もつかない。売ればとんでもない値段がつくのだろうな……。
俺が全て話し終えると、キャンディスさんは、フウと息を吐いた。
「そうですか。死体はレジスタンスの三人が異世界に持って行ったんですね」
「バカバカしく感じるかもしれませんが、全て事実です」
「信じますよ。ロスでも謎の霧が発生してますし、ここに来てわかりました。これは普通の霧じゃありませんよ」
キャンディスさんは、真剣な顔で答えた。
俺は嬉しかった。俺の言うことを信じてくれる人がいて、さらに米国政府関係者なのだ。
「情報が役立ってロサンゼルスの人たちが助かれば幸いです」
「ありがとう。大使にも伝えます。じゃあ、帰りますけど、また来ても良いですか?」
「ええ。構いませんよ。仕事に行けないし、やることもないので、どうせヒマです」
キャンディスさんとは、連絡先を交換した。あんな美人と知り合いになれるなんて!
俺はちょっとだけ霧に感謝をした。
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