ボクたちの居場所

「……私はね、あらゆる人間にとって生まれてきてしまったことは最大の不幸だと考えているのですよ」


 11月21日夜、取調室の中で希望部の顧問だった鎌田が静かに語り始めた。

 



◆◇◆◇◆




 俺たちの部活が、無くなってしまった。


 まあ、いつかはそうなるだろうなとは思っていた。


 いくら安楽死が許容されているタカセ区とはいえ、安楽死の補助が活動内容なのはあまりにもセンシティブだと感じていた。


 しかし、まさかその時が今だとは思ってもいなかった。


「なんとも……大変なことになってしまったねぇ……」


 11月21日夕方ごろ。


 ロインにて淡海先輩主導のもと、元部員たちによるグループ通話が始まった。


 そこで俺は初めて、鎌田先生が逮捕された上に希望部が廃部になったことを知った。


「これって……冤罪って奴だよな……ハメられたんだよなっ……?」


 1年生の男子部員、門田かどたさんが震えた声で発言する。


「……違う、これはマジの罪だね。タカセ区でも、人を死に誘導することは違法なんだ……安楽死をサポートする希望部は、存在自体がアウトだったんだよ」


「そんな……なんで善人の鎌田先生が……」


「私はあの人が善人だとは思うよ……でもね、決して善行を行ったとは思わないかな……」


「は?!安楽死のサポートは善行だろ!!なんでこんなクソったれた世の中にいつまでもいなきゃいけないんだよ!!部長もなんか反論しろよ!」


 門田さんが俺に意見を求める。


「残念ながら、まだまだ世間では安楽死への理解が薄いんだ。だから、いつかみんなが安楽死のことを理解してくれたら、先生の名誉は回復すると思う」


 俺はひとまず、意見を述べる。


「まあ、先生や部の是非はともかく、私たちが所属していた部がなくなったことは事実で現実なんだ……以上、解散」


 淡海先輩の一声を最後に、グループ通話は強制終了した。


 


「希望部、無くなっちゃったね……」


「……無くなってしまったな」


 グループ通話終了後、俺とナナは個別で通話をしていた。


「……そういえば、ボクたちも明日から7時間目や8時間目に参加しないといけないんだって」


「そうか……世知辛いな」

 

 俺の休学は来週月曜日に終わる。


 そしたら、7時間目や8時間目が待っている。


 土曜授業も待っている。


 内容が全く分からず、理不尽に叱られる時間が増えていく。


 死にたくなってくる。


「……ねえ、ケイスケ」


「なんだ、ナナ」


「……今度の土曜日、一緒に山に行きたいな」

 



◆◇◆◇◆




「私はただ、救っただけなのです。この汚れきった世界に生まれてきてしまった命を」


「いい加減にしろ!!」

『バチンッ!』


 11月21日夜、取調室の中で鎌田が刑事から平手打ちを喰らうことになった。


「オマエがやったことは、若い芽が持つ可能性を全否定するような最悪の行為だ!」


「……お巡りさんはまだ、『人には無限の可能性がある』などという綺麗事を信じているのですね」


「ああ、信じているさ!」


「おめでたいですね……私はあなたと違って賢いので、そんなデマは信じていませんよ」


「……まあいい。どのみちオマエが『生徒が命を絶つように誘導していた』ことに関しては揺るぎない事実だからな!」


「誘導していたのではありません!本人の意思を尊重してサポートしていただけです!あの子たちは!死を望んでいたのです!」


「ふざけるな!そんな証拠、どこにある!」


「1か月もすればわかりますよ……私と希望部がなくなった後の生徒さんの生存状況、きちんと確認してくださいね……!」


 鎌田にはあった。

 

 希望部の生徒たちは、自分がいなくとも近いうちに死を選ぶという確信が。 


 果たして、鎌田の確信は予言になるのか戯言になるのか……

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