狂人(後半)

 男と怪物が互いの命を賭けて殴り蹴るを繰り出す。

 最初の方は怪物の連撃と爆発に対して男は避けるばかりで怪物の方が優勢に見えたが、時間が経過するにつれて男の方は怪物の攻撃に掠りもせず、むしろ怪物の方が男が繰り出す打撃と蹴りを喰らいダメージを受けている。

 ついには怪物は守りの体勢に入り、男の方は怪物を一方的に叩いていた。

 

 でも、あの怪物の身体は所々に固い皮膚に覆われている、あの人の打撃がどれくらい怪物にダメージを与えているかわからないけど、まだ致命傷までに至っていないはず。


 私がそう思った、その時―。


 ガシッ


 「ヘア?」


 怪物は驚く表情をしつつ目線を掴まれた部分に移す。

 男は怪物が少し開いた口に手を伸ばし、舌を一摘まみ。


 「舌貰うよ」


 男は掴んだ怪物の舌を雑に引き千切り、舌に付られて内蔵のようなものまで一緒に引き抜かれ、口から大量の血が噴き出る。

 怪物はあまりの激痛か、今までよりもけたたましい悲鳴が耳を劈くくらいに響き渡る。

 一方男は至近距離で怪物の悲鳴を浴びているにもかかわらず、怯むことなく男は口内に手を突っ込み、そのあとすぐに”なにか”を取り出し男は不敵な笑みで怪物に言う。


 「頭にこんなの仕込んでんのかよ、気持ち悪い…」


 男が怪物の口内から取り出したそれは臓器のようで、ドクンドクンと動いているのが視認できる。

 それは人間の”心臓”そのものだった。

 

 グシャッ!


 男は奪った心臓を片手で握り潰し、怪物を台代わりにして蹴り距離を取る。


 怪物を…倒した?


 しかし、心臓を破壊された怪物は倒れることなく、立ち上がり口内とその周りを再生させる。

 男は死んだと思ってた怪物がまだ生きていることに驚きと少し不満そうな顔で怪物を凝視している。


 「心臓は一つだけじゃないのか…」


 男が呟くと怪物は怒りを含んだ笑みで答える。


 「他の雑魚と一緒にすんな、こっちはもう1体神ぶっ殺して力と心臓を得たんだよお!」


 「じゃあ心臓は二つか…まあさっき殺った上級野郎よりは一つ少ないか……」


 男は頭を掻いたあと、ずっと気怠そうな表情だったのが突如歯をニッと出して悪魔を連想させるような表情と笑みを怪物に向ける。


 「雑魚じゃねえなら!俺を殺してみやがれ!糞以下の自称神野郎!」


 「お望み通り殺してやるよ糞餓鬼!!」



 遅い!遅い!遅い!


 ブチュッ!


 「はい目玉二つともゲット!」


 「黙れ餓鬼!!」


 股関節と膝関節を一気捥ぎ取って……。


 バキッ!


 そして空かさず両手を胸骨目掛けてぶっ刺す!


 ブシュッ!


 掴んだ双方の肋骨を段ボールの箱を開けるように思いっ切り…!


 バキバキッ!バリッ!ボキッ!


 糞神の内臓が露出してるな!いいねえ!はい心臓いただき!!


 グシャッ!


 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 「うるせえなぁ……」


 中身は大の大人だろうってのになに泣き喚めいでんだか、心底呆れるぜ。


 「いだいっ!痛いいだい痛いいだい痛いいだい痛いいだい痛いいだい痛いいだい痛いいだい痛いいだ――!!!!!」


 さすがにそろそろ――。


 「うるさい」


 糞野郎こと神の顔面を掴み、地面目掛けて勢いよく地面に叩きつける。


 「グハアッ!」


 ちょいと思いっ切りやりすぎたか、頭が地面にめり込んでやがる。


 まあいっか、どうせこいつ死ぬし。


 俺は怪物の後頭部に無理やり割って中身が見えるくらいに抉じ開ける。


 「うっ…!」


 中は脳みそみたいなのが詰まっていて、そのグロさについ糞神の脳みその中に嘔吐物を注ぎ込んでしまった。


 「ゲアアアアア!!!やめろおおおお!!!」


 糞神が両手を俺にかざし出し、熱波のようなのが俺の皮膚に伝わる。


 「あ、やべっ」


 「爆ぜろ!糞餓鬼!」


 ドガアアアァン!!


 爆発音が鳴り響く中、寸での所で跳躍して躱す。


 「あっぶね!」


 「死ね!」


 あーあ、せっかく心臓一個破壊したのにたぶんもう新しく再生してるだろうなあ…。


 「ああめんどくさ…」

 

 複数心臓持ってる奴はほぼ同時に心臓壊さないと死なないんだよなあ…、ああめんどくさいめんどくさい、仕方ない、一気に狩り取るか…。

 

 「くらえ糞野郎!!」


 バガガアアアアアンッ!!!


 糞以下の神は上空にいる俺目掛けて特大の爆風を生じさせた。


 「殺ったああああ!!!死んだああああ!!!」


 バシュッ!


 バシュッ!


 「ほあ?」


 糞神が歓喜してる間に俺は心臓を二つ奪い取る。

 心臓を奪われた糞神は歓喜な顔から絶望の顔へと豹変し、心臓の破壊を阻止せんと必死に俺に近づいて来る。

 

 「早とちんなよ糞神」


 「やめろおオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 グシャッ!!


 心臓二つとも握り潰すと、糞神の体が砂みたいに崩れていき、原形そのものが消滅していく。


 「クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!クソ!せっかく地獄から出れたってのによお!また人殺せると思ったのによお!なんだよこれはああ!認めねえ!認めねえ!こんな結末!俺はまだもっともっと人を殺しまくって俺を下に見やがった神の野郎たちをぶっ殺して――」


 ザシュッ


 砂化しつつあった糞神の頭を踏みつけると、砂が風で宙を舞ってどこかへと消え去って逝った。

 

 「終わった…また別の神を殺りに…行く…か……」


 体がついに限界を迎えてしまったのか、力尽きるように地面に倒れてしまった。


 まだだ…まだここで倒れるわけには……。


 意識が遠のいていく中、向こうからさっきの少女の一人がこちらに駆け寄って来る。

 何か言っているようだったが意識が朦朧として聞き取れない、でも近づいて来るのだけはかろうじて開いている瞳からわかる。


 くそ…動けな…い……。


 力尽きた俺は意識がなくなっていき視界が真っ暗になった。



 廃墟と化したビルの屋上で先程神と交戦した人間を観察していた。

 若い男が神を殺しまわっているという情報が入り、目撃された地点を中心に捜索したら案の定見つかった。

 神を倒した後男は倒れ、近くにいた二人の少女のうち一人が駆け寄って声をかけている。


 「おい女、こ奴らどうする?」


 胡坐をかいて捜索対象を見下ろす男…諏佐旺麒が私に問いかける。


 「一応少女2名と男の身柄を保護する、あの男から聴取したいところだが、あの様子じゃまず病院に移送するのが先だ、もうすでに救助要請はしてある」


 「ほう…お前にしては結構優しいところがあるじゃねえか、てっきりあの男は留置所にぶち込むのかと思ったよ」


 諏佐旺麒は笑いながらそう言い、立ち上がる。


 「んで、俺はそろそろ帰って飯を食うが、お前はどうする?」

 

 「彼らの救助が終わるのを見届け次第他報告が上がっている神を処理しに向かう」


 「可愛くねえ嬢ちゃんだぜ、ほんとに19か?」


 そう言って諏佐旺麒はどこかへと消え去った。

 どうせ避難施設に戻って酒でも飲むのだろう、人類史上最強と呼ばれるあの男に心底呆れる。


 「神…か、神が人類を抹殺する目的は一体……」


 まだ出ぬ答えに私は疑問を抱きつつもそれは後にし、瓦礫に埋もれている少女と神を殺った男の救出と応急処置をしにビルから飛び降りて地を踏んだ。

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