初恋の香り

とまきち

腐れ縁の女の子

小学生の頃、6年間ずっと同じクラスの女の子がいた。

名前は高梨恵理(仮名)さん。

彼女は同級生の中では少し大人っぽい考え方をする子で、もしかしたら年の離れた姉の影響を少なからず受けていたのかもしれない。

学力もクラスの中ではいつも上位のグループにいて、運動神経も抜群に良かったので、イベントでは割と助っ人を頼まれるようなタイプだった。

ちょっぴりお転婆な部分もあり、男勝りなところも、彼女の魅力であり長所でもあった。

低学年から高学年に入る前までは、常に私よりも身体が大きかった。

ちょっかいを出すと、捕まえるまで追いかけてくるようなタイプだったので、女の子に追いかけられるのが楽しいと感じていた単純バカな私は、いつもちょっかいを出して彼女に追いかけられるのを楽しんでいた。

高学年に入り最後のクラス替えの後、「また同じクラスだね! 本当に腐れ縁だよね!」などと軽く皮肉を言われてしまった。

その時も「まぁ~た、お前と同じクラスかよっ! どうなってるんだ?」などと返事を返したものだ。

そんなある日、遠足かどこかへ行った時に撮ったクラスの集合写真を父に見せたら、「この子はいずれ美人になりそうだな…。」と指差したのは高梨さんだった。

その言葉で彼女の顔が妙に整っており、よく見てみれば結構な美人であることに初めて気が付いた。

それ以降彼女の事を妙に意識してしまい、それまでのような気軽な気持ちでちょっかいを出せなくなってしまった。

彼女は私がちょっかいを出さなくなると、「最近どうしたの? ちょっかいを出さなくなったよね。」などと顔を覗き込んでくるのだけど、既に私は彼女の事をとても意識してしまっている。

恥ずかしくて目を合わせられなくなり、顔が火照るのを感じて動揺した。

「な、なんでも無いよ! 高学年になってまで追いかけっこなんてやってられないぜ」とごまかしながら、どこか寂しさも感じていた。

そしてちょっかいを出さなくなると、彼女に対する不思議な感情は益々高まっていった。

気が付くといつも彼女のことを目で追っている。

他の男子が彼女に話し掛けているのを見ると、胸がザワザワする。

そして笑顔で対応する彼女を見ると、とても苦しくなる。

その気持ちが何なのかは判らなかった。

多分嫉妬だったのだと思う。

でもその当時は、嫉妬という物が何なのかも判っていなかった。

とにかく毎日が苦しくて、今さらちょっかいを出すことも出来ず、少しずつ接点も減って行き、このまま疎遠になりそうで、酷い焦りを感じ始めていた。

そもそもちょっかいを出していた時は、彼女に対して何の他意もなく、からかって捕まるまで追いかけて来るのが面白かっただけだ。

だから少し酷いことを言って、怒って追いかけてくるまでちょっかいを出していたのだけど、決して彼女の気を引こうと思っていたわけではない。

しかし一旦意識をしてしまうと、今度はちょっかいを出して嫌われるのが異常に怖くなってしまった。

『高梨さんに…嫌われたくない!』

そうした気持ちが何なのかは判らなかったのだけど、嫌われることに対して異常なまでに恐怖が強くなるのを感じていた。

そして何故『嫌われたくない』と思ったり、『苦しい』と感じたりするのかを、よく考えている内に突然答えが閃いた。

『僕は高梨さんの事が好きなのかもしれない…。』

一旦自分の気持ちに気が付くと、好きという気持ちには歯止めが掛からなくなった。

そして女の子を好きになるということが、物凄く強烈な気持ちであり、感情を自分でコントロールする事が難しく、誰かに相談したいけれども、恥ずかしくて誰にも相談出来ないという苦しさに悶える日々が始まった。

彼女を見ていると、それだけで呼吸が苦しくなる。

今まで酷いことを言ったり、追いかけてもらうためにちょっぴり嫌がらせをしていた自分の愚かさを後悔する。

そしてちょっかいを出さなければ、彼女と一言も話せない日が積み重なって行く事に絶望を感じていた。

その苦しみから逃れたくて、色々と自分なりに考えを巡らせてみたのだけど、何をしていても彼女の眩しい笑顔が思い浮かぶ。

どうしたら良いのかわからず、1人で部屋に居るときは、勝手に涙が出てくることも有った。

『もうダメだ! この苦しみから逃れるにはどうしたら良いのだろう?』

いつの間にかとても追い詰められた気分になっていた。

そして『高梨さんに、自分の正直な気持ちをぶつけてみよう!』と堅く決心をした。

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