第11話 疑惑の家族

 リコはレイと付き合い始めてから一年が経つと、レイを家族に合わせた。

 音大の附属小学校を卒業しているレイは、上手にピアノ弾いて見せた。

 リコの家族の評価はとてもよく、程なく二人は両親から婚約を許された。

 待ち望んだ、王室からの離脱はリコの思い通りに着々と進んでいるように見えた。

 リコはレイを踏み台にして、王室からの離脱を画策した。

 レイは母子家庭なので、経済は全てリコに依存しているパラサイト親子だ。

 レイとリコの二人の関係は、相互依存で成り立っている。

「私の言う通りにしたら、働かなくてもお金に不自由はしないから、協力するようにして」

 リコはレイにそう告げると、彼は心よく引き受けてくれた。

 レイは仮面夫婦を演じることによって、永遠のATMを手に入れる。

 それがレイと家族の本当の目的だ。

 仕事はやっているフリをしていれば、それで十分だとレイに伝えると納得してくれた。

 後のことは、全て祖母がなんとかしてくれる。

 リコにとって窮屈な王室から抜け出す道は結婚をするしかないが、元王族としてマスコミの報道がついてくる。

 リコには、それも嫌で仕方がなかった。

 それを止めることは、ラパンを遠く離れた海外に住み、王室と縁を切ることしかない。

 前王の王女は、商社勤務の男性と結婚をして、海外での生活をすることになりはマスコミの報道も無くなった。

 リコも同じように海外生活をすれば、王室から完全に離れることができると考えた。

 それには野心家で、したたかなレイを上手に利用するしかないと考えていた。

 

 婚約発表の記者会見では、二人は初々しく満面の笑みだった。

「私が月で王女様が太陽です」

 嬉そうに記者に話すレイと、微笑みながら頷くリコだった。

 ラパン中がこの二人を祝福した。

 ハンデキャップのある母子家庭でありながら、見事にプリンセスを射止めたレイに世間は称賛した。

 そんな幸せな二人にある週刊誌の報道が影を落とした。

『疑惑のだらけの家族、父親の自殺。母親の詐欺的な借金と複数の男の影』

 婚約の儀式は無期延期となり、レイはニューヨークに留学することになった。

 引き離せば諦めると周りは考えたが、反対すればより結びつきが強くなるのが男女の中だ。

 二人は三年間スカイプで、毎日連絡を取り合ったが、変わらぬ思いを伝えて愛を深めていたわけではない。

 お互いの将来の為に、欲望の叶えるための綿密な計画を練っていた。

 結婚への高跳びが、中断することがないように水面下で静かに進行していた。

 全てはあの時の、レイと出会ったことが始まりだ。

 リコは今止めれば、全ての努力が水の泡となり一からやり直さなければならない。

 レイの他に、この計画に乗ってくれる男性をリコは捕まえることができない感じた。

 これが最初で、最後のチャンスだ。

 リコは自分から望んで、王族に生まれてきたわけではない。

 王族とは公人で有り、自分の人生は自分だけのものではないことが、生まれた時から決まっている。

 自分の人生を自分で決められないことが、リコには堪らなくいやで我慢ができなかった。

 自分の道は自分で選ぶ権利がある。

 誰にもそれを邪魔はさせないと、リコは強く決意した。

 数々の困難と非難とプレッシャーの中で、何度も躊躇して尻込みをするレイをリコは強引に説き伏せた。

 レイとの結婚は王室を飛び出すきっかけになる。

 もうすぐリコは30歳になる。

 これ以上待つことはできないし、この結婚を止めることは両親でもできない。

 できるとしたら、どちらかが死ぬことだけだ。


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