第7話 夏休みの帰郷

 クリスマス休暇以来の、半年ぶりにカイに会った両親は驚いた。

 背が伸びただけでなく、逞しくなっていたからだ。

 休暇で帰ってきていたジョンは大喜びで、三人でキャンプにも出かけた。

 だが、リザの急な帰宅によって状況が変わった。

 優秀だったリザは、ハイスクールを飛び級して、秋からはコロンビア大学に通うことになっていた。

 そのせいか以前ほど、カイに意地悪はしなくなった。

 カイはリザが変わったと感じたが、油断することはできない。

 案の定カイは、リザの罠に嵌められた。

 ある日リザの部屋に入ったマリーは、ゴミ箱から妊娠検査薬の空き箱が見つけた。

 リザは母親のマリーに問い詰められて、カイの子だと嘘をついた。

 父のジョンと釣りから帰ってきたカイは、マリーにリザの部屋で事実かどうか聞かれた。

 カイはクリスマス休暇以来会っていないのに、そんなことをするわけないと言い返した。

 マリーはカイの言ったことを信じたが、廊下で話を聞いてしまったジョンが激怒した。

 ジョンは部屋の中に入ってきた。

「カイ、リザとはどこで会っていた?答えろ」

 ジョンは、怒りを抑えられずにカイの胸ぐらを掴みながら言い放った。

「パパ、違うよ」

「言い訳は言うな」

「誤解だよ、僕じゃないよ。信じてよ」

 カイは力を込めて、ジョンの腕を振り払った。

「カイ、俺に勝てば無実だと認めてやる。素手でやるから、かかってこい」

「パパ無理だよ」

「ジョンやめて。カイはまだ15歳の子供よ」

 マリーはカイを庇い、ジョンの前に立ちはだかった。

 ジョンはマリーを突き飛ばし、カイの腕を掴み庭に連れ出した。

 それを見ていた、リザは小刻みに震えていた。

 ジョンはボクシングの構(かまえ)をし、カイも仕方なく空手の構(かまえ)をした。

 ジョンの身長は190センチあり、軍隊で鍛えた屈強な体だ。

 それに対しカイは160センチで痩せていた。

 ジョンの先制に、身軽はカイは避けながらも、必死で応戦していた。

 暫く様子を見ていたマリーは、このままではカイが殺されるかもしれないと家の中に足早に走った。

 寝室の棚に鍵をかけて締まってあったライフル銃を取り出した。

 マリーは弾を込めて取り出し、急いで庭に向かった。

 マリーはカイの前に立ちジョンに銃口を向けた。

「よせマリー、危ないぞ」

「弾は入れたわ。ジョン撃つわよ、覚悟して」

「嘘だろ、やめろ」

 後退りしたジョンに対して、マリーは引き金に指をかけると、空に向けて打った。

 マリーがジョンを目掛けて二発目を打とうとした時、リザが叫びながら走ってきた。

「やめて、お願い」

 リザがジョンの前に立ちはだかかった。

 マリーは銃口をおろしたが、リザはその場に倒れて気を失った。

 ジョンがリザを抱き抱えて、急いで家の中に運んだ。

 リザは出血をしていて、マリーが救急車を呼び3人は病院に向かった。

 カイは家に残り、たった一人でみんなが帰ってくるのを待つことになった。

 リザの出血の原因は流産によるものだと病院の検査で分かり、その後数日間入院することになった。

 マリーは入院したリザを看病した。

 リザは皆に、嘘をついていたことを認めた。

 リザのお腹の子の父親は、ハイスクールの先生だった。

 大学に入学決まったことを報告して、嬉しさのあまり抱きついたら、その後レイプされたことを話した。

 その後もそれをたてに、関係を強要されたことをマリーに打ち明けた。

 事情を知ったジョンは、カイに謝った。

「もういいよ、誤解が解けたから」

 言葉では許しても、気持ちが割り切れなかった。

 ジョンは血のつながりがない父親だ。

 同じ屋根の下で暮らしても、本当のパパとは違う赤の他人だ。

 カイはあの時のジョンの取った行動が、悲しくて仕方なかった。

 この事件でジョンに蟠り(わだかまり)を持ったのは、マリーも同じだった。

 マリーもジョンに対して不信感を感じて、夫婦仲がぎくしゃくしはじめた。

 会話は少なくなり、寝室も別になった。

 離婚することも考え始めたが、リザの取りなしで、もう一度やり直すことを決意した。

 そんな女達二人の行動にも、カイは複雑な感情を持ち始めた。

 退院したリザはカイに謝ることもなく、そのまま大学に行くために家を出て行った。

 カイは、あやまることもなく出て行ったリザに憤慨した。

 でも、これで暫く顔も見なくて済むと思い怒りを収めることにした。


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