第2話秘密の花園

アールヌーボースタイルの豪華なマンションのモニター画面のタッチパネルに名前と確認のコード入れた。

 ドアが開き中から、ビクトリア朝の軍隊を思わせる制服を来たボーイが現れ金属探知のセンサーを通るように言った。

 その後入念にボディチェックをされて、携帯電話を預けた。

 ここで前金の千ドルを現金で払った。

 カイはボーイに案内され、大理石の敷き詰められた廊下を歩き奥に案内された。

 いくつかの扉を開けてさらに進むと、大きな両開きのドアが開いた。

 その場所で女の好みを伝えると、マジックミラー越しに女達が見える部屋に通された。

 椅子に座り雑談をしている女や、ソファにーに寄り掛かりテレビの映画を見ている女もいる。

「一番右に座っている黒い髪の子はどうですか、東洋の国の高貴な生まれです、年は28歳です」

 平凡な容姿だったが、育ちの良さは伝わってきた。

「いいね、あの子にしよう」

 カイは残りの千ドルを再び現金で払った。

 ここでは全て現金での支払いが基本で、チップはなしだ。

 カイはビクトリアンスタイルの天井の高い部屋に通された。

 この部屋の床も大理石になっていて、大きなソファーが置いてありそれに座った。

 飲み物のメニューを渡され、ラグランダムのシャンパンを指さした。

暫くすると、ウエイターがシャンパンをワゴンに乗せて女と部屋に入ってきた。

 代金を払うと栓を抜きグラスに注いだ。

 女は隣に座ると、シャンパンの入ったバカラのグラスをカイに渡した。 

「初めまして」

 女は英語で言いながら、グラスを持った。

 美しくはないが、清楚な装いが似合う中肉中是の体格をしていた。

 立ち振る舞いや所作は、品格を感じさせた。

 最初は、世間話をして気持ちを和ませた。

「パリから来たばかりで、初めてのニューヨークです。面白い場所があったら、教えてください」

 女はブロードウェイで人気の芝居の話や、近くに上手いクラムチャウダーを食べられる店が有るといい、ダウンタウンのクラブに週末にセレブ来店する事とかを教えてくれた。

 女はごく普通の若い女性が話すことを淡々と語ってくれた。

 カイは話題を変えた。

「ラパン人に見えるが、今度仕事でラパンにいくので、面白い所をおしえて欲しいな」

 女は顔を強張らせて、やや震えた声で答えた。

「子供頃、数年過ごしただけなので、よくは知らないわ」

「そうですかそれは残念ですね。でもあなたはこの人に似ていると思いませんか」

 カイは週刊誌から切り抜いた写真を靴の中から出して見せた。

「いえ、他人の空似です」

 女の態度は明らかに、動揺していた。

「リコ王女様ですよね」

 ラパン語で話しかけると女は驚き震える手でグラスをおいた。

 驚きのあまり、ソファーに倒れ込んでしまい、足首に着けたGPS付きのアンクレットがロングドレスの裾から見えてしまった。

「お迎えに来ました」

 女は何も答えずに目を見開いて、カイを見つめていた。

「ラパンの方?誰に頼まれたの?」

「信じられませんが、お母様の妃殿下です」

「嘘でしょ、信じないわ。今度はどこに連れて行くつもりなの」

「これが証拠です」

 カイは防犯カメラを遮るようにして、妃殿下の自筆の手紙を渡した。

 莉子はそれを読んで涙ぐんだ。

「これで信じてもらえますか?お父様がご病気なのは分かっていただけましたか」

「はい、でもどうやってここを出るの?それにパスポートもないし」

 カイは絵葉書を渡した。

「なんですか?」

「イエスならこれをメイドに渡して下さい」

「え?」

「メイドが投函してくれます」

「これは罠ではないのですか?」

「貴方は今、ラパンがどんなことになっているか知らないでしょ」

「はい」

「貴方が選んだ相手との結婚で、ラパンは分断の危機になっています」

「分断?」

「国王の弟君が亡くなりそうな今、次の国王をめぐって女系か?男系かという争いが起きています」

「弟のレイトがいるではありませんか?」

「弟様は統合失調症になり、お世継ぎには無なれないかもしれません」

「そんな?」

「妃殿下であるお母様も、ご両親が相次いで亡くなられてからは、鬱病で日々の公務にはでられません」

「妹は?」

「ナコ様は、お二人の公務を変わっていられて非常にご多忙です」

「あの子はお付き合いしていた人がいた筈です」

「残念ながら、お別れになりました」

「お父様の皇太子殿下はあの後、ストレスでお酒を飲みすぎて脳溢血なり、手術をしましたが脳死状態でどのくらい持つかはわかりません。そのことは手紙で説明されています。御実家の公爵家は存続の危機にさらされています」

「そんなことになっているのですか」

「生きているうちに、合わせたいと妃殿下がお望みです」

 リコは言葉が出てこなかった。

「そんな酷いことに、なっていたなんて」

「あなたは何も知らないでしょ」

「祖国を出て外国での生活なら、楽しいと思っていました。」

「楽しくなかったのですか」

「いえ、住んでみたら喧嘩ばかりでした」

「それでここに」

「いえ、口封じとお金のためにここに連れてこられました。結局また、籠の中に戻ってしまいました」

 リコは俯(うつむき)きながら黙(だまり)り始めた。

「帰国がお嫌なら、このままここでの生活を続けても構いません」

「ここはもう嫌。でも、一晩考えさせて下さい」

「わかりました」

リコは時計を見た。

「どのような手段でラパンに帰れるか今は話せません」

「失敗したら?」

「それはあなた次第です」

 カイは部屋を後にした。

 リコは遠ざかるカイを見送りながら、どうするかを考えていた。


    

 

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