第24話 スクラップ&ビルド
バモナウツ王国とシントをめぐる戦争が終わった。
大戦の首謀者であるモルトケ・ハンは魔王軍への引き渡しが終わると、彼らは魔王領へと戻って行った。
モルトケのその後は考えたくもない。
サンドル帝国は敗戦の賠償金として、白金貨800枚の支払いを命じられた。聖国家アストリスは魔王軍によって甚大な被害を受けたため、賠償金など払えるはずもなく、その領地全てが王国の占領地となった。
「本当に領地は要らぬのですかな?」
「ええ、我が国は小さいからこそ維持できております。大きくなっても手がつけられませんので」
シーランス公国とは正式に同盟が結ばれ、帝国からの賠償金の一部が支払われた。
「マリーさんは旅を続けるのですか?」
「ええ、争いの無い所など居ても無意味ですからね。それに、王国はこれから慌ただしくなりますから」
そう言い残し、魔女マリーは新たな戦場へ旅立ってしまった。
この数ヶ月、多くの人と出会い、そして別れを経験したが、戻ってきたものもある。
「おかえりなさい、アズボンド」
「……ただいまシント」
アズボンドが『勇者』のスキルを得たのは、前勇者であるシリエルが亡くなってから、戦争が終わるまでの短い間だけだった。
当然、彼の力は元に戻っている。
不思議だが、これが神の意思であるのなら、アズボンドには他にやるべきことがあるのかもしれない。
大国との戦争に勝てたのは良いものの、王国の被害も大きいうえに、占領地となった元聖国家アストリスの領地にも気を遣わなくてはならない。ここからしばらくは、復興に向けての厳しい生活が続く。
しかし、今だけは人々の再会を喜ぶべきだろう。
「「シント!」」
「2人とも元気そうで何よりだよ」
疎開先であったジュルテーム国から、続々と王国民が帰還していた。皆、残った家族や友人との再会を喜び、若しくはその者の死を悲しんだ。
その中でも一際大粒の涙を流しながら抱きついてきたのは、少し痩せた双子だ。彼女たちの疎開先での待遇は、お世辞にも良いとは言いきれなかった。
「本当に無事でよかった」
「リシスもね」
リシスは「よくやった」と土埃まみれのシントの頭を撫でた。
「とりあえず、ご飯にしようか!」
「「任せて!」」
張り切った2人の笑顔が、眩しく冬の空を彩る。
シントは数ヶ月ぶりの双子の手料理を頬張りながら、リシスと戦中の出来事や出会った人々のことを英雄譚のように語り合い、笑顔の絶えない家族団欒のひと時を満喫した。
数日後、シントとアズボンドは王宮へ呼び出された。
今回は非公式の謁見とのことで、ふたりは不安な面持ちであった。
国王は入場するや否や、ふたりにある依頼を出した。
「シント、アズボンドよ。其方たちに勇者を探してほしい」
「勇者……ですか」
「アズボンドが仮の勇者としてスキルを得たが、それはもう失われた。我が国には勇者が必要なのだ」
シントは困惑した。
なぜ国王はそこまで勇者にこだわるのかが不鮮明であったからだ。
「差し支えなければ、その理由をお聞かせください」
「うむ」
国王は一度咳払いをしてから続けた。
「魔王領とその軍の規模は、尋常ならざる早さでその勢力を大きくしている。
これは魔王が存命である証拠であり、いつ人族の国へ侵攻してくるか分からん。よって勇者のスキルを持つ者がどの国に居るのかを知っておきたいのだ」
この世界にいる魔王はひとり。それは勇者も同じ。
わかりやすく言えば、この国に必要な理由は無いが、もし居たなら、いざという時は政治的に他国より優位に立てるということだ。
「それはつまり、王国内に勇者が居なければ、他国に出向いて探せと?」
「その通りだが、無理にとは言わぬ」
シントは考えていた。こんな提案では、アズボンドは絶対に拒否するだろう――と。
「その役目、お受け致します」
「アズボンド?!」
彼はニッと白い歯を覗かせると、続けてシントを驚かせた。
「もちろん、横のシントも同じ気持ちです」
「それは真か!」
「は、はい……」
やられた。
「ごめん、ごめんって」
「反省してないだろ!」
王宮からの帰り道、久々にリシスに会わないかと提案したところ、アズボンドが快諾したので、共に家族が待つ工房兼自宅へと向け歩いていた。
ふたりは何を話すでもなく、人々が戻った町を眺めている。黄金色に焼けた夕陽が辺りを包み、冷たい風がどこからか良い匂いを運んでくる。
「ハックション!!」
「風邪か?」
「もう冬だからなぁ。見ろ、山にも雪が積もってるよ」
旅へ出るのは山の雪が解けてからでないと行けない。それまではこの景色を存分に楽しもうと思う。
「絶対に許さない」
「うん、許さない」
その前に、アズボンドにはこの双子を説得してもらわなければならない。
「き、今日帰れるかな……?」
「さぁね」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
第二章完結!!
この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます