第16話


 こっからは根比べだな?


 意識を失うのが先か、効果が切れるのが先か。


 効果範囲を狭めれば狭めるほど、重力の強さを増大させることができる。


 ただ、思いのほか量が多かった。


 近づけるだけ近づけたつもりが、後方にいた粒子が少し外側にズレてしまった。


 効果範囲内ではある。


 けどもう少し近かったら、全体の強さをさらに高めることができたのに。



 じっとしてろよレザック。


 …って、おいおい


 まじか



 「重力」よりも「電磁気力」の方が強い。


 先生が言ってた。


 冷蔵庫に付いた磁石が落ちないのは、小さいエネルギー(磁力)でも重力の影響を無視できるほどの効果を持つからだって。


 素粒子間に働く力は、強い力、弱い力、電磁気力、重力の四つがある。


 「物理学」の話だ。


 ぶ厚い教科書の最初の方に細々と載ってた。


 物質が、少数のクォーク、レプトンからできていること。


 そして、それを支配しているのがたった4種類の力であること。


 あんま理解できてないんだけどさ?


 ようするに、4種類の内の「強い力」を100とした時、


 強い力 :100

 電磁気力: 1

 弱い力 : 0.0001

 重力 : 0.000000000000000000000000000000000001



 となる。


 大体の目安だが。


 重力が電磁気力に対していかに“弱い”かっていうのがわかるだろう。


 リョウとの喧嘩に、たびたび負けているのもこのせいだ。


 “相性”ってやつ?



 その気になれば、これくらいちょうどいいハンデだって思ってる。


 逆にこれだけの差があって、私に押し負けている時があるくらいだからね?


 今もそうだ。


 重力に逆らってレザックの体を持ち直そうとしてるが、そう簡単にいくと思ってる?


 半径5m圏内は私のテリトリーだ。


 それにもう“ロックオン”してる。


 思い出したって言ったでしょ?


 磁気圏を操作してるのがレザックじゃないとわかった以上、磁性を持つ金属の「性質」そのものを変えてやればいい。


 私の「力」は、“重力を操ることじゃない”。


 物質の質量や密度に“直接”干渉できること。


 ——つまり、“重力を量子化することができる”んだ。


 もし私が一点に、超高密度の質量を閉じ込めることができるとしたらどうする?


 あんたはそこから出てこれなくなるだろう。


 まあ、そんなことしたら殺人罪で訴えられかねないから、質量の“閉じ込め”じゃなく、逆に放出してあげるよ。


 短時間で圧縮した質量なら、そこから取り出せるエネルギーも最小限に抑えられる…かも?


 やってみないとわかんないね。


 こればっかりは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る