女子にモテたくて占いを始めた無能な僕、テキトーな予言がズバズバ決まって徐々にバズる

あらばら

第1話 予言

早坂はやさかさん、ズバリ君には――明日良いことが起こる」

「ほんとぉ?」


 教室の片隅で占いをやり始めた僕こと田沼たぬまの正面で、クラスの人気者である早坂依乃里いのりさんが小首を傾げている。

 金髪をツインテにしている可愛いギャルなので、そんな仕草も似合う。


 彼女と僕は別に仲良しじゃない。

 けど、モテるために今日から始めたこの占いで興味を引けた感じだ。

 まさかいきなり早坂さんが釣れるとは思わなかった。


「どんな良いことが起こるん?」

「早坂さんが望んでることが起こるよ」


 と、僕はテキトーに取り繕った。

 僕の占いはバーナム効果狙いだからそれっぽいことしか言わないのだ。


「ふぅん……ま、そんな期待しないでおくね。ほなほな」

 

 そう言って早坂さんは僕のもとを離れていった。

 ふぅ……期待しないでくれたから、外れても文句は言われないだろうね。


 しかしそんな中、早坂さんと入れ違う形で――


「おい田沼、てめえ調子のんなよ?」


 と、クラスメイトの飯島くんが話しかけてきた。

 イケメンの人気者だ。

 でも僕にとってはイヤなヤツで、高1の去年から軽くいじめられている。


「ちょ、調子になんか乗ってないよ……」

「乗ってんだろ。早坂と喋りやがって。クソが」


 僕が座る椅子を真下から蹴っ飛ばして、僕のケツが振動で震える。


「何が占いだクソが。どうせ外れんだから余計なことすんなや」

「は、外れると思ってるならほっといてくれよ……」

「あぁそうだな。外れて早坂に嫌われちまえw」


 そんな言葉を吐き捨てて、飯島くんは立ち去っていった。

 ……クソ。

 ムカつく。

 でも僕が言い返したりすれば、報復が待ってるだけだ。

 だから大人しくしておくしかない。

 それが弱者の生存戦略ってヤツさ。


   ◇


 翌朝のことだった――


「――ちょっ、田沼っ!!」


 教室に登校した僕のもとに、すごく嬉しそうな顔で早坂さんが駆け寄ってきた。

 な、何事……?


「……どうかしたの?」

「どうかしたのじゃないって!! 田沼昨日っ、あたしに明日良いことが起こるって言ったじゃん!? 望んでたことが起こるって!!」

「あ、ああ言ったけど……それが?」

「マジであったの!! コレ!! ほら!!」


 そう言って早坂さんが見せ付けてきたのは――


「……ケルベロス?」


 三つ首の巨大な犬が、早坂さんちの庭と思しき場所で丸くなっている画像だった。

 スマホのディスプレイに映し出されている。


「この子ねっ、私が小学生のときくらいから飼い始めた愛犬でさ、でも去年からずっと行方不明だったの!! 間違って狩られちゃったのかなって思ってたんだけど、なんか知らんけど今朝になったら庭に帰ってきてて!!」

「おぉ……それは奇跡的だ……」

「でしょっ!! でっ、田沼はそれを言い当てたんだからすごない!?」


 ……どう考えてもただの偶然、だよね?

 とりあえず謙虚に行こう。


「いや……別にすごくないって。たまたまだよ」

「いやいや! ハッキリと『望んでたことが起こる』って言ったじゃん! 予言じゃん!!」


 早坂さんがそうやって騒ぐもんだから、他のクラスメイトがなになにと興味を持ち始めていた。


「いやみんな聞いてよ!! 田沼ヤバいって!! 占い当たる!! 気になってる人居たら見て貰った方がいいって!! ガチでヤバいよ!!」


 うわ……なんか評判が拡散されてる……。


 ――えー、じゃあ見てもらおっかな。

 ――あたしも。

 ――俺も頼むわ。


 などなど、今までにないくらいスポットが当たり始めている。


「……クソが」


 舌打ち混じりのその声は、遠巻きにこちらを眺める飯島くんのモノだった。

 面白く無さそうにゴミ箱を蹴り倒して、廊下に出て行ってしまう。


 ――うわ、飯島なにあいつ。

 ――顔いいからって調子乗ってるよね。

 ――あいつ顔抜いたらゴミだし。


 僕とは対極的に、飯島くんの評判が下がり始めていた。


   ◇


【田沼栄吉えいきち

隠しスキル:【予言】……現実的な範囲内において、言ったことが現実になる。

現状レベル:1

言霊実現度:低

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