第43話「ラスボス前哨戦」

颯真君、遥、海斗君は、私、お母さんとたっぷり楽しく話し、帰って行った。

ファーストインプレッションが良かったのか、

お母さんは、颯真君をたいそう気に入ったらしい。


「ねえ、凛。颯真君って最高ね!」


「そ、そう?」


「ええ! 見せて貰った写真で分かっていたけれど、海斗君に勝るとも劣らないイケメンで、背が高くて、外見はクールなイメージだけど、内面は優しくて温かい。バスケットボールをやっていたスポーツマンで成績も優秀。全てにおいて完璧じゃない! 悪いけど、貴女にはもったいないかも」


おお、お母さん、颯真君に大絶賛の嵐。

でも、最後のセリフだけは余計だぞ。


「何、それ、私にはもったいないって! ひっど! お母さんたらあ」


「あはははは!」


思いっきり高笑いするお母さん。


実の母親とは思えないほどの暴言さく裂……当然、冗談である。

本気だったら、……絶交なんだから!


という事で、早速ラスボスの『対お父さん作戦』発動である。


今日は残業だから、食事を外食で済ませ、お風呂に入って寝る……

と、お母さんは聞いている。


とりあえず、私はお母さんとともに『標的』を待つ。


……やがて、お父さんは帰宅した。

時間は午後10時過ぎ。


「ただいまあ!」


「お帰りい!」

「お帰りなさい、お父さん、お疲れ様です!」


お父さんは結構、勘が鋭い。


お母さんはともかく、姿勢を正して出迎えた私へ、

いぶかしげな眼差しを向けて来る。


「あれ? 何か、凛がいつもと違う、変だぞ?」


対して、私はすまし顔。


「いえ、何も変じゃないわ。遅くまで働いて来たお父さんをいたわるのは

娘の正しい務めですから」


「おいおい、何だ? 娘の正しい務め? ……気持ち悪いな。とりあえず、風呂に入ろう」


何よ!

お父さんったら!


う~。

気持ち悪いとは失礼な。


もう!

お母さんといい、お父さんといい、可愛い娘を何だと思ってるの?


と、口をとがらせた私だが、何とか耐えた。


そんな私を見て、お母さんは笑っていたのである。


しばし経って……お風呂から上がったお父さん。


お母さんと私は、攻撃をしかける。


「ちょっといいかしら? 貴方に私と凛から大事な話があります」

「お父さん、聞いてください」


「うわ! そういう事か? 何だい、改まって大事な話って、少し怖いぞ」


ここで、しばらくお母さんにお任せターン。


「いきなりですけど……凛のショッピングモール迷子事件、おぼえているでしょ?」


「ああ、はっきり憶えている。今だから、笑って話せるが、当時は焦った。確か、凛と同じくらいの男の子が助けてくれ、お礼を言いたくて捜したけど、見つからなかったよな?」


「ええ、そこまで憶えているのなら、話が早いです」


「話が早い?」


「その男の子、見つかったんですよ」


「え? 見つかった? ど、どこに?」


「凛の学校ですよ、それも同じクラスに」


「な、な、何~?」


「先日、転入生として凛のクラスに来た子なのよ」


「おいおいおいおい! そんな偶然、あるのか!?」


ここで私の出番だ。


「ええ、あるのよ。それでその子、岡林颯真おかばやし・そうま君って、いうの。彼、私の名前を憶えていたのよ」


「何? 本当か? 間違いじゃないのか?」


「いいえ、颯真君は当時の様子を詳しく話した上、こう言ったわ。『……ぼくもさ、ここで迷子になった事あるんだ』『お姉さんにお願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!』ってね」


「うお! ほ、本当に本当なんだな!」


「ええ、本当に本当! セリフの一言一句間違ってはいなかったよ」


ここでお母さんにバトンタッチ。


「それでね、その子、もう凛や遥ちゃんと仲が良いのよ」


「えええ? そ、そうなのか?」


「ええ、クラスメートとしてね」


「う、うむ、クラスメートか、ならばよし!」


ならばよし!

って、何?


変に安心したお父さん。


しかし、私と颯真君はクラスメートの垣根を超えたんだ。


ここで、お母さんの一方的な通告がさく裂!!


「という事で、10年前のお礼を言おうと思って、岡林颯真おかばやし・そうま君を呼んだから」


「ええええ!? よ、呼んだ? って、どこへ?」


きょどるお父さん。


お母さんはまたまたズバリ!


「どこへって、そんなの、当然、ウチに決まってるでしょ」


「はあ!? ウチ!? ウチへ来るのかあ、その子が!?」


「もう! 何よ、その反応」


「だ、だが、綾乃、いきなり!」


「いきなりって、お礼を言えず10年も経ってしまったのよ。とんでもなく遅いくらいじゃないの、違う?」


「ち、違くはない! だ、だが!」


「じゃあ、このまま放置しても良いの? 私達親子3人が、礼儀知らずだって、笑いものになってしまうわ!」


「むうう……」


「まずその岡林颯真君本人へお礼を言ってから、改めて、彼の親御さんにもお礼を申し上げに伺うわ。当然私たち親子3人全員でね」


きっぱり告げる、理路整然としたお母さんの物言い。


対して、たじたじのお父さん……絶対に反論出来ない。


私もいずれ、お母さんのようにしっかり者?になるのかなあ……

いや、なりたいけど。


複雑な思いの私をよそに、お母さんは『締め』に入る。


「次の土曜日、貴方が話しやすいように、遥ちゃんと海斗君も呼んだから! あのふたりは凛と仲が良くて、迷子事件の事も知ってるし、居れば貴方も颯真君と話しやすいでしょ」


「う、ううう……綾乃お!」


「と、いう事で、スケジュールを空けといて! 逃げたり、無理に仕事を入れたら、貴方を絶対に許しませんから!」


最後まで、きっちりとクロージングしたお母さんの前に、お父さんはたじたじ。

土曜日に、颯真君と会うのを、OKするしかなかったのである。

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