第33話「鉄は熱いうちに打て!」

翌日、私は元気良く登校した。


自分磨きを決意した日よりも、100倍元気良く登校したのだ。


なので今朝は1,000倍!

いや、10,000倍!

私は元気かもしれない。


どこへどうなっていたか、はっきりとは思い出せないが、何かで読んだ事がある。


人が恋愛をすると世界が変わる。

見える周囲の風景も全く変わってしまうと。


おいおい、景色が変わるわけないじゃないかと、突っ込みがあるかもしれない。


でも、変わってしまうというのは、確かにその通りだと思う。


初恋が成就した想いが、私の世界を変えてしまったから。


通い慣れた通学路が、

街並みが、

全てが、

とても素敵に感じてしまう。

呼吸する空気さえも、ひどく美味しく感じるのだ。


超が付く前向きな気分で教室に入り、

私は、ひときわ張りのある大きな声であいさつする。


「おはようございま~す!」


対して、


「おはよう!」

「おっはよう!」

「おっはあ!」


「おはようっ!」

「おっはようっす!」

「おっはあ!」


「凛、おはよう!」

「山脇、おっはよう!」

「おっはあ! 凛ちゃん!」


などと、クラスの半数以上が、打てば響けとばかりに、間を置かず

私へ元気にあいさつを返してくれた。


中には、苗字、下の名前などで呼んでくれるクラスメートも居た。


当然、親友の遥も私の下の名前だ。


「凛! おはよう!」


「おはよう! 遥!」


と、親友へぶんぶん!手を振った私。


そして、既に登校していた颯真君が、


「おはよう! 凛ちゃん!」


と明るく大きな張りのある声で、あいさつを返してくれた。


「おはようっ!」

「おはようっ!」


颯真君にならえしたのか、取り巻き女子たちも数人は私にあいさつを返してくれた。


もしかしたら、昨日起こった相原さんの事件について、

……昨日の私のように、

颯真君の体調を心配して、いろいろたずねていたのかもしれない。


でも、まずは元気にあいさつ、あいさつするのみ!


「おはようございます!!」


と、私も、いっそう元気良く!

颯真君と取り巻き女子たちへ、もう一度あいさつをしたのである。


お母さんのアドバイス、『自分磨き』……地道にコツコツやって良かった!


これからもず~っと!

一生続ける。


颯真君だって、「俺もやる!」と言ってくれた。


ふたりで一緒に自分磨きをするんだ!


あいさつだけじゃない。


このところ授業を一生懸命に聞き、勉強も頑張った結果は、はっきりと出ていた。


先日のテストでも、成績が『中の上』から、

『上の下』くらいになっていたのだ。


地味子でモブ、ぼっち気味だった私も、明るく前向きとなり、

徐々にクラスと溶け込んでいきつつある。


ただし、今の私の心には大きなよろこびとともに不安もある。


女子に大人気の颯真君と付き合いながら……

クラスの女子たちとも、上手く折り合えるのだろうか?

という不安だ……


でも颯真君が、


「そうなったら、俺がまた凛ちゃんを守る!」


と断言してくれた。

この約束を一生守ると、誓ってくれた。

凄く、嬉しい!


遥も同じ、


「凛とは良く言えば親友、悪く言えば『くされ縁だから』ね! 絶対に離さないよ!」


少し、毒舌で言ってくれた。


海斗君も、


「遥の親友は絶対に見捨てない!」


そう言ったと、遥経由で聞いた。


そんな声が私を、力強く後押ししてくれる。


私はにっこり笑顔で席についた。


相変わらず女子に囲まれ、颯真君は見えない。


でも、もう私は焦らない。


堂々と穏やかに。


昨日……颯真君との話の結果を遥に電話したら、

すぐ折り返しの電話が、彼女から、かかって来た。


そして、


「凛! 鉄は熱いうちに打て! すぐに4人全員集合で作戦会議よ!」


と、遥は言った。


「海斗の都合も、話もついたよ。明日は海斗、部活の午後練習が休みだから、颯真君を入れて、4人で会おう! 隣駅のハンバーガーショップはどう? 最寄りの店じゃないから、多分ウチの学校の生徒は居ないし!」


という、速攻段取りの提案だった。


私はすぐ颯真君へ電話。


遥の行動力に驚いていたけど、快くOKしてくれた。


という事で……

早速私たち4人は放課後会って、

隣駅のハンバーガーショップでお茶をしながら……


今後の『作戦会議』を行う事となったのである。

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