第14話「わお! 凛、どうするの?」

親友の遥に、お母さん

そして、はるかの彼氏、海斗かいと君にも協力は得たものの……

颯真そうま君へのアプローチ方法の名案は、

私も含め4人の誰も思い浮かばず、ただ時間だけが、むなしく過ぎて行った。


いつもの私ならば、そしてたったひとりならば、

めげて、諦めてしまったに違いない。


でも、私はくじけない。


せっかく、運命の再会を果たしたのだ。


このまま引き下がったら、絶対に後悔する。


10年もの長き間、温めた想いに決着をつけたい。


上手く行ってくださいと切に願い……


もしもダメで、失恋しても……

きっぱりとリセットして、新たなスタートを切るために、めどを立てたい。


今まで恋愛におくしていた私が、

本気で愛する人を見つけようと、決意出来るかもしれないから。


そして私には、励まし、応援してくれる人が3人も居る。

私のお母さん、親友の遥、遥の彼氏、海斗君。


今も、私の為に、日々忙しい中、いろいろと考えてくれている。


なので、私はアプローチ方法を考えるとともに、日々自分磨きにも取り組んだ。


素敵な笑顔……には、まったく自信がないけれど、

私なりの笑顔で、言葉遣ことばづかいを丁寧ていねいに、


そして、特にあいさつをしっかりやった。


毎朝、


「おはようございます!」


帰るときは、


「さようなら! 失礼します!」


聞き取りやすく大きな声で、はきはきと元気よくやるようにこころがけた。


すると、徐々に変化があらわれた。


私自身が、あいさつするのに臆さなくなったのは勿論だが、

徐々に、あいさつを返してくれる人数が増えて来たのだ。


最初は、遥と数人のクラスメートだけだったのが……

どんどん増え、今やクラスの半分以上が、男女問わず、

私へあいさつを返してくれるようになった。


こうなると単純なもので、とても嬉しくなって来る。


だけど……

肝心の颯真君の反応は、今いちである。


最初こそ、明るく元気に、あいさつを返してくれたものの、

以降は、返したり、返してくれなかったり、まちまち。


その上、表情が硬い。


どうして?

なぜ……だろうか?


でも、めげない。

自分磨きはずっと続ける。

私はそう決意していたのである。


さてさて!

今日のランチは売店で菓子パンと缶コーヒーを買い、遥、海斗君と屋上に。


天気は今日も快晴。


頭上には真っ青な大パノラマが広がっている。

この素敵な風景を、いつか、青春を振り返る時の為、

今日もしっかりと、自分の心に刻んでおこう。


さてさて!

遠くに見える山並みを見ながら、食べるとランチはいっそう美味しい。


気持ちは最高にさわやか! 

……と言いたいけれど、初恋の方はやはり停滞中。


海斗かいと君という超強力な援軍も加わったけれど……

やはり颯真そうま君へのベストアプローチは浮かばない。


いいかげん、突撃しちゃえ、はっきりしちゃえ!

とか、遥は言うけれど、踏ん切りはつかない。


自分の中で、大事にして来た初恋の思い出。

それが、シャットダウンするのが怖いのかもしれない……


菓子パンを食べ終わり、缶コーヒーを飲んでいると、

その海斗君がひどく真剣な顔つきとなった。


何か、特別な話でもあるのだろうか?


りんちゃん」


「な、何?」


はるかも、海斗君の様子が気になるようだ。


「おいおい、海斗? どうしたの、いつにもなく真面目な顔して」


「おいおい、何言ってる? こら、遥。俺は基本、いつも真面目だろうが」


「あ、そうだった、ごめ~ん。まあ、基本的にはね。でも海斗はたまに、パリピになっちゃうけど」


「うっさい。……それより大事な話がある」


「大事な話?」


「ああ、凛ちゃんに大事な話だ」


海斗君が私に大事な話?

一体、何だろう?


「私に!?」


遥も気になるらしい。


「凛に? 何それ?」


「うん……」


と言い、海斗君は周囲をゆっくりと見回した。


他の生徒たちが話が聞かれないくらい離れている。

……のを確かめた上で話し始める。


「陸上部の仲間で、同じ学年の奴なんだけど……俺、遥とこうやって3人一緒に居た凛ちゃんを見て、あの子、誰? どんな子かって、何人かに聞いたらしい。

それで凛ちゃんの存在を知って、俺に、凛ちゃんって、彼氏が居るのか? って聞いて来たんだよ」


「え!?」


どういう事?

陸上部の人?


私は陸上部とは、全く接点はない。

海斗君以外の人は、同級生も、上級生も含め、知らない。


遥も大いに驚いた。


「え? 海斗、何それ? いきなりの問い合わせは?」


「ああ、言葉通りだ。……そいつ、凛ちゃんが気になるんだと」


知らない男子が私の事を気になる?


遥が、興味津々きょうみしんしんという感じで聞いて来る。


「わお! 凛、どうするの?」


いや、そんな事……初めて。


私はただただ戸惑う。


「どうするのって……私……」


そんな私の代わりに、遥が海斗君へズバズバ、突っ込んで行く。


「それで、海斗。その人、どういう人? 名前は?」


「ああ、名前は相原亮あいはら・りょうって、いうんだ」


「へえ、相原、亮さんか……知らないなあ。凛、知ってる?」


相原亮さん?

全然、知らない。


「ううん、知らない」


「まあ、知らないだろう。亮はこの学校で学年は一緒だけど、遥、凛ちゃんのクラスでもないし、俺のクラスでもない、違うクラスだからな」


「ふうん……違うクラスか。それで、海斗はどう答えたのよ?」


「ああ、無責任な事は言えないし、亮には『自分で聞けば』とは言ったよ」


「自分で聞けばって、うわ! 海斗ったら、丸投げだし、無難な答え!」


「仕方ないだろ。で、さ。そうは言ったが、亮にはまた聞かれそうな雰囲気なんだ、どう答えとけば良いかな、凛ちゃん」


遥と話していた海斗君は、私に向き直り、問いかけた。


でも、いきなりそんな話をされても……


「どうって……私、困る。相原さんって、知らない人だし」


そんな私に遥も同意。


「そうよ、海斗! それに知らない人から興味を持たれたら、凛と同じで、私だって困るよ」


「まあ、それはあっちもそうだ。だから俺を頼って来たんだろ」


お互い知らないから、共通の知り合いに問い合わせる。

確かに、しごく当然だとは思う……


私がつらつら考える傍らで、遥の突っ込みは続いて行く。


「ふうん……そうか。で、海斗から見て、相原さんって、どういう人?」


「ああ、それは俺が保証する。どっかのゲームじゃないけど、悪い奴じゃないよ」


「悪い奴じゃないよ? 何それ? どっかの魔物じゃないんだからさ、相原さんの性格、人柄とかは? 顔はどうなの?」


「ああ、俺も同じ部ってだけで、たまにお茶飲んでだべるくらい、そんなに深い付き合いじゃないんだ」


「そうなの?」


「ああ、しかし、俺の知る限り、亮は真面目だし、礼儀正しい。思いやりがあって、男女問わず優しい奴さ。俺とはやる競技が違うけど、良きライバルだと思ってる」


「分かった! じゃあ顔は顔、かっこいいの?」


「何だよ、遥は。根掘り葉掘り聞いた挙句、顔かい? しょ~がね~な」


苦笑した海斗君は、自分のスマホに撮影した写真を見せてくれた。


スマホには……陸上部のメンバーで写したらしい写真があった。

どこかの競技場らしくトラックでの写真だった。

陸上部員らしい男子数人が、海斗君と一緒に写っていた。


「こいつが、亮だよ」


海斗君が指さしたのは、笑顔が優しい雰囲気の長身の男子だった。


先に反応したのは、遥である。


「わあ、結構かっこいいじゃない。凄くもてそう、女子慣れしてそう」


うん、遥のファーストインプレッションに私も同意。


海斗君も苦笑して頷いた。


「ああ、亮は結構もてるよ。でも中学から、陸上ひとすじで、女子と付き合うのは後回しだった」


そうなんだ……陸上ひとすじかあ……

私は、写真の中で微笑む相原亮さんの顔をじっと見つめていた。

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