第10話「お邪魔虫だと思いながら、3人で遊ぶと凄く楽しい」

初恋の相手、颯真そうま君が、

私の名をはっきり呼び、大きな声であいさつしてくれた。


あいさつして、あいさつが返って来る、

日常では普通で、ありふれた平凡な風景だろう。


でもでもっ!


相手は私にとっては特別な相手。

初恋の人、颯真君。


なので、

やったあ! と、私は心の中でガッツポーズ!


あいさつで軽くなっていた心が、更にはずんだ。


スキップしながら、ルンルン気分で歩きたいところをぐっと我慢。


ちらと颯真君を見たら、やはりクラス女子95%の壁で見えない。


ほんのちょっとがっかりしたが、さっきの幸運が心を染めているから、

ダメージは皆無に等しい。


今度はちらっと、遥を見たら、

笑顔の彼女は私へ向かい、『やったね!のVサイン』を送っていた。


そんなこんなの『ウキウキ気分』で、午前の授業が始まった。


隣をチラ見したら、颯真そうま君は真剣な表情で授業に集中していた。


うお!

結構、真面目なんだあ!


そういえば……昨日、お母さんは恋のアドバイスをしてくれた後、

世の親たちと同じように、こちらも「くぎを刺す」のを忘れなかった。


「それと……」


「え? それと?」


「ええ、りん、恋愛も良いけど、貴女は高校生よ。学校の勉強も一生懸命に頑張ってね」と。


……前述したが、私は、学年で成績は中の上。

真ん中よりも少しだけ上の成績。


これって、良くも悪くもなく普通って事?


という事で、何とか、叱られずに済んでいる。

けれど、「もう少し頑張りなさい」とお母さんから言われたのだ。


ちなみに娘に大甘おおあまのお父さんからは、

「勉強しなさい」と言われた事がない。

「お前のやりたい事をやりなさい。後悔しないように」

とだけ、言われている。


さてさて!

勉強と聞くと、いつもネガティブになるけれど、今日の私は違う。


あいさつを返して颯真君が隣に居るし、彼が勉強しているのを見て、

大いに刺激を受けた。


なので、心が弾んで前向きMAX!

集中力抜群で、やる気満々!


いつもなら、とっても長く感じる授業時間が、とても短く感じられ、

あっという間に……午前の授業が終わったのである。


……午前の授業が終わり、午後の授業が始まるまでお昼休み、ランチタイム。


生徒たちは学食か、売店へ行く。


学食は、食券を購入し、好きな料理と引き換え。

売店は、コンビニ風で、お弁当、パンを売っている。

当然、文具他の商品も取り扱っていた。


「ちら」とさりげなく、隣の席を見れば、

例によってクラス女子95%の大群に囲まれた颯真そうま君。


転入した昨日は、彼女達と大が付く『集団ランチ』であった。

今日も……多分、そうだろう。


フレンドリーな颯真君は、勇気ある男子たちが混ざりたいと来てもウエルカム。


クラス女子達も、それは仕方ないと許可せざるをえない。


お邪魔虫となった男子たちのその後がどうなるのか、

女子たちの恨みは、と~っても怖そうであるが。


一方の私。

颯真君へのベストなアプローチ方法は、相変わらず思い浮かばないし、

95%のクラス女子達へ、真っ向から突撃する勇気も、勿論ない。


それに、今日は『先約』があるのだ。


「お~い! 凛!」


笑顔のはるかが、親友が手を振っている。


「ねえ、りん、ランチ、行こっ! 今日は学食かなっ!」


「了解!」


誘われた私は、元気に返事をして、遥と合流し、廊下へ出た。


そこには……隣のクラスのさわやか男子、松本海斗まつもと・かいと君が、

はるか同様に、これまた笑顔で手を振っていた。


そう! 海斗かいと君は遥のステディーな彼氏。


クールな颯真そうま君とはタイプの違う熱血のイケメンで、1年生ながら

陸上部の次期エース。


成績も優秀で、いっつも学年ベスト5に入っている。

そして、次期生徒会長の、最有力候補とも噂されていた。


海斗かいと君は中学生2年生の頃から、はるかとは相思相愛の間柄。

現在、学校では有名なカップルなのだ。


それなのに、遥は3人でランチをしようと、私を良く誘う。


「完全に、お邪魔虫じゃまむしでしょ、私」


そう抗議しても、遥は


「今更だよ! 全然、構わない。いつでもウエルカ~ム!」


と、ケラケラ笑う。


海斗君も、さわやかな笑顔で、


「遥の親友のりんちゃんなら、いつでも大歓迎だ」


と言う。


そんな私は、遥とともに海斗君の秘密も共有している。


海斗君は、見た目と違い、結構なアニメ、マンガの『おたく』なのだ。

その性癖せいへきを海斗君は一部の人にしかオープンにしていない。


海斗君はく、暗いとか、キモイとか、うるさい事を言う人が、何人も居るのだそうだ。


遥も私ほど『おたく』ではないが、アニメとマンガは大好き。


という事で、アニメとマンガの聖地『楽葉原』へもたまに3人で遊びに行く。


お邪魔虫だと思いながら、3人で遊ぶと凄く楽しい。


こうやって、遊んでもらっているから、

私は、恋愛に本気になれなかったのかもしれない。


という事で、3人は学食の一角に陣取り、ランチ。


私は、カレーライス。

遥は、しょうが焼き定食。

海斗君は、焼き鮭定食。


メニューはバラバラ、各自思い思いのモノを食べるのだった。

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