第2話「良く憶えてるよ、俺!」

当然だけど、その後……両親と一緒にいろいろと探したが、

私を助けてくれた男の子とは、会う事はかなわなかった。


特に迷子事件?のあったショッピングモールに行った時は、

周囲をきょろきょろ見るようになったが、

結局、これまで男の子に再び会う事はなかったのだ。


そして10年という、長い月日が流れた。


改めて思う。


生まれてから16年間、彼氏が居ないのは、私が地味なだけではなく、

とても奥手で、恋愛に積極的ではないのかもしれないと。


そして、助けてくれた、あの男の子に再び会うまではと淡い期待を持ち続け、

他の男の子には、全く目が向かなかったのだ。


元々、男子が苦手だったし、手を握ったのは初恋のあの子だけ。


違うクラスに居る幼なじみで親友の田之上遥たのうえ・はるかからも、


「あのさ、いつまで初恋を引きずっているのよ。りんはもう少し、恋愛に積極的になった方が良いよお!」


と呆れられる始末。


でも、いいや。

初恋はもう経験しているし。


だから私だって、恋は出来る女子だもの。


もしもあの男の子と再会出来なくとも、

いつかは、彼に匹敵する素敵な相手と巡り合うはず……

と、おたくの私は、ラノベやアニメ世界の恋愛ストーリーに自分を重ね、

楽しんでいた。


え?

貴女は、すっごく、いたい子だって?


ええ、それは充分に自覚してますって。


そんなある日。


「ウチのクラスへ転入生が来るらしい」という情報を誰かが仕入れた。


わあ、きゃあと教室が盛り上がる中、

担任の里谷先生女性教師が、ホームルームの時間に、

長身な男子の転入生を伴って、教室に現れた。


「おはようございます! 今日は、皆さんに転入生を紹介しまあす!」


同時に女子たちが「きゃ~っ!」と絶叫。

逆に男子たちは「なんだ、男かあ」とつまんなそうにそっぽを向いた。


私が、さりげなく、転入生を見たら、

彼は背が高くて180㎝近く、すらっとして足が長い。


髪は短めで、顔が小さく、鼻筋は通っている。

きりっとクールな雰囲気で一応カッコいいとは思った。


何か、スポーツでもやっていたのかなって感じ。

人気が出て、モテそうなタイプかも……


そこまで観察して、私は視線を外した。


「じゃあ、岡林君、皆に自己紹介してくれるかな?」


里谷先生に促され、転入生は声を張り上げる。


「はいっ! 岡林颯真おかばやし・そうまです。A市から引っ越して来ました。宜しくお願いします」


ふうん……岡林颯真おかばやし・そうま君かあ。


あらら、颯真君、顔立ちだけではなく、アニメの声優みたいに声も凄く綺麗だ。

これは絶対に、女子に人気が出るなあ。


案の定、女子たちの「きゃあ」「きゃあ」がますます大きくなった。


一方、男子達は面白くないみたい。


けっ、とか、ちっ、とかいう声と舌打ちが聞こえて来る。


そんなクラスの雰囲気を華麗にスルーし、里谷先生は着席している私たちを一瞥した。


「ええっと、岡林颯真君の席はっと、どこがいいかしら? ……あら、山脇さんの隣が空いてるわ」


ええ?

おいおい、里谷先生、私の隣の席を指名するの!?


もしや? と思っていたけど……私の隣席は、偶然空いていた。


先月、転校していった男子が座っていた席なのだ。


ちなみに転校していった男子は、当然、私とは単なるクラスメート。

深い間柄ではない。


颯真君が、里谷先生へ尋ねる。

気のせいか、ちょっとどぎまぎしている感じだ。


「えええ!? せ、先生!! あ、あの!! や、山脇さんって誰ですか!?」


「ほら、あの子が山脇凜さんよ。隣の席が空いているでしょ?」


里谷先生が私を指さし、隣席が空いている事も告げた。


「おおっ!! 彼女が山脇……凜さんかあ!! わっかりました!!」


颯真君、何故かびっくりした表情をして、私をフルネームで言い、


「いやあ、本当に驚いたよ。こんな事もあるんだなあ!!」


などと意味不明の事を言っている。

彼は、何に驚いているのだろう?

全く、意味が分からない。


一方、岡林颯真君が、私の隣に座ると聞き、女子たちが、


「ええ~っ!? 山脇の隣ぃ!? 何でえ?」


と不満の大きな声を上げた。


もお!

しょ~がないじゃないの。


颯真君をひとりのぼっちで座らせるわけにはいかないじゃない。

結局、クラスメートの『誰か』の隣に座る事になるのよ。


そもそも!

私が颯真君の隣を望んだわけじゃない!

単なる偶然なんだもの。


そんな事をつらつらと考えていたら、颯真そうま君はすっすっと歩いて来た。


そして私の目の前に立ち、声をかけて来る。


「ええっと、山脇さん」


颯真君から声をかけられた私は一応、礼儀上、起立。


男子が苦手といっても、私はさすがにもう高1。

あいさつぐらいは出来るのだ。


「はい、初めまして、山脇凛やまわき・りんです。宜しくお願いします」


私が名乗ると、颯真君はじ~っと私を見つめた。


改めて見ても、やはり颯真君はイケメン。


鼻筋が通っていて、目は切れ長で瞳はキレイなブラウン。

唇が薄い……


物腰が落ち着いていて、遠くから見た第一印象同様、クールな男子って感じ。


その颯真君がいきなり爆弾発言!


「いやいや、多分、初めましてじゃないよ」


「え!?」


「多分、初めましてじゃないよ」って、どういう意味なの!?


目を真ん丸にして、驚く私をじいっと見つめ、


「成る程。君が山脇凛さんなのかあ。良~くおぼえてるよ、俺!」


「え!? えええええ!!?? よ、良~く、お、憶えてるって!? な、何!?」


びっくりして発した私の大声に釣られ、教室はざわめき始める。


「ああ、そうさ、もう一度言うよ。俺と君。初めまして、じゃない」


「私と貴方が、初めまして、じゃない? 何ですか、それ?」


「実は俺さ、凛さんとは、以前にった事があるんだよ」


?????

こ、この人と、以前に逢った事がある???


いやいや、全然、心当たりがないですけど……


「ええっ、貴方が!? 以前に、わ、私とった事がある!? まさかあ!?」 


「いや、本当さ。ただ万が一間違っていたらごめん。……おぼえているかな?」


「えええ? 憶えているって、何を?」


声を振り絞って問いただす私へ、颯真君はいきなり声色を変え、


「ぼくもさ、迷子になった事あるんだよ」


「え!?」


「その時、ここのお姉さんに助けて貰った」


「………………………………………」


「だからさ、お願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!」


と、完全に子供になりきり、言い放った。


「な!? ええええええ~~っっ!!??」


とても驚いた!!


否、とても驚いたなんてものじゃない!!!


そ、そのセリフ!?

当然!! 私だっておぼえている!!


何という!!!

何という、衝撃の展開!!!


いきなり!!!

突然!!!

大サプライズ!!!


ショッピングモールで私を助けてくれた、

初恋の相手との運命的な『再会』の瞬間だった。


転入生の岡林颯真君は……

あの時、名前を告げず、かっこよく去った男の子――

つまり!! 私の初恋の相手だったのだ!!


私はとても驚き、ホームルームの最中なのに、つい大声をあげてしまう。


「あ、あ、あ、あの時の!!!」


「おう! ショッピングモールの事をおぼえていたかい? 10年前のあの時、君は係りのお姉さんへ名前を言っただろ?」


「え、ええ!! い、言ったわ!!」


「君の手をひいて、係りのお姉さんの所へ連れて行ったガキンチョが俺だよ。迷子になった山脇凛さん!」


颯真君はそう言うと、いたずらっぽく、ウインクしたのである。

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