悪役令嬢が救った世界でヒロインに転生していた私は、国外追放されたので隣国の危機を『聖女』の力で救います

温故知新

第1話

「……はっ!!」

「お嬢様!!」



 高熱に魘された私アリア・キャンベラは、見慣れた天蓋と涙に堪えている侍女の顔を視界に入れると大きく息を吐く。


(そうだ。私、お母様とのお茶会中に倒れたんだ)



「お嬢様。旦那様と奥様、そしてお医者様を連れて参りますね」

「うっ、うん。よろしく」



 涙を拭いて笑顔で部屋を出ていく侍女。

 そんな彼女の背中を見送った私は、深く溜息をついた。



「それにしても、まさか前世でプレイしていた乙女ゲー『チューリップ国の聖女様』のヒロインに転生していたなんて」



 突然の高熱に魘された私は前世を思い出した。


 前世の私が社畜のアラサーで、休みの日は数多の乙女ゲーをプレイし、色んなキャラ達と恋愛を楽しんでいたことを。


 まぁ、そのお陰でリアルでの恋愛を楽しむ機会に恵まれなかったけど。


 その私が最初に嵌った乙女ゲーが、『チューリップ国の聖女様』だった。

 聖魔法に目覚めた元平民のヒロインが、悪役令嬢からの嫌がらせに堪えつつ、4人のヒーロー達と交流を深めていくという王道ストーリーでありながらも、やりごたえ要素盛り沢山の乙女ゲーだ。


 特に、キャラストーリーはどれも泣ける内容で……あぁ、思い出すだけで涙が。



「でも、前世の記憶が戻ったところで、今更遅いんだよね~」



 ゆっくりと起き上がった私は、枕元にあった新聞に手を伸ばす。

 そこには『聖女レベッカ、またもや国の窮地を救う』と大きく書かれていた。


 そう、ゲームでは悪役令嬢のレベッカが、この世界では聖女として扱われている。

 というのも、聖魔法に目覚めた私がキャンベラ侯爵令嬢として学園に入学前、レベッカがヒーロー達と共にゲームのラスボスだった魔王を倒した……というより、和解をしていた。

 つまり、ゲームが始まる前にレベッカがヒロインに代わって全て終わらせてしまったのだ。

 これにより、本来アリアが賜るはずの『聖女』という称号をレベッカが賜った。



「国を挙げて『聖女』レベッカを祀り上げたお陰で、貴族としての私の生活はとても穏やかだったわ」



 ゲームでヒロインがやっていた慈善活動も率先してやっていたというし……というか、ヒロインより先に悪役令嬢が聖魔法に目覚めるって何!?

 そんな設定あった!?



「そもそもその悪役令嬢、絶対私と同じ転生者よね!?」



 そうじゃなかったら、悪役令嬢が『聖女』の称号を貰うはずがない!


 深い溜息をついた私は、新聞を元の場所に戻すと体を伸ばす。



「でもまぁ、悪役令嬢のお陰で国は救われたし、私はレベッカに虐められない学園生活を過ごせた。あとは、ヒーローの誰かがレベッカにプロポーズするだけね」



 ゲームの終盤、国を救ったヒロインは国王陛下から『聖女』の称号を賜り、その翌日に行われた学園の卒業パーティーで、ヒーロー達が悪役令嬢の今までの悪行を告発。

 これにより、聖女に危害を加えたとして悪役令嬢は断罪されて国外追放。

 そして、その場で親密度が一番高いヒーローがヒロインにプロポーズしてハッピーエンド。


 とてもベタな終わり方だったけど、あの時の神スチルは最高だったなぁ。



「だとしたら、私はレベッカに選ばれなかったヒーローの誰かと婚約するのかしら?」



 一応、私もレベッカと同じ貴重な聖魔法使いだし、保護すると意味でも政略結婚的なものはあるかも。



「でもなぁ、ヒーロー達は全員レベッカにガチ恋していたから最悪の場合、ハーレムエンドになるかも……って、一夫一妻制のチューリップ王国ではありえないわね!」



 そうよ、一夫一妻制がルールのこの国で『ハーレムエンド』なんて起きるはずがない!


 そんなことを考えて一安心していたからだろう。


 レベッカのお陰で穏やかな生活を送っていた自分が、まさか断罪される立場になるとは。

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