第7話 2年8組、始動

 あの出来事から数分経った。

 廊下にはまだギャラリーがいる。もちろん、僕らの様子を観察するためだろう。

 ほんと、たくさんの人に見られるのは嫌いだからやめてほしい。


 だが、あれ以降何にも起こっていない。

 すると、僕らお馴染みの楠木先生が入ってくる。

 どうやら今年も担任のようである。


「あの先生可愛くね?」


「やっべ、凄いタイプ」


 知らない顔の同級生が言っている。

 恐らく、彼らは彼女にするなら年上!と答えるのではないだろうか。


「はーい、座って〜、LHRを始めるわよ〜。廊下の子たちもLHR始まると思うから自分のクラスに戻ってね〜」


「「「はーい」」」


 廊下の人たちはずらずらと自分の教室へ戻っていき、あっという間に廊下はもぬけの殼になった。

 前と変わらず、ちゃんとした学校が作れそうだなー、と、僕は安心していた。


「じゃあLHRを始めるわね!」


「それじゃあ、まずは1学期の予定なのですが、学校合併したのでね、みんなお楽しみ、予告通り元他校の生徒との親睦を深めると言うことで軽い修学旅行があります!」


「いぇーい!」


「ふぅー!」


 1人はまた同じクラスの陽キャで、一人は知らない恐らく陽キャである。

 『なんかもう割と仲良くなってね?』なんて思ったりした。


「そして、その後中間テスト、そこから文化祭です! 2年生の文化祭では出店をして貰います! みんなで頑張りましょう!」


「何する?」


「お化け屋敷とか?」


「いやガキかよ!」


 軽い笑いが起きる。

 てか、陽キャ2人既に意気投合してるなぁ…羨ましい。


「はいはい! 静かにね! そこから期末テストですね! 今学期はこんな流れです! 頑張っていきましょう!」


「おー!」


 と言うことで、2年8組のスタートである。


 それから委員会や係などを決めた。僕は去年の経験から一番人と関わることの少ないだろうと思われる理科係に立候補するが、恒例の如くジャンケンで敗北し、配布係になってしまった。主な仕事は、返却物を本人に返すと言うことである。と言うことはがっつり人と関わることになる。最悪だ。

 メンバーを見ると、三日月さんの名前もあった。彼女の方を見てみると、下を向いて落ち込んでいた。彼女もジャンケンに負けたのだろうか。でも、彼女と一緒ならまだマシかと思えた。


 それから手紙の配布や時間が余ったので先生の自己紹介などで初日の学校は放課後を迎えた。


「なるっち、帰ろーぜ」


 いつもこうやって誘ってくれる颯太には感謝である。まぁ、直接言うことはしないんだが。


「おう〜」


 それから、三日月さんの席の前を通る時に彼女の方を見るとバッチリ目が合ってしまう。

 そして僕は咄嗟に軽く会釈する。すると、彼女も僕に合わせて軽く会釈してくれた。


 横にいる颯太は『そもそも、なんでこの2人は知り合っているんだろう?』と、その光景を見ながら首を傾げているのであった。


 それから僕は帰路に着く。

 学校を出るまでは


「いやー、ほんと最悪だわぁ〜」


「なるっち、本当にジャンケン弱いよね…」


「うっせ」


「まあ、俺はHR委員だからなぁ…、こっちの方が大変だろ?」


「いや、そんなに人と話す機会なさそうだからそっちがいい」


 配布係になるぐらいならそっちの方がましだと本気で思った。


「まじか、なるっちは、とことん人と話すことを嫌うよな。変えたくても努力しないと変わらないぞ?」


「分かってるけど…」





 思い出す。

 小学校の頃、仲の良かった親友に裏切られ、大人数の前で恥を晒した。


「僕を見るな…。僕をみるな!」


 それから僕は人と関わることが嫌になったのである。


 これ以上はもう思い出したく無いので、またの機会に語るとしよう。





「なるっち?」


 釈然としている僕を心配するのか、少し声のトーンが下がって聞こえた。


「すまんすまん、なんだ親友?」

 

 颯太は周りを見て人のいないことを確認したら、


「なるっち、あの子とどんな関係だ?」


 正直に言うべきか、言わないべきか、悩んだ末に出した答えが


「……あの子が旅館で会った子だよ…」


 僕は随分と颯太を信頼していると思う。

 だから、こんな秘密も喋れてしまう。

 裏切られたら‥とかも思うが、流石に無いと信じている。


「え、うそん? じゃあなるっちの好きな人!?!?」


 僕は馬鹿正直に頷く。

 颯太はびっくりし過ぎてか、目と口を大きく開けてその場に固まってしまうのであった。

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