第2話 美優さんの真実

 あれから僕は美少女の部屋にやってきていた。前も言ったが、もちろん旅館の。

 目の前で美少女のお母さんと、美少女さんでタンスやカバンをひっくり返して、絆創膏を探しているようだ。


「あの、そこまでしていただかなくて大丈夫ですよ?」


 僕は申し訳なくなってそう言う。


「いえいえ、そんな訳には参りません。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません、お客様。もう少しお待ちください」


「そうです! 待ってて!」


「美優!」


 美少女のお母さんが怒鳴る。

 僕は全くなんで怒られてるのか見当がつかないが。


「ひっ! ごめんなさい…」


 美少女の方はかなり怯えていた。


 なんかこの家族、空気悪くないか…?


 そんなことを思いながら待つこと数分。


「あった!」


 そういって、美少女さんが治療キッドを取り出す。


「早く治療してあげなさいね」


 相変わらず怒った声で美少女さんのお母さんがそういう。だが、さっきに比べてはマシだった。

 すると、美少女のお母さんは思い出したように、


「申し訳ありませんお客様。うちの娘がフルーツ牛乳割ってしまったとのことでしたので、すぐに代わりのものを持ってきますね。美優、その人の治療任せたわよ」


 え、や、美少女と二人っきり? まって、神展開きちゃー!とか言う冗談はさておき、なんとかしてあげたいな。


「分かりました」


「それじゃあ頼んだわよ」


 そう言って、美少女さんのお母さんは出ていってしまった。


「なんか申し訳ないな…」


 僕はそう声を漏らすと、


「申し訳ないのはこっちだよ…。変なところも見せちゃったしね…。ちょっと痛むからね」


「うん」


 そう言ってちょんちょんと優しく傷口を綿で叩く。おそらく何かの薬を塗っているのだろう。

 それに、あんな酷いこと言われたのにニコニコ明るく振る舞っている。内心では母親にあんなこと言われて凄く傷ついているはずなのに。


「そういえばさ、自己紹介まだだよね?」


 突然、明るい声で美少女が言う。

 足の傷の方は綿を叩き終えて、絆創膏を貼ろうとしている段階である。


「私は三日月 美優みかづき みゆって言うの!」


 ん? その名前どこかで…。

 僕がうーんと考えていると、


「気づいてるかもしれないけど、私はこの三日月旅館で働いてるの」


 あー!そうだ、ここは三日月旅館だ。

 僕の中で合点がいくと同時に、こんな疑問を覚える。


 こんな若い子が高校も行かないで働いているのだろうか?


「あ、働いてると言ってもね。お手伝いしてる程度なんだけどね」


 僕の考えていることを見透かすかのようにそう言う。


 あ、なーんだ。


 と僕は安堵した。


「そうなんだね」


 そう言うと彼女はニコッと笑った。

 三日月さんの笑顔は可愛すぎて見惚れてしまっていた。

 本当に表情のコントロールが上手いと思う。


「そうそう。あなたの名前は?」


「大丈夫?」


 三日月さんが不安そうにこちらを見ている。

 僕はその声に何とか意識を取り戻すと、

 

「あ、ごめん! 大丈夫だよ。僕は鳴釜 蒼って言うんだ」


「鳴釜くんか! 珍しい苗字だね!」


「確かにそうかもね。同じ苗字の人見たことないよ」


 僕は笑いながら言う。それに釣られ三日月さんも笑う。


 そんなことを話していると、


 ガラガラガラ


 と、ドアが開き、


「美優、治療は終わったかしら」


 そう言って、美優さんのお母さんが帰ってくる。

 手には10本のフルーツ牛乳が握られていた。


「はい」


 三日月さんはさっきとは打って変わり、明らかに声のトーンが下がっていた。


「そう」


「すいません。わざわざありがとうございます」


「いえいえ、こちらこそ本当に申し訳ありません。お客様」


 そう言って10本のフルーツ牛乳を受け取る。

 

 なるほど、そう言うことか。これまでの美優さんの行動や表情から大体予想がついたな。そうなると僕のせいで三日月さんが可哀想になってくるな。なにかあんな感じで振る舞えないのも何か理由があるのだろうし。じゃあここは、可愛い美少女、美優さんのために1手打ってみるか。


「すいません、そろそろお暇させてもらいますね」


「本当にうちの娘が申し訳ありませんでした!」


「こら! 美優も頭を下げなさい!」


 そうして無理やり頭を下げさせられる美優さん。


「すいませんでした…」


「いえいえ…」


 そう言って部屋を出るふりをしてこっそりと耳をすます。そうすると予想通り、


「どう言うこと? 美優。まだ治せてないの?お客様に対して敬語を使いなさいって言ってるでしょ!?」


「ごめんなさい…」


 やっぱりそういうことか。三日月(美優)さんも従業員なんだ。やっぱり僕みたいなお客様には敬語を使わないと行かないはずなのに三日月(美優)さんはしてない。だから、怒られてるんだ。接客業としてよくないことだから。だから、あの従業員さんの変な眼差しもあったんだ。

 実際のところ、僕に対しては笑っていたのに三日月(美優)さんに対しては嫌悪の目で見ていたと言っても差し支えはないだろう。

 内情を察した僕は動くことにした。


 とは言ってもすることは単純。美優さんのお母さんに話すだけである。


 数分後、話し終えたであろう美優さんのお母さんが出てきた。フルーツ牛乳の方は、ポケットにたまたま入っていた袋に入れて、手にぶら下げている。


「すいません、少し時間よろしいですか?」


「はい、お客様。先程は本当にすいませんでした」


「いえいえ、こんな部屋の前ではあれですので、少し人の少ないところでもいいですか?」


「はい、構いませんが?」


 美優さんのお母さんは首を傾げながら承諾した。

 この時僕は部屋の中から聞こえてくる、啜り泣くような音を聞き逃してはいなかった。


 〜後書き〜


 どうもこんばんは!ともともです!

 おそらく本日の更新はこの話で終わりです!

 最初の方は特に頑張って時間を見つけて書いていくつもりなので、よろしくお願い致します^ ^

 最後に、もし作品の続きが少しでも気になった方がいらっしゃいましたら、応援、作品のフォロー、作品のお星様評価をよろしくお願い致します!

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