第3話、熱血全力少年、サークル活動のリーダーに抜擢される



はたして部長の話とはなんであったのか。

それを語るその前に、自身を改めて紹介しておこう。


オレは、都市近郊にある私立大学、日央学院大学の文理学部の一年生だ。

芸術学部で名を馳せる大学なだけあり、それに類するサークルに力が入れられているが。

先に述べた通り、超常現象研究会……いわゆる超研と呼ばれるサークルに属している。


『超研』は、一昔前には当たり前とされていた、人気のない日陰の、少人数で行うような部、というイメージは全くない。


文系か体育会系かと聞かれれば。

どちらかと言えば体育会系のサークルだろう。


しかも、国から超常現象について、調査を委託されている。

大学にとってもないがしろにはできない、まっとうな部だ。



一昔前までの扱いはそりゃひどいものだったと、泣く泣く部長に昔話を聞かされた記憶がある。

なんでも一昔前までは、科学的に解明できない不思議な出来事というのはほとんど表沙汰にならなかったらしい。


だけど今は違う。

世界の環境が著しく変化するように、世界各地で今までは思想の世界であそばせるしかなかった不思議なことが頻発するようになったのだ。


ちょっと前までは、責任ある国の機関が原因究明の調査をしていたのだが、あまりにも件数が多すぎて、手に負えなくなったらしい。


国から自治体へ、自治体から民間へ……ついには大学にまで下ってきた結果が今だ。

おかげさまでなのか。

世界の景気も、一時期のどん底期を脱して、今は安定している。


まさに不思議さまさま、と言ったところだろうか。

オレが『超研』を選んだ理由は、まずは何より部長のおかげであるが。

加えてオレには芸術的センスというものが皆無だったことと。

謎やら、不思議、未知といったものを追うのがとにかく好きだったこと。

そして、大学生活で出会いを求めるのならば、たいていはサークル、一歩譲ってゼミだと聞かされていて。

サークル見学に来てみたら、意外と美人が多かったから。

なんて理由が挙げられる。


その気もないくせにとは思うが、ある意味それも本能ではあるのだろうけど。

そんなサークルの主な活動は、一言で言うと実地体験だった。


実際に謎や不思議があるらしい場所へと赴き、その真意を確かめようというもので。

国内外問わず(だから部費が結構高い)年に六回、分かりやすいところで、だいたい給料日後にそれは行われていた。

大学版の研究色の強い、遠足……いや、冒険とでも言えばいいだろうか。


その場所を調査したり探し出したりするのは、実地体験の合間になるのだが。

特に部長は『当たり』を見つけてくるのがうまかった。

(それが、部長の部長たる所以だとも言えるが)


だから、たいていは部長がどこからか仕入れてきた場所になる。



部長の話というのはそのことだった。

今回の実地体験は、海外二ヵ所、国内一ヶ所らしい。

当然海外の方への希望が多かったけれど、厳正なるくじ引きの結果、オレは国内組のメンバーに入ることになっていた。


海外だと言葉とか食事とか面倒だからそれでもいいかなとは思っていたが、微妙なのはその行き先だった。

N県N市。

我が故郷の隣町にあるという、『三輪(みわ)ランド』。

近場の割には、めぐり合わせが悪かったのか、初めて聞く名だ。

それは、いわゆる大型テーマパーク、遊園地と呼ばれる場所で。


正確にはその跡地らしいが、海外組の名のある洞窟やら遺跡などと比べるといささか物足りないものを感じてしまう。



「随分と近場ですよね、海外と比べると。払ってるサークル費は一緒なのに」


そのことについて(ちゃっかり海外組に入っている)部長に尋ねると、至極あっさり驚愕の答えが返ってきた。


「ああ、そのことか。確かにロケーション的にはいまいちかもしれないが、どうもそこはきな臭くてな。実の所、『立禁』地域なのだよ。しかもレベルREDだ」

「え? マジでっ!?」


あまりと言えばあまりな言葉に、オレは思わず固まってしまった。

まぁ、嫌いじゃない先輩方を前にするとついタメ口をきいてしまうのは、オレの悪い癖ではあるんだけど。

さすがにこれは素で叫ばざるをえないだろう。


『立禁』ってのは言葉そのままで。

一般のものが立ち入り禁止されている場所のことだ。

その中でもREDと言えば最警戒レベル。

民間も含めたオレたちのような下働きの調査員ですら入れない、ということになっている。


基本的にそこに調査へ行けるのは、国の専門機関だけだ。

ようは、主要国道のようなもので。

数が多いからって仕事を丸投げする国でさえ、重い腰を上げる、それだけ手に負えない何かがあるってことなんだろう。



「一体、どんな裏技使ったんですか……」


聞きたくはなかったけど、聞かなくちゃならないんだろう。

オレはありえない事を息するみたいにやってのける部長に複雑なため息を吐き、そう問いかける。


「何、簡単なことさ。国の方々が見てみぬふりをして放置していたものを拝借してきただけだよ」

「……」


やっぱり思っていた通り、最悪だった。

うまく言葉を変えて曖昧にしてもくれない、どストレートの言葉。


「よく許可が下りましたね」

「ははは、何が起きても責任は持てませんって言われたよ」


笑い事じゃない。

笑い事じゃないが、そんなやばそうな所いけるか! と声高に主張できないのが、オレのどうしようもないところなんだろう。


せっかく払ったバカ高い部費がムダになる(返金不可)ってのもあるけれど。

『超研』に入って半年あまり、何度か実地体験をこなしてきたが、オレが行く場所に限って外れ、何も起こらなかった。


いや、そうではない。

きっと、オレには向いてないんだろう。

他のメンバーが気付いた不思議。

目撃した怪異、感じた未知への興奮と恐怖。


なのにオレだけがまるで蚊帳の外にいるように、それを実感できないのだ。

周りに合わせて驚いて頷いているだけ。

心内では、何を言ってんだ?って感じで。


オレはそれが、物凄く悔しかった。

何でオレだけ、次こそはっていつも思っていた。

非日常なことを体験できるのなら、命の危険に晒されてもいい、そんな風に思っていた。



「ま、問題ないさ。何せ今回のグループリーダーは雄太君、君だ。君の働きに期待しているよ」


すると、こういう時に限って、オレの考えてることなど知る由もない、といった感じで言葉を続ける部長。

それはつまり、オレがいるから何も起こらなくて安心、ということなのだろう。



「……本気なんですね、部長」


オレにそんな期待をしていいのか。本当に何も起こらないのか。

不安と期待が複雑に入り混じった思いで、オレは呟く。



「マジもマジ、大マジだよ」


すると、返ってきたのはおどけた調子のそんな言葉だった。

それに、オレは思わず溜息をついてしまう。

やっぱり、期待させといて今回も何も起こらないのかなって。



「だが、今回は雄太君にとって真の当たりかもしれないぞ?」


かと思うと、一体どっちなんだよって感じのセリフ。

からかうような声色に、自信ありげなイントネーションが混じる。


「……」


結局。

そこには、だったらいいなと、間違いなく期待しているオレがいて。

今日も今日とて、そんな感じに、部長にいいようにあしらわれるわけだが。



「それで、オレはそのことをほかの国内組のメンバーに通達すればいいんですか?」


そして、話を纏めるようにオレがそう言うと、何故か部長はお手上げのポーズをした。


「何を言ってる、ほかのメンバーにはとっくに伝えたよ。君が自分に酔ってる時にね。ほら、これが今回の実地体験のしおりだ。参加意思のあるものは、いつもの通り、いつもの日時、その朝に東京駅に集合、分かったかな?」


いつもの日時とは、いわゆる給料日の次の日のことだ。

確か、今月の給料日……二十日は銀行が休みである休日だから、給料を受け取るのは前倒しになって……ええと、つまり。二十日が実地試験の初日ということになるのだろう。


「雄太君は国内組のリーダーなのだから、しおりに沿って下調べをしてもらえると助かるな。まぁ、僕の作成したしおりに、ぬかりなどあるはずもないが」


そんな事を考えているオレを遮るように、部長は得意げにそんな事を言ってくる。

いつの間に、というよりこれはいくらなんでもぼっとしすぎだろ。


つまり、部長はオレだけのために二度手間をしてくれているわけで。

思わず、頭を抱えたくなる、この失態。



「返す返すすみません」


これは結構問題だなあと思いながら。

平身低頭しつつ、そのしおりを受け取るオレなのであった……。



    (第4話につづく)






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る