10 スタジアム

 「さぁ、無事に脱出したクローン二体にインタビューしてみましょう」

 悪趣味なスーツを着た男がこちらにマイクを向ける。

 「たくさんの質問がきています! 読み上げていきましょう」


 「ねぇ、今、君、どんな気持ち?」

 嘲笑。

 「人食った感想は?」

 嘲笑失笑。

 「見られてるってわかってて、あんなやらしいことしちゃうの?」

 嘲笑失笑爆笑。


 今まで手をひかれるままだったカナコが絶叫すると剣を振りかざした。

 俺も槌を振りかぶると、脳漿よ散れとばかりに振り下ろした。

 

 俺たちの攻撃は司会者の身体をすり抜けた。

 ホログラム映像のたぐいらしい。

 スタジアムらしき場所の中心で武器を無駄に振り回す俺たちに周囲の観客からブーイングが浴びせかけられた。


 「逃げよう!」

 俺はカナコに呼びかける。

 「逃げるってどこに?」

 彼女は悲しそうにこちらを見る。

 彼女の美しい黒髪は血でごわごわにかたまり、切れ長の目には涙があふれている。

 それでもカナコは美しい。

 この気持ちは俺のものだ。


 「どこにでも! 一日でも長く俺たちの思い出を紡ごう!」

 俺たちは扉に向かう。

 近づいてきた警備員はホログラムではなかった。

 

 俺は槌を振るってなぎはらう。

 「走ろう!」

 カナコがうなずく。

 俺たちは自由になる。

 いや、俺たちは自由だ。

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