2時間目 初めての仲間、初めての敵

 指定の体育館裏まで全速力で直行すると、見覚えのある女の子がそこにいました。

「やっほー、冬林くん! 来てくれてありがとうね。すっぽかされちゃったら、どうしようかと思っていたよ」

「み……水野さん? どうしてキミが……!」

 ぴょこぴょこ揺れる薄紫のリボンのついた三つ編み。好奇心の強い子猫のような表情。身長は僕の方が頭半分くらいは高いです。

「良かった! 今日は名前を覚えててくれたみたいだね」

 国立ウィル能力研究大学附属高等学校。通称、異能力バトル高校。僕らが通うこの学校は、盆地にあるなだらかな山の麓に造られています。

 体育館の裏手がその山で、地面の舗装は途中までで途切れていました。どこにでもある平凡な校舎と体育館の外形に、美しい山の緑が背景を添えています。

「それで水野さん。水野さんは僕に何の用事……?」

「んーとね。これ」

 息を整えながら訊ねると、僕の後ろの席の女の子、1年B組36番の水野さんは、にこにこしながら手に持った物を見せて来ます。

「……どうしてそれをキミが持っているのデショウカ?」

 名前は書いていないが間違いありません。

 彼女の右手にあるのは、見覚えのある英語のノートです。

「ごめんなさい。悪いとは思ったけど、教室移動があったでしょう? 最後まで残ってキミの机を調べた。凄いことが書かれててびっくり! あと凄くキレイな字!」

 キラキラした目で、水野さんは僕のことを見てきます。

 しかし、心が薄汚れていた僕は疑心暗鬼で一杯でした。


 ?????


「……何で、そんなことしようと思ったのさ」

「えっとね! 英語の授業中、上の空なんだけど集中してて。授業は全然聞いてない感じなのに一生懸命何かを書いてた。皆の板書と書く時の音もずれてたし」

「……それで何を書いてるか気になって確かめた?」

「うん! ごめんね」

「予想もしてないところに伏兵がいたよ……!」

 席の位置が反対だから、上田くんには見つからないだろうと油断してました。

 しかし、水野さんの手にある僕のノートをクラスで見せられてしまっては……

「どうしたの? この世の終わりみたいな顔をして」

「……うん。僕はどこでどう間違えて、死亡フラグを立ててしまっていたのかなと」

「変なの。とりあえず、これは返すね」

「……へ?」

 英語のノートを返されました。

「ごめんね。勝手に持って来て」

「いや、水野さん? 何で返すの?」

「む。人を泥棒扱いしないでよ! 失礼な」

 ぷっくりと頬を膨らませる水野さん。

「……じゃあ、どうして?」

「あのね、冬林くん。2人で協力してこの学校を平和にしよう!」

 真面目な表情になって、上目遣いで水野さんはそう続けてきます。

「…………はい?」

「木嶋先生から聞いたんだけど。この学校って酷い所なんだって! 超能力を持った生徒同士を喧嘩させて、せっかく入った学校から追い出すって!」

「……それは僕も聞いたけど」

「酷いよね!」

「……うん。酷い」

「何とかしよう!」

「……どういう風に?」

「この学校を平和にする! 生徒の喧嘩なんてないようにして、入学した皆が卒業までルンルン楽しい毎日を送れるようにします!」

「予想を遥かに上回る大きな野望が出て来たね……! でも、どうやって?」

「分かんない!」

「こら!」

「だから、一緒に考える仲間を探してたの! まずはクラスの誰かに声をかけたいなーと思ってたんだけど、上田くんがあんなことをしちゃったから!」

「あー……」

 現在、1年B組の雰囲気は最悪です。目立って問題児に目をつけられてはたまったものではないとばかりに、隣や近くの席同士でおしゃべりする光景すら稀でした。

「それで誰かに声をかけるキッカケを探してたところに、僕が変なことをしてるのに気付いたと?」

「うん。凄いよね!」

「……ちっとも全然凄くない。あのさ、水野さん。キミは上田くんをやっつけたいと思っているわけ?」

「クラスメイトにそんなことしちゃ駄目でしょう!」

「どっちなのさ!」

「だから、上田くんをやっつけたりはしないの! 上田くんに反省して、相坂くんや他の皆にも謝ってもらう。じゃないと、皆の不満がボーンってなって、戦争みたいになっちゃうし!」

「反省させるってどうやって! というか、戦争なんて大げさな……」

「こんな作戦考えた人が言っても説得力ありません! めっ!」

「ちょっ! 何で僕が怒られるのさ……って」気付きます。

「……そうか。これが僕に欠けていると言われた厨二成分という奴か!」

「失礼なことを言われてる――っ!?」

 ※ 違います。

 

 ?????


「……あのさ、水野さん」

「何よ」

「水野さんも今の上田くんをどうにかしたいとは思ってるわけだね?」

「違いますー。1年B組だけじゃなくて、この学校全体をどうにかしたいと思っているんですー!」

「……拗ねた口調になっちゃってるし。ごめんね?」

「謝ってくれるなら別にいいよ」

「……何故か上から目線だし」

 でも、どうしよう。この子、何となくウチの妹みたいで、ほっとけない……。

「学校全体をどうにかするってどうやって?」

「それはまだ分からない。でも、とりあえず上田くんのことを何とかしたいなーと思ってる。手始めに」

「手始めに?」

「知ってる? この学校の先生たちは本当は生徒に平和な生活を送って欲しいのだけど、上田くんみたいな子を止められなくて仕方なく能力バトルなんだって!」

「へ?」

「ウィル能力の効果って様々で、強くて戦闘向きの能力を身につけた子はどうしてもそうじゃない子をいじめてるって。だから、そういう悪い生徒たちをどうにかすれば……」

「ちょっと待って。僕が聞いてるのと微妙に違う気が……」

「? 冬林くんも何か聞いたの?」

「そうなんだけど……僕がお昼に聞いた話だと」

 その時でした。

《――競い合え。地上に降り立った魂たちよ》

 ……………………

「水野さん? 何か言った?」

「ふぇ? 何って?」

「……ごめん。何の話だったっけ?」

「むぅ。もういいです」

「え?」

「もういいって言いましたー!」

 気が付くと、水野さんはまたもぷっくりと拗ねた顔になっています。

「うわ、ごめん! 機嫌直して!」

「キミにご機嫌を取られる筋合いはありません! 何だよぉ、せっかくお話ができると思ってたのに上の空でさ!」

「あちゃー……!」

「いいもん! キミに手伝ってもらったりなんかしないもん! 悪いことしちゃ駄目だって上田くんを説得するのに心細いから、ついて来てもらおうと思ったのにさ!」

「え。説得するつもりだったの?」

「当たり前! キミみたく実力行使に出るのは、それが失敗した時の手段でーす!」

「……じゃあ、何で僕に声をかけたの?」

「上田くんを何とかしたいのは一緒だったから! それに悪い人じゃないと思ったんだもん! 怖い作戦を考えてるけど!」

「ん……」

「でも、いい! キミの力なんて借りません! だから――」

「だから?」

「私が失敗して返り討ちにあったなら、キミが上田くんを何とかしてね!」

「……ちょっと待った!」

 立ち去ろうとする水野さんを、思わず手を掴んで引き止めました。

「…………何?」

「いや、あのね……」

 ①水野さんを見捨てる。

 ②水野さんを助ける。

「何さ。これから作戦決行なんだから離してよ!」

「えーとね……」

(……放っておけ)

 心のどこかでは、そんな風な声もします。


 ――この学校のモットーは弱肉強食。生徒同士の潰し合いで弱い奴らをどんどん脱落させることを教育方針にしている、サバイバルでバトルロワイヤルな校風です。

 ――ここはいい子ちゃんが生き残れる環境じゃねーんだよ!


 正直、今の僕は自分のことだけで精一杯。誰かを助ける余裕はありません。だから――

「あのさ、水野さん」

「何なのよっ!」

「これあげる」

 返された英語のノートを水野さんに手渡しました。

「はえ? 何これ?」

「人質」

「ひとじち?」

「そ。僕が水野さんを裏切る真似をしたら、それを上田くんに渡してチクっていいよ。『へっへっへー。同じクラスの冬林って野郎がこんなことを企んでいましたぜ』って」

「な……! まさかこのノートにそんな使い道があっただなんて!」

「気付こうよ」

「あれ? でも、そう言ってくれるってことは!」

「うん。水野さん。……僕はキミの仲間になるよ」

「おおおおおおおおおおおおおっ!」

「……学校を良くするとか、そこまでは正直ついて行けないけどね。でも上田くんをどうにかするのに、僕も知恵を貸してくれる人がいると嬉しいし」

「なるほど! 期間限定の同盟だね」

「そ。上田くんの問題が片付いたら、また契約更新するかどうか考えよう」

「敷金や礼金は?」

「要りません」

「やったー! よろしくねー!」

 ぴょんぴょんとジャンプした水野さんが、ノートを持たない方の手で握手を求めて来ます。

(早まったかなー……?)

 それに苦笑いで応えながら内心ではすでに後悔が出始めています。でも――

(ここで女の子を見放したりしたら、ゆずちゃんだけじゃなく、父さん母さんにも顔向けが出来ないし……)

「よし! それでは改めてよろしく。冬林要くん!」

「よろしく。水野さ……ごめん。下の名前なんだっけ?」

「おだまきだよ。水野おだまき」

「……すっごいレアな名前だね。花の名前じゃなかったっけ?」

「うん。正解。派手ではないけど可愛い花だよ!」

 誇らしげに笑う水野さん。花言葉は確か――勝利の誓い。

 話をしながら考えました。

(何としてでも……どんな手段を使ってでも、この子は上田くんから遠ざけよう!)


 ?????


《優しいねー。でも、駄目だよ?》

「ん?」

《戦い競い合うために、キミたちはこの地に集まった。個々に与えた力と才能はキミたちの意志と意志をぶつけ合うためにこそ》

「……水野さん。何か言った?」

 疲れているせいでしょうか?

 先程から水野さん以外にも、かすかに女性の声が聞こえるような……。

「えーとね。坊主が屏風に上手にジョーンズの絵を描いた!」

「誰だよ、ジョーンズ!? というか、一瞬でどんな話題転換があったのさ!」

 叫んだ直後――

「あれ? お前ら、同じクラスだったよな?」

 上田竜二くんが登場でした。

「う、上田くん……? ドーシテココニ?」

 目付きが悪くて体格がいい我らがクラスの問題児。お山の大将。

 初日に茶渋くんをやっつけて病院送りにした、銃で撃てば普通に死ぬ上田くんが何故か突然この体育館裏に現れたのです。

「おう。てめえらの支配者、上田様だぜ! んー……自分でもよく分からないけどよ。変な電波を浴びたというか……」

「……でんぱ?」

「頭の中に女の声が聞こえて来たんだよ……。《体育館裏に行ってごらん? 面白いものが見られるよー》って」

「疲れてるんじゃない? 上田くんも地元じゃないでしょ? 環境が変わって身体が慣れていないかも知れないから、無理はしないほうがいいと思うよ」

「おお! 冬林くんって誰にでも親切なんだね! 見直した!」

「……あの。僕の名前を言わないでくれる?」

「何をぶつくさ言ってるんだ。えーと……冬ぴー?」

「……ああ、うん。僕の名前は冬ぴーダヨ」

 憶えられてる……。

《くくく》

「あっはっは……! ごめん。ちょっとだけ面白い……!」

「あ? 馬鹿笑いしてんじゃねーぞ。冬ぴーの後ろの女」

「む。クラスメイトにその言い方はひどいと思うよ?」

「ああーん? 女が偉そうなこと言うんじゃねえ! 文句があるならかかって来な」

「むぅ。穏便に説得しようと思ってたのに腹立つなー。そっちがそのつもりなら……!」

「冬ぴーチョップ!」

 ぺちこーん。

「あうっ!」

 緊急避難的な一撃でした。


 ?????


「ごめんね。上田くん。見苦しい所を見せちゃって」

「……こんな所で漫才の練習でもしてたのか、てめえらは?」

「いや、ちょっとこの子と2人で探検を。この学校ってどんな所かなーって」

「ほぅ。奇遇だな、オレもだよ」

 とっさの誤魔化しに、食いついて来ました。

「そっかー。やっぱり自分の通う所くらいは知りたいよねー。特に上田くんだったら、3年間余裕でこの学校にいられるだろうし」

「へぇ……。分かってるじゃねーか!」

「うんうん。強い人はいいよねー。僕らは全然弱っちいからさ、いつ学校を追い出されるか分かんない」

「へっ! 大変だなー、雑魚どもは」

「うん。正直、キミがうらやましい」

「そうかそうか。てめえらもせいぜい頑張れよ!」

「またねー」

「むぎゅぎゅぎゅぎゅ……!」

 僕が長年の修行で身につけた「ここはお兄ちゃんに任せて黙っていなさいオーラ」で、後ろの水野さんを制しつつ、上田くんを口先三寸で誤魔化すことに成功です。

《ありゃ? 丸め込まれちゃったよ》

「じゃあ、オレはもう行くから」

「へー、体育館の裏側は山みたいになってるんだね」

「おう。面白そうだよなー。じゃあな!」

 上機嫌になった上田くんが、手まで振って別れてくれます。

「また明日ねー」

《んーとね。上田くん?》

「あ? 何か言ったか?」

「? また明日って言っただけだけど……」

 しかし、何故か突然、不審そうに足を止めます。

「てめえじゃねえ。いやでも、そっちの女とも違ったような……」

《――そのノートを奪い取れ》


 ?????


《我が名は「フォルトゥーナ」》


「ん? 何だそのノート。ちょっと貸せ」

「へ……? うわっ!」

「きゃっ!」

 ずかずか無造作に近付いて来た上田くんが、水野さんの手からひったくります。

「えーと。何々……」

 ……パラパラと。真新しいノートのページがめくられて行く。

「…………」

 彼が目を通す数秒は、地獄のように長く感じられました。

「そうか、そういうことかよ……!」

 ノートを投げ捨て、顔を上げた上田くんの目には獰猛どうもうな光が宿っています。

「てめえら、2人でオレを倒す相談をしてやがったな!」

「……逃げるよ! 水野さん!」

「へ? きゃっ……!」

 水野さんの手を引いて、一目散に逃げ出しました。

《――さあ、戦いだよ。我が使徒よ。絶体絶命に追い詰められたその時こそ、キミという人間の本質が露わになる》


 ?????


 どこをどう走ったか憶えていません。気が付くと校舎の建物に入っていたようでした。

「……み、水野さん。大丈夫……?」

「うぎゅー……疲れたー……死ぬー……」

「ごめんね……引っ張り回しちゃって」

 年度毎に入学者数が違うため、この学校には使っていない教室がいくつもあります。その中の1つに身を隠し、どうにか一息をついていました。

「おらー! てめえら、どこに隠れたー!」

 部屋の外からは、怒りに満ちた上田くんの声。

「……さて。どうしようか、この状況……」

「むぅ。喧嘩なんてするつもりなかったのに。上田くんってば早とちり!」

「そうなんだけどね……。言い訳を聞いてもらえる状況じゃない……」

 入り口の前に机を積み上げ、バリケードのようにしておきました。

 時間稼ぎにはなると思うのですが、階は3階のため逃げ場がない。

「……さて。水野さん」

「どうするの?」

「何とかして上田くんを倒すか、和解するための方法を考えよう!」

「おお!」

 どうやって上田くんをやっつけるか? ~陰謀篇~


 ①自分で倒す。

 ②仲間を集めて皆で倒す。

 ③他の誰かに倒させる。


「まず③は真っ先に除外だね。このタイミングで都合良く、僕らを助けてくれるような人が出てくるとは思えない」

「んとねー。走ってる途中で、何人かとはすれ違ったよ。でも、後ろから上田くんが『待ちやがれー!』とか言うのを聞いた途端、皆サッと避けて隠れた」

「……見て見ぬフリか。仕方ない。同じ立場なら、僕も同じだったろうし……」

《シビアだねー》

「……でも、水野さん。よくそんなの観察してる余裕があったね?」

「えっへん。凄いでしょー!」

《……さてと。この子に与えた能力は確か……んー》

 ③他の誰かに倒させる。→×

「……となると、選択肢は1つだね」

「そうだねー。頑張ろう!」

 ②仲間を集めて皆で倒す。

「……あの、水野さん。つかぬことをお伺いしますけど」

「エロいこと?」

「違います! キミもこの学校の生徒だし、ウィル能力とやらを使えるんだよね?」

「そうでーす。水野おだまき15歳。れっきとした超能力の持ち主です!」


 1年B組36番 水野おだまき

 ウィル能力名 ????????


 ?????


「……その能力を使って、上田くんをどうにか出来る?」

「んー。難しいかも。実は私の能力って、戦闘や喧嘩には向いてない」

「……そっか。分かった。女の子に危険なことをやらせるわけにも行かないし」

「あれ? いつの間にか、保護者目線で見られてない?」

「そんなことはナイナイデス」

「おーら、てめえら! どこ行ったー!」

 上田くんの声が近づいています。

「今は上田くんを倒すのは諦めよう」

「決断早! でも、どうするの?」

「倒すのは無理でも、倒されないのは出来るかも知れない」

「つまり?」

「上田くんと休戦して、和解する方法を考える!」

《ほう》

「水野さんから見て、上田くんってどういう子に思えるかな?」

「そうだねー。喧嘩っ早い」

「うん。後は?」

「力とか強いのが自慢みたい。だから自分より強いと分かった人には、結構へこへこするんじゃないかって思う」

「なるほど……」

「あと、意外とズルイところもありそうな感じ。自分が痛い目に遭うかもってなったら、口では偉そうなことを言いながらも逃げちゃうかも……って、どうしたの?」

「……いや、別に」

 女の子ってたまにナチュラルで辛辣です。

「……でも、僕の観察とも大まかな感じは一緒かな。じゃあ、水野さん。作戦の方針は決まったよ」

「ほうほう」

《ほうほう》

「ハッタリかまして、上田くんをビビらせる!」


 ?????


「と言うと?」

「えーとね、水野さん。水野さんの能力は戦闘には使えないって言ったよね? その代わり、トリックとかには使えない?」

「どういうこと?」

「上田くんには、正確なキミの能力なんて分からないはずだよね? だから、何かトリックを仕掛けて、キミのを強くて危険な能力に見せかけるんだ!」

「ぶらふ?」

「ブラフ。そうやってびっくりさせれば、上田くんも頭が冷えてくれるかも知れない。『もしかして、コイツらはやべえのかも!』と思わせた後に――」

「なるほど。休戦を持ちかけるんだ!」

「その通り!」

「んー。でも正直、私の能力だとさ、そういう騙しにも使えないかもよ?」

「……僕も何か考えるよ。それで、あの、悪いんだけど」

「私の能力を見せればいいの?」

「……うん。嫌かも知れないけれど」

「嫌じゃないけど。でも、冬林くんの能力はどんなのなの?」

「いやその……僕の能力は何というか……」

「やっぱり後で! 楽しみは取っとく! すっごく面白い能力を持ってそうだし!」

「どうなんだろうね……」

《だろうねー? 今年まだ力を与えていないのはキミだけだけど》

「それじゃあ、冬林くん。私の能力をお見せしますよ、ずっぎゃーん!」

 がさごそ、と。

 制服のスカートのポケットに水野さんは手を入れて探ります。

(……頼む、神様。どんな些細なものでもいいから、この状況を打開できる能力であってくれ!)

 真摯な祈り。

《にやにやにや》

「私のウィル能力は――これだよ!」

「………………………………………………へ?」

 水野さんがポケットから取り出したのは、何と1本のスプーンでした。


 ?????

 

「あの、水野さん? それは何?」

「スプーンだよ。えっへん!」

 超能力。そしてスプーン。

 この2つの単語から連想したものが1つあります。

 恐る恐る訊ねた僕に、水野さんは誇らしげにえっへんと胸を張りました。

《お胸のサイズはそこそこだねー》

「……へえ。そうかー。これがスプーンというものかー。うん。スプーンだよね。どう見ても何の変哲もない、カレーやチャーハンを食べる時などに使う、ごく普通の西洋食器なスプーンだ……!」

《軽い現実逃避をしている模様です》

「……それで水野さん。その罪のないスプーンを、キミはこれからどうするわけ?」

《声に泣きが入っている感じです》

「ふふーん。見ててね。こうするのだよ、てえええええええ――い!」

 水野さんが気合を入れると、彼女が手に持つスプーンが淡い光で包まれ始めます。

 次の瞬間――


 彼女が誇らしげに構える固い金属のスプーンの先端が、飴細工でも熱したように、ひとりでに、ぐにゃりとへし曲がってしまったではありませんか!


「見ててくれた? このスプーン曲げこそが、私の使える能力だよ!」

「…………」

 僕が反応を返すには、たっぷり10秒以上の時間が必要でした。

「……ねえ、水野さん」

「何かな」

「水野さんの能力はスプーンを曲げるだけ?」

「うん」

「たとえば、自在に金属を操れるみたいな能力だったら、ここには机や椅子が一杯あって……」

「そういうのはちょっと出来ないなー」

「手に持ったものを何でも、ぐにゃりと曲げられるとかなら、上田くんをビビらせることも出来そうだけど……」

「んー。全然無理」

「……マジでスプーンを曲げるだけ?」

「曲げるだけ。やっぱり超能力と言ったらこれだよね! ここに入学するって決めた時から、是非ともスプーン曲げができるようになりたいなーと思っていたら……」

《叶えてあげました》

「ちなみに私はこの能力を【スプーン=マゲール】と呼んでるよ!」

「そのまんまやないかーい!」


 1年B組36番 水野おだまき

 ウィル能力名 【スプーン=マゲール】?

 効果 スプーンを曲げるだけ。


 ?????


「さあ、冬林くん! この私の能力を使って上田くんをどうにか出来そう?」

「ねえ、水野さん」

「なーに?」

「実は僕、この学校を卒業したら、実家に帰って妹を遊園地に連れて行ってあげると約束してるんだ……」

「どうして遠い目をして死亡フラグを立ててるの?」

「フラグも立つわああああああああああああああああああああ――っ!?」

「そこにいやがったか、てめえら!」

 居場所が上田くんにバレました。

「くっ……しまった!」

「バリケードがあるから、ちょっとはもつと思うんだけど……」

 水野さんの予想は当たりませんでした。

「おらっ! てめえら、覚悟しやがれ……って開かねえ!?」

「よし! そのままUターンだ!」

「帰れ帰れー」

《帰らせません。ほら、上田くん?》

「ちいっ! こうなったらオレのウィル能力の出番だぜ!」

 次の瞬間――と言っても2秒か3秒後。

 どごーんという衝撃がして。

 積み上げたバリケードがぐらぐらと揺らぎます。


 ?????


「な……!」

「もう1発!」

 さらに2秒か3秒後。

 どごーん!(2回目)

「何てこった! せっかく積み上げたバリケードが、今にも崩れそうになっているううううううううううううううううううううううううう――っ!?」

《変な解説台詞だねー》

「よし! もう1発でラストだぜ!」

 次の衝撃で完全に防壁は崩された……と言うか、扉ごと吹っ飛ばされました。

「くっくっく! 冬ぴー。それと後ろの女。ここがてめえらの墓場だぜ!」

 残忍な笑みを浮かべた上田くんが入室。

「……ああ、うん。駄目だ」

 また口先で誤魔化すことも考えましたが、彼の表情を見た途端無理だと確信。

「あの、上田くん……ごめんね?」

「ああ!? 今さら謝ったところで容赦しねーぞ、冬ぴー」

「……うん。キミが怒るのはもっともだ」

「てめえらもあのクソ生意気な茶渋野郎みたく病院送りにしてやるぜ! ひゃーはっはっはっはっは!」

「でも、上田くん。物は相談なんだけど」

「ああ? 命乞いか、こら!」

「うん。命乞い。――実は、キミをやっつける作戦を立てたのは僕なんだ。水野さんはたまたまあそこを通りがかってノートを拾ってくれただけ」

「ちょっ! 冬林くん……?」

「水野さんは黙ってて。僕に引っ張って来られただけでキミは関係ないんだから」

「むぎゅぎゅぎゅぎゅ……!」

 ここはお兄ちゃんに任せて黙っていなさいオーラを再発動!


 ?????


「だから、上田くん。お願いです。僕のことはいくら殴っても構わない……いや、ホントは痛いのは嫌だけど。大怪我して父さん母さん妹に心配かけるのも嫌だけど……。それでもどうか水野さんには何もしないで」

 クラスメイトの彼に向かって、僕は深々と頭を下げます。

《……あ。そういう隙を見せちゃうと……》

「うるせえよ。雑魚が」

「…………っ!?」

「冬林くん!?」

 ……がこん、と。後頭部に衝撃があり、僕は顔面から教室の床に突っ伏したようでした。

 痛みはなかったです。ただただ重い一撃でした。想定していた何倍もの衝撃で、中身の詰まったのうぶくろを、そのまま頭に叩き落とされでもしたかのような。

(ああ……まずい)

 失いかけていく意識の中で、僕はそんなことを思いました。

「何するのよ! 冬林くんに!」

「あ? コイツが殴っていいって言ったんだろうが。けっ! こういう格好つけた勘違い野郎を見ると反吐が出るぜ」

「むっかー! キミに冬林くんの何が分かるっていうの!」

「るせーぞ。このアマ。てめえもコイツみてえにしてやろうか?」

 痛みを感じないというよりも、意識を失いかけているのだなとぼんやり思います。

「許さない! こうなったら冬林くんに代わって、私がキミをやっつける!」

「……そのスプーンで何をする気だ、てめえは」

(水野さん……スプーンを2本持っていたのか……?)

 考えることはそれではないと分かっています。だけど、頭が働きません。

 世界が急に真っ暗で。2人の声だけが、遠い遠いラジオのように……。

《どうするのー?》

(うるさい……黙れ……)

《おや?》

「てりゃー! 突きー!」

「……ひょい」

「くっ! 避けられた! しかも、口で『ひょい』とか言われてる!?」

「そりゃ避けるわ。てめえ、喧嘩なんて全然駄目だろ?」

「したことないよ! 体育の成績だって授業だけは真面目に受けてたから、お情けで2をもらってたようなものだしね!」

「それでよくオレに突っかかってくる気になったよな! へっ! でも、それさえ分かっちまえば、こっちのもんよ。オレの能力で、一気に片をつけてやらあ!」

 ヒュンヒュン!


 ?????


「む……その動作」

「あ? 何だこら?」

「どうして上田くんは、何もないところをヒュンヒュンとパンチしてるの?」

「てめえを血祭りに上げる前の景気付けだぜ!」

「嘘じゃない? 今、冬林くんにパンチする前も、同じ動きをしてたじゃない」

「……何だと、てめえ」

「思い出した。相坂くんをやっつけた時も同じだった。つまり、そうやって何もない所をパンチするのが、キミのウィル能力を使う条件なんだ!」

「ちっ! 余計なことに気付きやがって……」

(あ……ヤバイ……)

《そうだね。ヤバイね。【友達リスト】に1追加。2ではない》

「てめえの言う通りだぜ! オレは何もない所を殴る度に、次の拳での攻撃の威力をアップさせる力を手に入れた。気に喰わねえ奴を思いっきりボコにしてやれるこの能力を、オレは【拳々けんけんはっ】と呼んでいる!」

「ださーい。格好悪ーい。センスなーい」

「……こん畜生! 女だから手加減してやろうかとも思ったが、彼氏もろともボッコボコの再起不能にしてやらあ!」

「彼氏じゃないもん! 学校を平和にするための仲間だもん!」

(水野さん。駄目だって……!)

 何とかしたいが、まったく身体が動きません。

(力が欲しい!)

 この学校に来て初めて、僕は心から思いました。

《よろしい! ならば、その望みを叶えましょう! ……と言うか、ここまで長引いたのは、キミが最長記録です》

 頭の中で謎の女性の声がします。

《さあ! この絶体絶命の状況でキミはどんな望みをする? それこそが、キミの意志。キミの本質。地上時間で10年以上生きて作られた、キミの魂の在り方だよ!》


 ?????


(……水野さんを)

《ん?》

(……いいえ。この学校でこんな風に困っている弱い子たちを助けてあげたいです)

《ほう》

(……そのためにはまず上田くんをやっつけないといけないですが、そんなに痛めつけなくていいです。最低限の怪我だけ負わせて追い払うくらいで結構です。

 この学校を制覇するとかビッグになるとか世界征服とか、そういう大げさな能力は要りません。僕のすぐ近くにいる大きな口を叩く割りには全然実力のない女の子と協力して、どうにかこの場を切り抜けられる程度の力で充分です)

《変に注文が細かいね! あんまし遠慮されたって、かえって調整が難しくて面倒な……》

(あと、僕が頭に負ったダメージを今すぐ治せ)

《命令形!?》


 ?????


(だって今のままだと、どんな能力に目覚めたところで意味ないでしょうが)

《いやー、でもそれは別口での注文になると言いますか》

(……僕がこんな風になったのは、あんたが変な干渉をしたからではないですか?)

《ぎくっ!》

(傷を治してくれるのなら、この件はチャラにしてあげます)

《うわー……タメの交渉をされちゃった。軽い気持ちでちょっかいかけたが、意外にタフな魂だったよ》

(いいから早く! 水野さんが危ないです……!)

《はいはーい。チュッ……♪》

 その瞬間、身体が温かい何かに包まれた気がしたのです。

「……っ! 上田くん。とりあえず、その拳を引っ込めて」

「冬林くん!」

「馬鹿なっ! オレの攻撃を喰らって、何故お前は立ち上がれる!?」

「……あれ? ホントだ、何でだろう?」

 気が付くと、身体が動くようになっていました。よろよろと立ち上がり、今の状況を確認します。

 僕を背中にかばうようにして、水野さんが立ち塞がってくれていました。手にはナイフのように握り締めたスプーン。(2本目)

 上田くんが振り上げている右拳はまばゆいほどの光量で、それでいて目には刺さらない不思議な輝きを帯びています。


 ?????


「【拳々発破】……パンチの威力を上げるウィル能力。フルパワーで喰らったら入院程度で済まないのかな……」

「ちっ! 意識があったのかよ。オレの能力を喰らって立ち上がったのは、冬ぴー。てめえが初めてだぜ!」

「……他の誰を今までキミは殴ったの?」

「てめえと相坂の野郎だぜ!」

「……あいさかくんって誰だっけ? そうか、僕で2人目か……」

「あの……冬林くん。大丈夫?」

「うん、水野さん。かばってくれてありがとね」

「頭は……?」

「痛くない。思考もクリア。不思議なくらい、すごく気分が落ち着いているよ……」

「ええーい! オレを無視するな! この拳の能力で、2人まとめてぐっちゃぐちゃのハンバーグにしてやるぜ!」

「それを言うなら、ミンチ肉?」

「分かってるよ、うるせえな!」

「冬林くん……」

《――さて。これ以上、わたしはこの戦いに関知しない。地上に降り立った魂たちは、その肉体、環境、言語、教育などにより、さまざまな精神の方向性を手に入れる。生まれも育ちも違う人間は、異なる意志を持っているのが当たり前。意志は未来で、未来は意志。――さあ! 手繰り寄せたい未来があるのなら、意志の力で勝ち取るのです!》


 ?????


「あのね、上田くん。――謝れ」

「はぁ!?」

「水野さんに酷いことを言ったでしょう! 女の子を怖がらせちゃ駄目だって、お父さんに習わなかった?」

「あ? ガキや女は殴って言うことを聞かせろってーのが、オレの親父の教えだぜ! ついでに電化製品もな! ひゃーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ!」

「……子供の教育をきちんとするには、まずご両親がしっかりしないと駄目なんだね」

「何で同じクラスの男子生徒に、オレの家族を馬鹿にされにゃならんのだ!」

「そうだね。関係ないことを言った。ごめん」

「くっ! 何なんだ、急に余裕のある感じになりやがって」

「ん……」

 立ち上がった僕は、自分の右手をじっと見てみます。

 瞬間。

 ――ブン、と。右の手の平が、淡く発光し始めます。

「ちっ! 冬ぴー。てめえ!」

「冬林くん……。それは一体……?」

「あのさ、水野さん。ちょっとお願いがあるんだよ。この上田くんとのバトルが終わってからも、僕に協力してくれない?」

「おお! 何か感動! 喜んで!」

「ありがとう。――じゃあ、さくっと上田くんをやっつけようか」

 国立ウィル能力研究大学附属高等学校。通称、異能力バトル高校。

 これが僕の初戦闘!


 ?????


「あのさ、上田くん。聞く気はないと思うけど言っておく。大人しく降参するなら、見逃してあげる。僕はキミをやっつける作戦を考えて、キミは1発僕を殴った。それでおあいこにしてくれない?」

「……は。なるほど。分かったぜ! てめえのそれはハッタリだろ。口先だけで、でかいことを言ってるが、実はオレ様に勝つ自信はまったくねえ! そうだろ? ヒャーハッハッハッハッハッハ!」

「……冬林くん?」

「すぐに分かるよ」

 不安そうに振り返る水野さんに微笑みかけます。

「まだハッタリを続ける気かよ……。しゃらくせえ!」

 光り輝く拳で、上田くんは数発のジャブを宙にかましました。

 すると、彼の拳の輝きがMAXに。

「【拳々発破】――フルパワーだぜ!」

「つまり、それが威力の限界ってことだよね」

「……舐めやがって。これでぶん殴ったら、人間がどうなるか知りてえか?」

「知りたい知りたい。だから、それでキミの顔面を殴ってみせて欲しいな♪」

「分かった。オレの顔面を殴ればいいんだな……って誰がするか、ボケえええっ!」

「まさかのノリツッコミだった……。キミこそ漫才の才能があるんじゃない?」

「オレはこの拳で天下を獲るぜ!」

「キミなんかに獲られたら、大勢の人間が迷惑だ」

「この野郎……!」

《ひとまず舌戦では冬林くんの勝利かなー?》


 ?????


「ぺらぺら女みたいにしゃべりやがって……! 男だったら、拳で語れよ!」

「めちゃめちゃキミに有利じゃん。自分の得意な土俵でしか戦わない卑怯者」

「うるせえ! 女ともども、ぶっ殺してやらあ!」

「……そっか。キミはそういう奴なんだね、上田くん」

「ああん!?」

 目の前にいる倣岸不遜なクラスメイトに僕は――

「キミみたいな野郎に、妹は絶対に嫁にやらん!」

「アホか!」 

「あと、よその家のお嬢さんにも、酷いことをするんじゃないの!」

「知るかよ! だったら、てめえの女をまず殺してやらあ!」

「だから、そういうこと言ったりしちゃいけません! めっ!」

「舐めやがって! ごちゃごちゃ言うのはもうやめだ!」

 上田くんが拳を振り上げて、襲いかかってきます!


 1年B組2番 上田竜二

 ウィル能力名 【拳々発破】

 効果 何もない所を殴るたび、次の拳での攻撃の威力がアップする。


「くっ! 来るなら来なさい! でも、冬林くん。どうするの?」

「あのね、水野さん。予備のスプーンはまだ持ってる?」

「? これが最後だけど……」

「そう。じゃあ、1発で仕留めるよ」

「へ?」

 激昂する彼の拳が届こうとする寸前に――

 ポン、と。水野さんの肩に、僕は淡く輝く右手で触れました。

「舐めてんじゃねえ! ……は?」

 次の瞬間――


 水野さんの持つスプーンが、ボンッと輝いたかと思うと巨大化します。


「な、何じゃい、それは!?」

「うわわわわっ! お、大きくなった!」

 元の大きさの数倍、僕の身長近くもの長さになったスプーンの柄が、うねうねと大蛇のようにうごめいています。

「……行け。【スプーン=マゲール】強化版!」


 ――軍事目的で優秀なウィル能力者を兵隊にしようという当初の目的は、ほぼ全員あきらめてるの。ガチの国家間戦争で使える人材なんぞ1000人に1人もいない。

 ――私の能力って戦闘や喧嘩には向いてない。騙しにも使えないかもよ?


 弱い能力。使い道のない能力。

 戦闘にはまったく不向きなウィル能力を――

《……この学校で困っている弱い子たちを助けたい。キミの望みは叶えたよ?》

 一瞬だけ強化して攻撃的な能力に変化させる!

「これが僕の……あ。しまった。名前を考えていなかった……」

「おわわっ! 何かスゴイ! エネルギーがあふれてくる! 上田くん、覚悟!」

「な、何じゃそりゃああああああああああああああああ――っ!?」

 水野さんの手の中で蠢いていた巨大スプーンが、獲物に鎌首をもたげる蛇のように、上田くんに向かって飛びかかって行きました!

「がっ……! がはっ……! こん畜生……!?」

 螺旋状に巻きつくツタのように。あるいは獲物を締め上げる蛇のように。

 細長く伸びて曲がったスプーンの柄が、ぎりぎりと上田くんの全身を締め上げました。

「く、くそ……! このオレ様が……こんな……所……で……」

 彼の拳の輝きは、徐々に徐々に弱まっていきます。

 やがて意識を失って上田くんは倒れました。

「お? おおおおおっ!? や、やった。上田くんをやっつけちゃったよ!」

「……水野さん。僕が気を失ってる間、怪我とかなかった? 大丈夫?」

「全然平気!」

「そう。良かった……」

 なでなでなでなで……

「ちょっ! 何で頭を撫でるかなー!?」


 ?????


《さてさて。まずはこの学校での初勝利おめでとう》


《無事ウィル能力にも覚醒し、これでキミは名実ともに、異能力高校の一員だ》


《――でも、油断しちゃ駄目だよ? この学校におけるキミたちの戦いは、ここからが本番だ》


《強い能力を身につけた僕は最強だぜ、ヒャッハー! ……とか言ってたら、あっという間に呑まれて消えるのが、ここ異能力高校のクォリティー》


《でも、キミの魂は、ほんの少しだけ面白い。……キミみたいな能力を欲しがった子はいたかなー。いなかったかなー。まあいいや》


《追伸。後で、キミに与えた能力に、かっちょいい名前をつけとくように!》


《また追伸。キミの能力と水野さんの【スプーン=マゲール】のコンボで発現するこの特殊効果は、【スプーン=スネイク】と呼ぶとしよう! ずっぎゃーん》


 頭をやられた後遺症? 変な声が聞こえた気がします。

「水野さん……何か言った?」

「うん。上田くんをこのままにしとくと可哀想だから、先生に連絡しようって」

「ああ、そうだね。それがいい……」


《地上に降り立った魂よ。わたしの力のカケラを与えた使徒たちよ。せめぎ合え高め合え競い合え。千の輪廻に値する生を生き、レーテの水でも洗い流せぬ自らの形を手に入れろ。いつかこの【女神ウィル】の元へと辿り着け》


 だけど、多分きっと気のせいです……。

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