第19話 2つ目の形態変化


「ここが……」


「ようこそ! ここが暗殺者、シーフ専用スキルのポーションが売ってるお店! 『アサメシマエ』だよ!」


 あの後追っ手に追いつかれなかったコウとアロナは、無事に店に着くことができた。


 『アサメシマエ』……朝飯前?


「さあ入って入って! 時間はないから!」


 アロナはコウを引っ張って店の中に入った。




◇ ◇ ◇




「へぇ……」


 店の中は狭く、ショーケースとカウンター、そこにいる髭がもじゃもじゃのおじいさんしかいなかった。


「おじいちゃん! 久しぶり!」


 アロナはカウンターのおじいさんに駆け寄った。


「おお……アロハか。大きくなったなぁ」


「おじいちゃんも元気そうで良かったよ。あとアロナね?」


 2人は知り合いか……。


「それでねおじいちゃん。今日はポーションをいくつか買いに来たんだけど……」


「はいはい。ポーションだね。何が欲しいのかな?」


 アロナはショーケースの中を見て、お目当てのものを探す。

 コウはその後ろで、その様子を見ていた。


「とりあえずこの【隠密】のポーションちょうだい」


 アロナは紫のポーションが入った瓶を指さした。


「えーっと……銀貨1枚だね」


「あっ、俺が出すよ」


 流石にアロナに払わせる訳にはいかないと思ったコウは、手のひらに銀貨1枚を出した。

 店主のおじいさんは、その銀貨と引き換えに、【隠密】のポーションを手渡した。


「これを飲んだらいいのか?」


「うん。スキルを手に入れたら、甲冑にも変化が怒るんじゃないかと思ってさ!」


 なるほど……。

 これでシーフになれれば、追っ手から逃げるのも楽になるわけだ。


「"飲め"」


 コウの手にあったポーションの瓶が空になる。


「どうかな青年。体に異常はないかい?」


 店主のおじいさんは、コウを心配した。


「――ああ。特に異常はない」


「良かった~。適性がないと体が拒絶して、飲んだもの吐き出しちゃうから」


 アロナはホッと胸をなでおろす。


「先に言ってくれよそう言うことは……」


「ごめんごめん。それより! ステータス見てみてよ!」


 アロナは興奮気味にそう言った。


「はいはい――」


 コウはアロナに言われるまま、ステータスを表示した。


【名前】コウ

【性別】男

【職業】冒険者

【装備】

 ・呪いの甲冑(★)

 ・決意のペンダント

【レベル】15

【スキル】

 ・アテナの加護

 ・剣術の心得

 ・筋力増強

 ・危機察知:レベル3

 ・気配察知:レベル3

 ・隠密:レベル1

【持ち物】

 ・銀貨:4枚

 ・銅貨:80枚


 アロナの読み通り、【呪いの甲冑】に変化が起きてるな。

 しかも、【危機察知】と【気配察知】のレベルが上がってる……。

 多分ダリアとの決闘が原因だな。


「なになに……?」


形態変化メタモルフォーゼ

 【モード:凶手トレット

  『必要レベル』:15/10

  『必要素材』

   ・なし

  『必要スキル』

   ・隠密(取得済み)

   ・毒牙(未取得)

   ・インサイト(未取得)


「【毒牙】と【インサイト】が必要らしい」


「その2つね。おじいちゃんある?」


「ちょっと待っててな」


 店主のおじいさんは、ショーケースの中になかったので、空になった瓶を片手に、奥へ探しに行った。


「どういうスキルなんだ?」


 コウはアロナに聞いた。


「えーっとね、【毒牙】が状態異常にするスキルでね。攻撃を与えた個所に継続ダメージを追加するの」


「パッシブではないんだな」


「このスキルを技に組み合わせて使う感じかな。傷の大きさで与える時間も変わるし」


 このスキルは割と応用が利きそうだな。

 でもシーフや暗殺者しか使えないスキルっていうのが大きいな。


「じゃあ【インサイト】は?」


「【インサイト】は、相手の弱点を見つけるスキルだね」


「弱点? 何で分かるんだ?」


「う~ん。よく分からないけど、こう……ボヤボヤッと見えるらしいよ」


 アロナはジェスチャーで伝えてくる。


「……まあ、取得してからのお楽しみだな」


 【隠密】は多分潜伏に得意なスキルだろうから、敵にバレずに近づき、【インサイト】で見つめた弱点に、【毒牙】のスキルを使った技で攻撃する感じか?

 まさに暗殺者だな。


「おっ、あったあった」


 奥から店主のおじいさんが、2つのポーションを持って戻ってきた。


「はい。【毒牙】と【インサイト】のポーションね」


 店主のおじいさんはそう言い、カウンターに緑色のポーションと、水色のポーションを置いた。


「ありがとう! お値段はどのくらい?」


「どっちも銀貨2枚だよ」


 合わせて4枚。

 ギリギリだが間に合ったな。

 ボイルベアの討伐報酬がなくなってしまったが、また狩ればいい話だ。


 コウは再び手のひらに銀貨を出し、手渡した。


「確かに4枚受け取ったよ。はいどうぞ」


 コウは2つのポーションを受け取り、右手で2つ持った。


「ささっ。飲んで飲んで!」


 アロナが催促してくる。


「じゃあ飲むぞ……"飲め"」


 先程と同じように、2つのポーションの瓶が空になる。


【形態変化】

 【モード:凶手トレット

  『必要レベル』:15/10

  『必要素材』

   ・なし

  『必要スキル』

   ・隠密(取得済み)

   ・毒牙(取得済み)

   ・インサイト(取得済み)


「よし。これで――」


「――いたか!」


「――この辺りに走っていったはずだ!」


 店の外が騒がしくなってきた。


「コウ! 早く【形態変化】して! 追っ手が来る!」


「お、おう!」


「【形態変化・モード:凶手トレット】」


 アロナに急かされたコウは、急いで唱えると、体が光に包まれた。

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