第9話 約束


「いやぁ、前から気になってたんだよなぁ」


 コウは依頼主にマユダマを届けるため、街を探索していた。

 モンとバンに礼を言って別れる際、前にギルドで貰った地図をもとに、大まかな場所を教えてもらっていたので、迷うことはなさそうだ。


「そういえば......」


 あの甲冑専門店に行くか、ボイルベア討伐か......。


 コウはふと、甲冑専門店のことを思い出した。


「まあボイルベア優先……というか、専門店には形態変化メタモルフォーゼしてから見せた方がいいかもしれないな……。おっ」


 今後について考えていると、洋服店に着いたようだ。




◇ ◇ ◇




――リーゼンの町・洋服店アータコズ


「ん?」


 洋服が外から見えるように、表側のほとんどをガラス張りにしているこの店。

 店主のおじいさんには、外に大量のマユダマを持っている男が見えた。


「依頼かな?」


 受付から立ち上がり、ドアを開けに行く。


「いらっしゃい。依頼の件だね」


「ああ、早速頼む」


 店主にドアを開けてもらったコウは、体をぶつけないよう慎重に、店の中に入った。


「よいしょっと」


 受付の横に、ドサッと大量のマユダマを置いた。


「これ依頼の紙だ」


 コウの手のひらに、依頼の紙が出現した。

(※8話を少し修正したためこうなってます)


「ほぉ、便利なもんだ」


 出現した依頼の紙を預かった店主は、ポケットから判子を取りだし、アータコズの印のようなものを押した。


「まさかこんなに持ってくるとはね。数を数える必要もないよ」


 依頼の紙を返された。

 思ったよりアッサリと依頼が完了してしまった。


「ギルドで報酬を受け取るといいよ。新人冒険者さん」


「ん? 分かるのか?」


「私も昔冒険者だったからね。雰囲気で分かるんだよ」


 やっぱりずっと冒険者という職があるんだな。


「なんで冒険者に?」


「気になるのかい?」


「どうせなら」


「いいよ。私も話し相手が欲しかったところだ」


 店主はそう言うと、受付の椅子に座った。


「――いやぁ、ある冒険者に憧れた。というのがきっかけだな」


「ある冒険者?」


「ああ、とても強く、とても優しい人だった。当時子供だった私には、勇者様にも見えたな」


 懐かしそうな表情で話し出した。


「なんと言っても、楽しそうだったんだよ。町に帰ってくるたびに、色々な話を聞かせてもらった」


「……」


「そのときからかな。冒険者になりたいと思ったのは」


「へぇ……」


「その後冒険者になったが、いつの間にか成長の限界が来てね。結局遠くまで旅に出ることはできなかったんだ」


「それでこの服屋に?」


「アハハ。器用さだけは、誰にも負けるつもりないからね」


 自虐するように言った。


「そうか……」


「私もあの人のように、色々な場所へ行って、この世界がどんな世界か見てみたかった……」


「……」


 ふぅ、と深呼吸すると、店主は立ち上がった。


「さあ、そろそろ行きなさい。もしかしたら、もう1つくらいなら依頼を受けれるかもしれないぞ。新人のうちは数をこなさなきゃいけないからな」


「……決めた」


「ん?」


「俺は必ず強くなる。そして俺の目標の為にも世界を旅して、色々なことを体験してくる」


 コウはバンッと受付を叩き、声を張った。


「……おぉ、大きく出たな」


「ああ。そして旅が全部終わったら、ここに戻ってくる。伝説の冒険者が、初めて依頼をこなした店にな」


「え……」


「そしたら俺がアンタに今までの旅のことを伝えるよ。代わりと言っちゃあなんだが」


「……」


 店主は目を丸くして、コウを見つめる。


「――アハハハハ! そりゃ楽しみだ!」


 長い沈黙の後、今までで1番大きい声を出して笑いだした。

 先程までと打って変わり、元気が溢れた様子だ。


「フッ、俺は本気だぞ?」


「いいね気に入った。ちょっと待っててな」


 そう言うと、店主は奥に何かを取りに行った。


 うーん。

 服とか貰ってもこの甲冑のせいで着れないからなぁ。


 洋服店ということもあり、服を貰うと考えていると――。


「これを持っていってほしい」


 帰ってきた店主が手に持っていたのは、アクセサリーのようなものだった。


「それは……」


「私が冒険者になってからずっと、弱気になったときに支えてもらったんだ」


 コトッと受付に置かれたのはひし形のペンダントだった。

 真ん中に青い宝石がはめられ、周りが金を使ったものだった。


「高そうだなこれ……」


「まあ普通に買うと、金貨1枚程だな」


「なっ……」


 到底自分じゃ払えない額に、思わず唾を飲み込む。


「い、いいのか?」


「伝説の冒険者になるんじゃなかったのか? こんなことでひよってちゃダメだろう?」


「……ありがとう。持っていかせてもらう」


 コウは勢い良く手に取った。


「ちなみに名前とかはあるのか?」


「ああ、あるとも。ペンダントの名前は【決意のペンダント】」


「【決意のペンダント】だと!?」


 こんな偶然あるのか……?

 形態変化に必要な【装備】だぞ。


「そのペンダントは、恐怖心を和らげてくれる。困難に立ち向かうときにきっと役に立つ」


「これが……」


 コウはペンダントをじっと見つめると、早速首にかけてみた。


「凄いな。まるで新品だ」


 これからの不安が、スっと消えた気がする。


「言っただろう? 器用さは負けないと」


 店主は自慢げに胸を張った。


「流石の腕だ。恩に着る」


 コウは右手を差し出した。


「フンッ、伝説の冒険者の旅立ちにはいいだろ」


 店主も右手を差し出し、ガッチリと握手を交わした。


「必ず戻ってこいよ」


 握手を止め、別れの挨拶をする。


「まっ、まだしばらくはこの町いるけどなっ。じゃあな」


 コウはそう言うと、足早に店を出てった。


「えぇ……恥ずかし」




◇ ◇ ◇




――冒険者ギルド・リーゼン支部


「はい。確かに確認いたしました。こちら、報酬の銅貨80枚です」


 コウは受付で、依頼の紙を手渡し、報酬を受け取った。


 最初のうちは、アメグモ倒すの大変だったからな。


「まずまずだな。"しまえ"」


 手に持っていた、銅貨が入った小袋が消えた。


 ステータス確認しとくか。


【名前】コウ

【性別】男

【職業】冒険者

【装備】

 ・呪いの甲冑

 ・鉄の剣

 ・決意のペンダント

【レベル】9

【スキル】

 ・剣術の心得

 ・筋力増強

 ・危機察知:レベル1

【持ち物】

 ・銅貨:80枚


 あとは、【アテナの加護】か……。

 まあこれは一旦置いといて、森にボイルベアの偵察にでも行ってみるか。


「あらら? 誰かと思えば……」


「あ?」


 ギルドを立ち去ろうとすると、誰かに話しかけられた。

 

 この声まさか――。


 コウが振り返ると、バージャッカと、その部下と思われる男が2人いた。


「バージャッカさん。この甲冑野郎は誰ですかい?」


「ああ? コイツはな~、まんまと俺に騙されて、ボイルベア討伐の依頼を受けちまった新人の馬鹿だ。ギャハハハッ」


 バージャッカは、部下の男にそう教えた。


 やっぱ嘘だよなぁ。

 大声で言っていいのか?


「プッ、流石にかわいそうじゃないっすか。依頼失敗したら、報酬の金額を払わなきゃいけないのに」


 もう1人の男もつられて笑った。


「へぇ、そんな決まりがあったのか」


「そうだよ馬鹿野郎。新人冒険者のお前にはキツイだろ?」


 グッと顔を近づけたバージャッカが、コウが着けてるペンダントに気づいた。


「なんだぁ? 新人の癖に良いモン持ってるじゃねぇか。そのペンダントを俺に寄越すなら、依頼を手伝ってやってもいいけどなぁ?」


 やっぱり目立つかこれ。

 まあ新人が持ってたら不釣り合いだよなぁ。

 早く強くならないと。


「間に合ってる。あと2日以内には仕留めてみるさ」


 コウは焦る様子も、怒る様子もなく、立ち去ろうとする。


「おいおい待てよ」


 そんな態度にイラついたのか、部下の1人がコウの肩を掴んで引き留めた。


「……なんだ?」


「俺たちのこと見下し――」


「あー! コウだー!」


 4人が声のした方を、一斉に見る。


「アロナ?」


 小走りに走ってきたのは、コウと同じく、依頼を終えたアロナだった。


「コウも何か依頼をやってきたの?」


「あ、ああ」


 アロナはバージャッカたちを無視して、コウと話をしだした。

 コウの肩を掴んでいた男は手を放し、今度はアロナを標的にした。


「おいガキ。コイツとは今俺が――」


「うるさい黙って」


「……え」


 アロナは光のない瞳で、冷たくあしらった。

 男は思わず後退あとずさる。


「さっ、この人たちはほっといて、外に出よ!」


 アロナのコウに向ける瞳は打って変わって、キラキラと輝かせている。

 まるで、財宝を見つけたときのように。


「あの、バージャッカさん。あれどう……」


「ほ、ほっとけ! 女は底が知れねぇ」


「女って怖ぇ……」


 バージャッカたちも、受付の方に向かっていった。




◇ ◇ ◇




「コウ、アイツら何?」


「あー、あれは……」


 2人は町を歩きながら、バージャッカたちの話をしていた。


「ねぇ何」


「き、気にするな。ただのチンピラだ」


 なんかアロナ怖い。

 あの夜からずっと怖い。


「……私の獲物なのに」


「何か言ったか?」


「な、なんでもないよ!」


 ボソッと何か言った気がしたが、まあいいか。

 また何かあっても怖いし。


 コウはアロナにビビりながら、裏門に向かっていった。

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