死にかけニート、美少女ライバーと人気者を目指します。

シエリス

死にかけニートと美少女ライバー

第1話 ニート黒井誕生

黒井くろい!ちょっと来い!」


権藤ごんどう部長が俺を呼ぶ。


あ、この感じは…、またか。


「…はい!」


俺は進まない足を進めながら、貧乏ゆすりをする権藤部長のデスクの前に立つ。


「お前!またミスをしたな!」


権藤部長がデスクを殴って、俺に唾を飛ばして怒鳴る。


はぁ…やっぱりか


「違いますって、俺はやってません。」


俺は無駄だと分かっていながら弁明する。


「いいやお前がやったんだろう?二年前のミスはお前のせいだった!今回のミスもお前がやったに決まっている!確認するまでもない!」


権藤部長は少なくなってきている髪を揺らしながら、顔を真っ赤にして怒鳴る。


ホラ来た。


俺が二年前に少し大きいミスをしたのは確かだ。でも俺のしたミスといえばそれきりだし、あれから反省して、尚且つしっかりミスを取り戻した。ミスをしたことは申し訳ないが、だからと言って時々起こるミスが俺のせいになるのはおかしい。


…権藤部長は多分、俺が気に入らないんだと思う。なんでなのかはわからないけど、だからこうしてイチャモンをつけるんだろうなぁ…。


「あの…あれはもう二年前のミスですよね?何か大きなミスがあるたびに俺のせいにするのやめてくださいよ。」


「…ったく口数の多いやつだな!お前がやったんだろう!」


ちなみに、こうして誰かの起こしたミスを俺がやったと言われるのは、これが初めてじゃない。数えてないけど、10や20じゃないと思う。


さらに言うと、毎回ミスを俺になすり付けている人物も知っている。


「ははは!いっつも暗いクライさーん!まーたミスして怒られてるんですかぁ?」


笑いながらこっちに来たのは後輩の女性社員。


そう。俺のことをクライさんと呼ぶ、この女性社員の鳥田とりただ。この人が毎度毎度、自分で起こしたミスを俺がやったと権藤課長に報告する。だから毎回俺がこうして怒られるわけだ。


いままでの鳥田のミスだが、あとで俺じゃないと分かっても権藤部長は謝らないし、鳥田は怒られない。鳥田は権田部長のお気に入りだし、俺は疑われる方が悪いとむしろ怒られる始末。


鳥田もおそらく、俺のことが気に入らないんだろう。じゃなきゃ自分のミスを特定の人に擦り付けたりなんかしない。



…なんで俺はこんな会社に居続けているのかだって?確かに、俺はこの会社に嫌いな人間がいるし、おまけにブラック企業だ。


この、『株式会社 上安じょうあん』は、広告代理業を主にしている会社だ。この会社がブラックといわれる理由だけど、まず営業ノルマが高い。これをこなすには残業するしかない。一応残業代は出るけど平均よりだいぶ少ない。おまけに時間はいつも終電ぎりぎりで、たまに乗り損ねるときもあるくらいだ。


そして、社員へのセクハラやパワハラ、俺が務めたこの三年間で数人はそれが原因でやめている。


それでも俺がこの会社をやめない理由は、この会社を辞めてしまうと、後がないからだ。


俺には親戚が居なくて、おまけに両親も二年前に他界した。そして学生時代陰キャだった俺は、頼れる友達も少ない。


それに、これは自分勝手だが、俺はこの会社を辞めた後に再就職できる自信がない…。


だから俺は、この会社に何としてもいなきゃならないんだ…。がいなくなった今、一人で何とか耐えなきゃ…。









「あー、もういいや。お前クビな。すぐ口答えするしうざいから。もう会社来なくていいよ。」


権藤部長が口を開く。



「え?」



何?今この人、クビって言った?え?


「俺からは「何度言ってもミスをして、反省の色が見られないからやめさせた」ということにしとくから、もうどこへでも行っちまえ。」


権藤部長が続けてそう言った。


「えー!クライさんクビですか~?イジる人がいなくなるのはちょびっとだけさみしいですけど、先輩無能ですし、仕方ないですよね~、ばいばーい!」


鳥田も嬉しそうにしゃべっていた。


俺はというと、何も言えなかった。言葉をうまく飲みこめなくて。


「…何ぼっーと突っ立ってんだ、さっさと荷物まとめて帰れ。」



その権藤部長のことばでようやく我に返った。


「く、クビ…クビかぁ…そうか…」


うん、飲み込めたけど、衝撃がやばい。吐きそう。え、だって俺、ここから立ち去ったら後がない…。


「えええ…。」



人間本気でショックを受けると、大きな声って出ないんだなぁ…。なんてのんきなことを思ってしまった。



たった今から俺は、広告代理店勤務の黒井から、ニート黒井にグレードダウンした。


「あ、ははは…。」


ニート黒井は、力なくその場に膝をついた。


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