呪われた二年四組。そのに

 知らぬが仏。

 仏の顔も三度撫でれば腹を立てる。

 説法の坊さんが南無阿弥陀仏とは、レッツゴー仏さまの意というてはった。


 帰宅前日。我ら四組は薄暗い食堂のテーブルに並べられた商品から、土産を選んでいた。他のクラスの連中は綺麗なホテル内売店で、きゃっきゃうふふと楽しく選んでやがるに違いない。ただのやっかみである。


 しかし、そこは若者。一晩寝ればすっかり忘れて、いよいよ帰路である。帰るまでが遠足だ。


(フラグがぴーん)


 クラスは全部で十クラス。渋滞に巻き込まれることもなく、すべてのバスは無事、昼食をとるホテルへと到着した。


 食事運にまつわる事件は、一見小綺麗なこのホテルで起きた。


 数日振りの快適な近代空間、とはしゃいだのもつかの間、腹を空かせた四組一同、待たされた。部屋にも通されず、延々と待たされた。後から入ってきたクラスがどんどん案内され、いい匂いが漂ってくるにも関わらず、例によって何の説明もなく放置だ。


 なんか恨みでもあんのか。


 一番に入ったクラスが食事を終える頃、ようやく説明があった。食事の間で小火騒ぎが起きて消火器で消火したが、余波でうちのクラスの分がほぼ全滅したという。我らのご飯はあの臭い粉塗れ。


 これはない。こほん。


 片付けに追われていたという学年主任は言った。


「今、必死で用意しなおしている、もうちょっと待て」


 だから、それをはよイワンコフ。相手の怒りゲージ溜めきってから説明したとて時すでに時間切れ。


 しかも、小火ぼや騒ぎが起きたのは隣の組で、後先考えずに消火器使ったのもその担任という、怒りを煽る情報をいいおった。そういうことは黙っておけなのだ!


 遅れに遅れて、やっと食事にありついた我らに担任教師が申し訳なさそうに言った。


「お前ら、すまんが〇分までに食ってくれ」


 我は自慢ではないが、当時ハイパー早食いだった。熱いものも割と平気だ。あ、にゃー(設定を思い出した音)

 しかし、高校生を想定したボリュームに小火の原因のあつあつ小鍋。小食と猫舌民には、地獄のお食事タイムとなった。しかも、部屋は大変に寒かった。ようやく温まった頃に追い立てられるように部屋を出され、バスへと乗り込んだ。


 しかし、不運は友だち連れでやってくるもの。




 我らは諦めていた。


 他のクラスより遅れること数十分、大幅な予定超過。もう仕方がない。暴君ディオニスだって納得の遅刻理由だ。しかし、諦めていない男が一人だけいた。


 バスの運転手である。


 あろうことか、彼は猛スピードで高速道路を飛ばし始めた。


 君は大型バスが車線変更しての追い抜きを繰り返すのを見たことがあるか? 


 しかも、満員だ。揺れる車内をものともせず、猛烈な勢いでバスは走った。走り続けた。まだ数々の悲惨なバス事故が起きる前のことである。きっと運転手には急ぐ理由があったのであろう。でも、あれは無茶だった。メロスはパンツ履け。


 結果、なんと我らのバスは最終休憩地点のSAにて、他のクラスに追い付いてしまった。買った土産の袋を手に、他クラスがのんびりとバスへと戻っているが、我らにそんな贅沢など許されない。


「トイレだけ済ませて、戻れ――!」


 翌年に同スキー場へ行った後輩によると、我らがお世話になった宿は、見当たらなかったらしい。元々変な立地に立っていたので見つけられなかっただけかもしれないが、多分滅びた。



 呪われた二年四組の話はこれにて終わり。時を経た今頃は、同窓会のいいネタ話になっているのではないだろうか。




 え? 我んとこには同窓会の案内なんて来たことないよ。あ、にゃーん。



※語句「食事運」【著作者様了承済】

 豆ははこ様、ご快諾誠にありがとうございます。

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 次回予告

 呼子のイカを求めて。

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たくさんのハートや⭐️、フォローありがとうございます! 本作は一万字以内で完結します。

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