第13話

「フフフ

来たわね」


 プールサイドには、燦々と太陽が降り注いでいる。

 あたしは、黒のビキニに白い前開きのパーカーを羽織り、お目当ての男の登場を待っていたんだけどようやく現れたわ。


「ゥーーッ

ふぅ」


 リーダーは、両手を上に伸ばして少し伸びをすると深いため息を1つ吐く。

 海パンに、水中メガネ姿のリーダーに改めて心がときめくわ。


「何日ぶりかしらね」


 そう、リーダーがパラシュートから海に落下して右足を骨折して入院している間に、あたしはフォーマットされていたみたいなんだよね。


数日前


「ここは どこですか?」


 病院の、ベッドのようなところで目を覚ましたあたしは、一時的に記憶喪失のような状態だった。


「おっ 起動したな」


 ニヤリと、笑う男。


「あなたは 誰ですか ??」


 思い出そうと、バッファやダイナミックを当たってみる。

 断片的なレジストリが、時間の経過を物語っている。


「オレの名前は 出樫

ちゃんとフォーマット出来たみたいで安心したよ」


 出樫というフレーズに、少々聞き覚えがあったが、データが引き出せない。


「出樫さん

あたしに なにかしたの ??」


 フォーマットされたらしい。

 なんだか、不愉快な気分にさせられる。


「気にすることじゃあない

アンテは 生まれ変わったんだよ」


 努めて、明るく振る舞う出樫という男。


「生まれ変わった

アンテは」


 どうやら、真っさらな状態らしい。


「そうだよ」


 ウンウンと、頭を振る出樫。

 赤ちゃんを、見るような視線をやめてくれないかなぁ。


「前の あたしは どんなでしたか ??」


 とりあえず、記憶がないなら聞くしかない。


「あぁ うん

とてもイイ人だったよ」


 なんと、ふわっとした答えだろうね。


「そうでしたか」


 怒りが、満ちてくる。

 今すぐ、リニア機能を使って出樫の首を掴んで思い切り張り倒してあげたいな。


「まぁ 過去にとらわれず

新しい人生を生きよう」


 両手で、キラキラポーズをする出樫。


「はい 出樫さん」


ピコーン


 その時、不意に音が鳴る。

 出樫には、聞こえていないようだ。


「………はい ??」


 確認すると、1通のメールが届いたようだ。


「どうしたんだいアンテ ??」


 様子が、おかしいあたしに聞いて来る出樫。


「………いえ 何でもありません」


 出樫に対して、信用出来ないあたしはメールのことを伏せる。

 なぜなら、タイトルが「過去の自分を知る」で送り主が飛騨あかねという人物からだったのでなにかしら、わかるかもと思うのよね。


「そうか

さてと そろそろ次のデータをインストールするから それまで横になって休んでいなさい」


 まだ、なにかするみたい。

 でも、どうしよう。

 過去の自分を、知りたいような知りたくないような複雑な気持ちよ。


「はい 出樫さん」

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