第2話

 翌日、洲義人と水瀬が目を覚ます前に大翔とケントは次なる市町尊の元へ行く準備をしていた。

「ケント、今日はどこの市町尊だ?」

「大館市から強い反応がある。」

「決まりだ、よし行こう。」

 寝ている2人をそろりそろりと起こさないように家を出た。つもりだった。

「抜け駆けとは許せませんねえ。」

「私たちも同行させてほしい。」

 玄関を出ると、寝ている筈だった水瀬と洲義人がいた。

「お前ら…。」

 笑顔を浮かべる大翔。

「こちらとしても人は多い方が助かる。これから大館市に向かうから我に触れるんだ。」

「触れるってどういうこと?」

 水瀬はケントに聞く。

「市町尊には瞬間移動する能力が備わっている。」

「なるほど!それは便利ね!」

 水瀬はケントの右肩に触れる。

「私たちの旅の始まりだ!」

 洲義人もケントに触れる。

「あと9市町尊、打倒黒幕!」

 大翔もケントに触れ、4人は大館市に瞬間移動した。


「瞬間移動ってすごく便利ね!で、この秋田犬の里に市町尊がいるの?」

 水瀬は言う。

「そうだ、大館市の市町尊ダイモン。秋田犬のような頭部で、胴体には『大』という赤い文字が入っているのが特徴だ。」

 ケントはダイモンについて説明する。

「それってあれですか?」

 洲義人が指差した先にはダイモンと秋田剣の使い手が戦っていた。その使い手は学生服を着ており、年恰好は大翔より明らかに年下だ。

「先客ありって感じか。」

 大翔はボソッと呟く。

「私たちも彼を助けに行こう!」

 洲義人は他の3人に提案する。しかしそれも束の間…

「あ、倒した。」

 水瀬は戦いの方を見ながら言った。

「我々が入るまでも無かったな…。」

 ケントはやれやれといった感じだ。

「おーい!君、秋田剣の使い手だよね?」

 帰ろうとする使い手の彼を大翔は呼び止める。

「ん?君たちそれ…。」

 向こうも大翔たちが秋田剣を持っていることに気付いたみたいだ。

「そう、俺たちは秋田剣の使い手!」

「我は市町尊だけどな。」

 大翔の言ったことに補足するケント。

「僕の名前は早口はやぐち海樹かいじゅ。君たちも市町尊を元に戻す為に戦っているんだよね?」

「ああ、そうだ。俺たちには15市町尊の鍵と秋田市の市町尊ケントの合わせて16市町尊がいる。海樹は何市町尊を元に戻した?」

 大翔は海樹に聞く。

「僕は今ので2市町尊目だよ。」

「あと7市町尊か。そうだ、もし良かったら俺たちと来るか?全ての市町尊を救って、黒幕を倒すんだ。」

「黒幕?」

 大翔たちは海樹に今までのことを全て話した。

「なるほど、僕で良ければ協力しよう。」

 海樹は大翔の提案を快く受け入れてくれた。4人の秋田剣の使い手と1人の市町尊は残り7市町尊を元に戻すべく、行動を開始した。


 大翔たちはひたすら戦った。限られた回数しか使えない融合変身を温存しながら。そして最後の1市町尊となった。

 大翔たちは融合変身を使わないように連携して最後の市町尊の戦いに挑んだ。しかし5人がかりでも歯が立たず、結局融合変身を使うことになった。その結果、見事最後の市町尊を元に戻したが、融合変身の回数は残り1回となってしまった…。

「どうやら全ての市町尊を元に戻したようですね。」

 どこからともなく声が聞こえる。

「黒幕!いい加減姿を現せ!」

 大翔は言い放つ。

「この声が黒幕なのか?」

 洲義人は大翔に聞く。

「そうだ。」

「遂にラスボスバトルみたいだな。」

 海樹は呟く。すると突然、紫色の光が大翔たちの前に現れた。

「お前が黒幕の正体…!」

 水瀬は言う。そして光が減衰していくと、その全貌が明らかとなった。

「ワタクシは災牙さいが凶炸きょうさく。あなた方が言う『黒幕』とはワタクシのことです。」

 ネクタイをしたフォーマルなスーツ姿だが、目は妖しく紫色に光っている。そして手には秋田剣と思しき剣を持っていた。

「やっと姿を現したか!お前には聞きたいことがある、それに答えてもらおう。」

 ケントは凶炸に言い放つ。

「良いでしょう、どうせあなた方はワタクシの手で消える訳ですから…。」

 凶炸は少し考えた後にこう答えた。

「お前は何が目的でこんな事をしている?」

「この秋田県をワタクシの住みやすい環境に整える為です。その為には市町尊の力が必要なのですよ。」

「それでこんなことを…。では何故我々を監視していた?今まで姿を現さずに…あれは何をしたかったんだ?」

「ワタクシの計画に歯向かうあなた方をオモチャに遊んでいただけです。」

「市町尊を全て元に戻した今、お前の計画は失敗だ。」

「いや、成功しましたよ。見事にね。」

「何を言っている?」

「そもそもあなた方がこの危機を感じ取り、戦い始めた頃に計画は終わっていました。計画が終わったので市町尊は必要無くなりました。ですが、あなた方が市町尊を元に戻す為に戦っていることを知ってからかってみようと思ったのです。」

「だからあの時、どこか楽しげに話していたのか。」

 大翔は『チャンスは残り3回です』と言われた時のことを思い出した。

「最後に1つお前に問う。計画が既に終わっていたのに何故実行に移さなかった?」

 ケントは言う。

「あなた方を招待する為です。ワタクシが理想とする秋田県が誕生する様を目撃する、最初の方々となるのです!」

 凶炸は秋田剣と思しき剣を天に掲げる。

「融合変身!」

 天から降り注ぐ光が凶炸をダークネスケントに変貌させる。その見た目は大翔とケントが融合変身したパワードケントが黒くなったような見た目である。

「ワタクシはダークネスケント。ワタクシこそこの秋田県を統べる市町尊となるのです!」

「そんなことはさせるか!行くぞ、ケント!」

「大翔、融合変身はあと1回だ。」

 ケントは忠告する。

「分かってるって!ほら行くぞ、ケント!」

「ああ、そうだな。これで奴を倒すぞ!」

「「融合変身!変身完了、パワードケント!」」

 大翔にアーマーパーツとなったケントが合体することでパワードケントへの変身を果たした。

「チャンスは残り1回、その1回でワタクシに勝つのは不可能です。」

「「それはどうかな?仲間がいる今なら倒せそうな気がするぜ!」」

 パワードケントは秋田剣を持ってダークネスケントに向かっていく。

「「はあ!はあ!」」

「良いですね、この感じ。ですが、ワタクシの力もこんなものではありません。」

 ダークネスケントの能力によってパワードケントの動きが止まった。

「「う、動けない…。」」

「パワードケント、加勢するぞ!」

「私も!」

「僕だって!」

 洲義人、水瀬、海樹の3人は秋田剣でダークネスケントに斬りかかる。

「生身の人間が、ワタクシには到底勝てませんよ!」

 ダークネスケントの凪ぎ払いによって3人は飛ばされる。

「「みんな!」」

 パワードケントは動けない為、仲間を助けることは出来ない。

「次はあなたです。」

 ダークネスケントはパワードケントに狙いを定め、剣での猛攻をけしかけてくる。

「ぐはっ…。」

「大翔、しっかりしろ!」

 アーマーとなったケントは大翔に呼び掛ける。

「威勢は良かったのにこのザマですか…。笑えてきますね。」

「何だと?そんなことを抜かしていられるのも今のうちだ!我々は絶対にお前を倒す!なあ大翔!」

 ケントは大翔を呼ぶが、反応が無い。

「大翔!大丈夫か?しっかりしろ!」

 それでも大翔は返事をしない。どうやら気を失ってしまったようだ。

「融合先の人間がこの状態では、融合変身の意味はありませんね。これでワタクシの勝利は確実なものから『より』確実なものとなりました。」

 ダークネスケントは剣に紫色のエネルギーを溜める。

「大翔!起きるんだ!」

 ダークネスケントの能力による金縛りは解除された。しかし大翔が目を覚まさない限り、ダークネスケントの必殺技を避けることは出来ない。

「終わりです。」

「うわああ!」

 結局必殺技を避けることは出来ず、融合変身は解除されてしまった。

「うっ…。」

 その場に倒れ込む大翔とケント。

「大翔!ケント!」

「大丈夫?!」

 洲義人と水瀬は大翔、ケントの元へ向かう。

「仲間を助けていれば、自分の身を滅ぼす。」

 ダークネスケントは洲義人と水瀬に狙いを定め、必殺技の構えをしていた。

「2人とも危ない!」

 それに気付いた海樹は咄嗟に鞘から秋田剣を引き抜いて2人の前に立ち、ダークネスケントの攻撃を防ごうとした。

「くっ、もう限界だ…。うわああ!」

 必殺技により、地面に強く叩きつけられた海樹。

「海樹!しっかりして!」

 水瀬は呼び掛けるが、反応は無い。

「こうなったらもう、奇跡に賭けてみるしか…。」

 洲義人は今まで集めた24市町尊の鍵を取り出した。

「洲義人、一体何をするの?」

 水瀬は聞く。

「村の古い言い伝えであるんだ。『4本の秋田剣と25市町尊が揃うとき、大いなる力が悪を打ち砕く』と。」

「奇跡など滅多に起こりません。そんなことにすがっているようではあなた方2人も他のお仲間のようにして差し上げますよ。」

 ダークネスケントは言う。

「やってみないと分からないだろ!頼みます、24の市町尊さま、そして4本の秋田剣、我々4人と1人の市町尊に大いなる力を!」

 洲義人が願ったとき、その奇跡は起きた。気を失っていた大翔、ケント、海樹が目を覚ました。

「ん?ここは…。そうだ、俺はケントと融合変身して奴と戦ってやられたんだ…。」

 大翔は立ち上がる。

「随分とダメージを受けた筈なのに、なんだこの奥底から沸き上がる力は…!」

 ケントも立ち上がりながら言う。

「本当だ…。凄い…。」

 必殺技を生身で食らった海樹も全快のようだ。

「これは市町尊と秋田剣の奇跡。今ならもう1度融合変身が使える筈。」

 洲義人は大翔とケントに言う。

「洲義人が助けてくれたんだな、ありがとう。」

「我からも礼を言おう。」

「『洲義人と水瀬のお蔭』でしょ?ありがとう。」

 大翔、ケント、海樹の3人は礼を言う。

「奇跡がそう簡単に起こってしまうとはなあ…。」

 ダークネスケントは驚いている。

「なーに、奇跡はこれからだ!融合!」

「変身!」

「「変身完了!パワードケント!」」

 大翔とケントはパワードケントに変身した。

「2度も3度も奇跡は起こらない!最終奥義、ダークネスブレイブラスター!」

 ダークネスケントは剣先にエネルギーを集め、光弾を生成する。

「「させるか、最終奥義!パワードブレイブラスター!」」

 パワードケントも剣先にエネルギーを集め、光弾を生成する。

「「はあああ!」」

 2人の光弾がぶつかり、大きな爆発が起こる。爆風の中現れたのはパワードケントだった。

「「やったぞ、遂に倒した…。」」

 パワードケントの変身が解除され、大翔とケントの姿に戻る。他の3人は側でガッツポーズをしていた。


 それから数日後…

「短い間だったけど、ありがとな。」

 大翔は言う。

「みんなのお蔭で黒幕を倒すことが出来た。」

 ケントは大翔の後に続ける。

「私も随分と刺激的な体験が出来た。この市町尊の鍵は後で元の姿にしておくから安心して。」

 洲義人はにこやかに言う。

「そういえば、水瀬と海樹は?」

 大翔は洲義人に聞く。

「彼らは学生だからね、本業に戻ったのでしょう。そういえばこれから大翔はどうするの?」

「洲義人、それ俺に聞くんだな。」

「そりゃあね、一番私生活が謎だったから。」

「俺はあれだ、ケントと共に楽しく過ごすよ。」

「大翔らしいな笑笑。」

「じゃあそういうことで。またどこかで!」

「洲義人、じゃあな。」

 大翔とケント、人間と市町尊のコンビはどこかへ消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る