第4話 ひたすら基礎訓練

「疲れたぁ」

 初日は基礎を叩き込まれた。聖童師のこととか吸血鬼のこととか。あとは戦闘訓練。

 運動は好きだけど戦闘は苦手なんだ。格闘技とかとは無縁だったから。

 ヒーローには憧れたけど今まで戦いとかしてこなかったな。


「くれぼんは歩き?」

「うん。すぐそこだから」

「そうなの?なら一緒に帰ろ」

「なんでよ!」

「いいじゃん途中まで」

「勝手にして」

「おっけー」

 校舎を出て坂道を下る。


「いつからここに来たの?」

「四月から。小学校卒業してそのままここに来た」

「へー、じゃあちょうど半年くらいか。僕も中学卒業して直ぐにこっち来れば良かった。絶対その方が楽しい」

「ここがどこだかホントにわかってんの?」

「もちろん。吸血鬼を狩るための学校でしょ?」

「そんな気軽に来る場所じゃない」

「いいじゃん、人それぞれで。僕はヒーローになるためにこの学校に来たんだ」

「そうなんだ」

「ちょちょっ、くれぼんは?」

「吸血鬼を狩るため」

「単純!」

「バカにしてる?」

「してない!してない!」

「ならいいけど」

「吸血鬼見たことある?」

「何回か。先生に着いて行って見せてもらった」

「どうだった?」

「普通の人間と変わらないよ。見た目も中身も」

「へー、そんなもんなんだ。大きな翼とか、目が赤いとかマントしてたり赤ワインを嗜んでるとかじゃないんだ」

「うん、全然」

「会ってみたいなあ」

「先生も言ってたでしょ?多分今まで何回もすれ違ってるよ。そこら辺にいるから」

「マジかぁ!」

「そのほとんどは無害な吸血鬼だけどね」

「いつ狩りに行けるんだろ」

「私もまだだからね。それなりに先じゃない?」

「早く強くなるしかないか」

「そうだね」



 団地に入る。

「あれ、くれぼんもこの団地なの?」

「うん。みんなそうだよ」

「みんな?」

「他の生徒も」

「他にもいるんだ」

「もちろんいるよ。先輩が何人か」

「へー、先輩にも会いたいな」

「で、いつまで着いてくるの?」

「俺もここなんだ」

「嘘でしょ」

「マジです」

 同じ棟の前で止まる。


「何階?」

「五階」

「はぁ」

「もしかして」

「私も五階」

「あらま」


 階段を上がる。

「それじゃあ」

「それじゃあ。これからよろしくお隣さん」

「はぁ。なんで隣なの」

「まぁまぁ。それじゃあまた明日」

 僕たちは偶然にもお隣さんだった。知り合いがお隣さんだとなんか落ち着くかも。

 左隣はくれぼん。右隣の角部屋は火隣さん。

 つまり、501号室火隣。502号室僕。503号室くれぼんって感じ。

 そしてあと一つの左側の角部屋504号室は誰か分からない。



 それから二ヶ月後。

「うん。かなり良い所まで来たね。

それじゃあ、これからは武器を扱えるようになろうか」

「武器使うんですか?」

「素手で首をはねたり心臓を潰したりできる?」

「んー。難しいかも?」

「確かにそんな破壊力はまだ無い」

「そう。だから武器を使うの」

「先生は普段素手ですよね」

「そりゃあまぁね。先生もだけど、みんな最初は武器を使うんだよ。

 それで童質を知って使い始めてから本格的に戦い方を決めるの。

 それに先生だって時と場合によっては武器使うからね」

「なるほど。確かに使えておいて損は無いですよね」

「そそ!だからがんばろう!これが終われば念願の吸血鬼狩りだよ!」

「「おお!!」」



「で、どんな武器があるんですか?」

「無難にナイフかな。他に気に入ったものがあればそれでも構わないよ。

 裏に倉庫があるから行こっか」

「「はい」」

 グラウンドとは反対側の校舎裏にある小屋みたいな倉庫。


「おー、初めて入る」

「私もずっと気になってた」

「それでは御開帳!」

 先生が扉を開ける。

「ここが聖具室」

 中には色んな武器が置かれて壁にかけられたりしてる。

「これ法律とか大丈夫なんですか?」

「確かに」

「そこはまあ、国のお偉いさんと聖童師はズブズブだから…ね!」

「おお!」

「力技だ!」


「で、聖具室?聖具って?」

「授業聞いてなかったの?」

「うん」

「はぁ、しょうがないから私が教えてあげる!

 聖具っていうのはね、凄い聖童師の人が時間をかけて武具に自分の童質を馴染ませるの。

 そして、極稀に出来上がるのが聖具。

 童質を持った武具ってわけ」

「そういえばそんなことを聞いたことがあるような」

「授業で言ってたから!」

「そうね。でも全部が全部聖具になるわけじゃないからそこまで数は多くないの。だから君たちが使うのは普通の武器。聖具はまだ早いかな」

「まぁ、そもそも童質がわかってないし」

「それじゃあ好きな武器を選んでね。聖具はダメだけど」

「この、聖気を纏ってるのが聖具ですよね」

「うん」

 壁にかかってる剣とか斧から聖気が漏れ出してる。

(すげぇ)

「僕はナイフでいいかな」

「私も」

「この左右対称なのが良い。それに柄と刃が真っ黒でかっこいい」

「安直」

「いいんだ。こういうのは気持ちの問題だから」

「私はこれかな」

「いいじゃん」

「このベーシックななんの特徴も無いナイフ」

「ドラマの殺人現場によく落ちてるやつじゃん」

「言い方!」

 黒の柄に銀色の刃。刃渡り十五cmくらい。僕のも十五cmくらい。

「普段は学校に預けてね。校外に持ち出す時は必ずケースに入れて中身を見えないようにするように」

「「はい」」

「それじゃあ早速、武器を使った戦闘訓練始めようか!」

「「はい!」」


「しばらくはカバーを付けた状態で今までみたいに組手しよっか。あとは巻藁相手に練習で」

「「はい」」



 と、いった感じでさっと始まったけど刃物の使い方なんてわかんないし、かなり難しい。

 掴みにいくのも片手が塞がってるし今までとは違う戦い方が必要になってくる。


 てか、ナイフ当てられると結構痛いぞ。肩とかジンジンするし。カバー無かったらやばいぜ。

「とうっ!はぁ!せいやぁ!」

「フッ!ンッ!グッ…」

 この二ヶ月間でわかったけど僕とくれぼんは同レベル。

 体格差があるけど、柔軟性とか俊敏性とかセンスで力の差を埋めてくる。

 したがって、僕の戦闘センスは皆無である。力技で何とか追い越されない形になってる。つまり何が言いたいかというと、掴めないのが結構辛い。押し合いに持っていきたいのに片手じゃキツい。


「はっ!フンッ!」

 パンチをナイフで弾いてから左拳をお腹に叩きつける。

「グッ。だあっ!」

 腰が入ってなかったか、耐えられて無防備な顔面にパンチをくらう。

「ブヘラッ!」

(ふっ、血の味は久しぶりだぜ)


 そこからナイフで心臓を突かれる。

「グフッ!」

「勝負ありだね」

「イッテ〜!」

「まだまだだね!」

「たまたまだろ」

「もう一回」

「当たり前だ」


 これは決して女児暴行では無い。

 今日はむしろめちゃくちゃやられた。手加減なんてしてる余裕ないんだよ!殴らなきゃ殴られるんだ、なら殴るのは当然の帰結さ。


 心臓、みぞおち、すね、顎、首、ことごとく急所を狙ってくるんだ。恐ろしい。

 残虐少女やで。

 幸いなのは貞操帯が金的を守ってくれてることかな。

 もしかしなくても僕のこと嫌いなのか?


 それでも僕は彼女を殴る。

「でいやぁ!」

「ガッ!」

 僕のナイフの先端がくれぼんのみぞおちに綺麗に入った。

「ばっ!ぐあっ」

 くれぼんはその場でうずくまり、のたうち回る。

(ふぅ。すっきりしたぜ)


「大丈夫?」

「大丈夫じゃない」

「僕に勝つには10年早かブボッ!!」

 手を差し伸べると、寝っ転がった状態から足が飛んできて僕の顎をかちあげた。

「なっ、なにすんだよ」

「ニヤニヤしててイラッとした」

「久しぶりに綺麗に決まったから、つい…」

「ムカつくぅ。てか、まだ息しづらいし」

「僕もびっくりの一撃だったね。成長したなー。僕」

「まだ私の方が勝率高いけどね」

「もうそろそろぴょいっと飛び越えるよ」

「無理!絶対無理っ!」




 それから一月もすればナイフを手の上で遊ばせることもできるようになった。

 冬になっても先生は薄着だった。


「それじゃあそろそろ吸血鬼狩りに行こうか」

「はい!」

「ついに来たか。聖童師デビューする時が。

 僕は聖童師界に嵐を呼ぶ男」

「だっさ〜!」

「くれぼんにはわからないか。で、いつですか?」

「来週かな〜、準備もあるから」

「了解ですっ」

「了解!」

 人見先生からのお墨付きを貰って俄然やる気が出てきた。

「次の一本取った方がジュース一本奢りで!」

「のった!」



 このあとボコボコにされた。



 うーん。ナイフはしまっておいた方がいいかもな。トドメ刺せる時に抜くか。



「ちなみに聖童師には位階制度っていうものがあってね、吸血鬼を一体でも狩ると与えられるんだけど。

 上から正一位、従一位、正二位、従二位、正三位、従三位、大初位、小初位って分けられてる。

 だから二人はもうすぐ少初位になれるよ」

「へ〜」

「少初位ってどのくらいですか?」

「んー、一般人くらいかな。大初位は格闘技やってる人くらい」

「これでもまだ一般人なのか」

「まだ一般人でもないけどね」

「そうじゃん!」


「正一位って何人いるんですか?童帝だけですか?」

「いや、今は二人だね。童帝の道楽(どうらく)君と五貞の蓮華桜(れんげざくら)さん」

「え、蓮華桜って人は童帝と同じくらい強いんですか?」

「んー、同じ位階ってだけだからね。蓮華桜さんは五貞の中でも飛び抜けて強いんだけど、もっと強いのが道楽君。正一位の上が無いからそうなっちゃってるの」

「それでも二人しかいないんだ」

「まあね、そもそも正一位になる事自体が特殊なんだよ。大抵が死んだ人に与えられるものだから」

「「えっ!」」

「それだけ正一位は特別なの。まぁ、歴代童帝はほとんどが正一位だったんだけど、たまに従一位の代もあったみたい」

「蓮華桜って人すげぇ」

「そのうち会えると思うよ。挨拶に行かなくちゃいけないからね」

「「挨拶?」」

「うん。聖童師になりましたって聖童師の偉い人たちに挨拶しに行くのが伝統だから」

「うへぇ。面倒くさそう」

「私は早く会ってみたいな」

「まじ?」

「うん!だって強い人たちに会えるんだよ!」

「戦闘狂かよ」

「そうだよ?」

「えっ!知らなかった!!」

「鈍いなぁ」

「ちなみに童帝と五貞、三芸貞、防衛大臣、委員会一行が揃うから結構大掛かりなんだよねー」

「まじか、益々行きたくない」

「確かにそれは想像以上」

「といっても、挨拶はついでだからそんなに緊張する必要ないよ。合間にパパっとやるから」

 話を聞いてるだけで、もう嫌になってきた。





 そして吸血鬼狩り前夜。

 ベッドこの上で考える。初めての狩り。

 ワクワクが止まらず、その日は眠れなかった。

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