第6話 敵

 やっとリリーが意識を取り戻した。

 回復魔法をやめ、リリーに声をかけてみる。


「おーいリリー、聞こえる?」

「う……何とか………」


 かなり辛そうにしているが、結構頑張って回復したため、少し休めば全快しそうだ。

 警察の方も、殺しちゃまずいから手加減したのかな?


 にしても、疲れた。

 攻撃魔法はまだ慣れない。


 私が魔力切れになる心配はないし、そもそも魔力が多すぎて暴走する方が危険だけど、慣れないことはやっぱり怖いし、疲労感が凄い。


 ま、まだいくらでも戦えるけどね。


 ――と、その時。


 私の気持ちに呼応するように、真後ろにどす黒いものが広がった、気がした。

 やばい、高魔力で戦ったから、痕跡が残ってるかも。


 もしや、また見つかった⁉


「――……や~っと見つけたよぉ」


 気味の悪い声が聞こえる。

 後ろを見るのが、怖い。


 プルプルと体が震えたが、歯を食いしばって覚悟を決める。

 そして、バッと振り返った。


 そこには、黒い髪をした女の人がいた。

 ふちが水色の丸眼鏡をかけていて、髪型はショートカット、短いスカートに驚くほど不似合いな長い袖のパーカーを羽織っている。


 にしても、今日はよく知らない人に絡まれる。

 攻撃してくるようなら、容赦はしない。


 いつでも魔法を出せるよう、ポケットに入れておいた杖を隠し持つ。


 女の人は舌なめずりをすると、両手の指を絡ませ、唱える。


「掌握魔法、『血飛沫チシブキ<捻>』」


 しょうあく……魔法?

 ブシュッ!


 気づいた時には、私の頬に血がかかっていた。

 杖を持っていない体の左半分が、えぐられたように消し飛ぶ。


 ――……今何をされた?


 不思議に思ったのも一瞬だけだ。

 すぐに激痛が襲ってくる。


「う……あ……」

「あっれ、今の殺す気で撃ったんだけどなぁ。高魔力の障壁が邪魔したかぁ。でも、大ダメージ入ったし……? ね」


 攻撃してきた女がこちらにゆっくりと、不気味に近づいてくる。


「研究できるかなぁ?」


 ……は?

 女の放った一言が予想外で、思わず回復しようとする手を止めた。


 ……研究?

 どういうこと?


「君は凄い魔力を持ってる。きっと、特異体質なんだろうねぇ。だから、きっと研究がはかどるよぉ。

 抵抗しないでね?」


 待って、これは全力で逃げたい。

 魔法警察の次はこんなやつに絡まれるなんて……!


「ん~と……じゃ、えいっ!」


 その女は、どこからか注射器を取り出した。

 どす黒い液体が入っていて、吐きそうだ。できればあまり見たくない。


「からの……人形魔法ドール・マジカル、『むし』」


 女の手から禍々しい光があふれ出し、大きな黒い、うごめく物体になり、取り出された。


「私が改造して超強化した魔界の蟲だよ。攻撃が直撃したら……どうなっちゃうのかなぁ?」

「リリー、動ける⁉」


 この分だと、まだ回復まで時間がかかる。

 ようやく腕の再生だから、ちょっと苦労するかも!


 震える声でリリーに叫ぶと、


「言われなくても分かってるわよ、『虚無穴ゼロ・ホール』!」


 しかし、やっぱり安定しないのか、穴はすぐに崩れて消えてしまう。

 リリーは震える手で、腰に差した杖を握った。


「しょうがないから……私の本気を見せる!」


 杖の先端についている宝石は、なぜかどんよりと濁っており、宝石の光などはまるで感じられなかった。


空間魔法スペース・マジカル……『永無ゼロ・エンドレスナイト>』!」


 リリーが長い呪文を詠唱し終わる。

 それに反応したように、濁っていた宝石がキラリと灰色に光る。

 

 ものすごく高火力、それでいて精密な魔力操作!


 すると、穴が大きくなり、次々に分裂していく。

 それが騎士のような形に変形して、女の方へと突進していった!


 リリーが時間を稼いでくれたおかげで、何とか腕を再生し終える。


「よし! 私も援護するよ、リリー!」


 杖の先端に魔力を込める。

 宝石がキラリと虹色に光ったのを確認し、杖を掲げた。


「天空魔法『天息吹エンジェル・スピリット』+氷魔法アイス・マジカル氷魔剣アイス・ブレーバー』」


 魔力が宿っていくのを感じ、目をしっかりと開いた。

 魔法を使うときの反動はおかまいなしに、この一発に込める!


「複合魔法『天吹剣スピリット・ブレーバー』!」


 ゴオッと風が吹き荒れ、天の力を使った攻撃と、創成した氷の剣で相手の衝撃を吸い込む。


 風をまとった特大の氷の剣を、3つに分割して女の方へ向けた。


「三連!」


 これこそ、三回連続攻撃。

 全属性っていうのを、なめられちゃ困るよ!


 しかし、女はにやりと笑い、両手の人差し指と中指で円を作った。


「掌握魔法『消魔力シール』」


 フッ……と、電気が落ちたように、私の魔法も、リリーの空間魔法も、跡形もなく消えてしまった。


 掌握魔法……そうか、その名の通り魔法を意のままに操るのか!


 でも――こういうのには大体、対抗策があるんだよ。


「複合魔法『反転ミラー』!」


 吸収魔法と鏡魔法をかけ合わせた、全ての魔法を吸収して反射する壁だ。

 これで、相手にはもう小細工ができないはず。


 しかし、女は相変わらず気味の悪い笑みを浮かべて、ゆらりとその場から動こうとしない。


 すると、ゾクッとした悪寒が、私を襲った。

 目の前の女はにやにやと笑っている。


 こいつの正体は、一体――?

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