第4話 頼み事と鏡町

「こちら七班! 指名手配犯とよく似た人物を発見した! すぐに拘束に向か……う………」


 通信機がガシャンと落ちる音とともに、七班の全員が次々に倒れる。

 そして、私はフッと息を吐いた。


『七班⁉ 応答せよ! 応答せ』


 ブツッ。

 私はまだ聞こえてくる通信機の電源を切り、暑くなってきていてうんざりしていた手袋を外す。


「まったく、幻魔法が使えるのを、警察は知ってるはずでしょ。学習しないなぁ……」


 ボソッとつぶやいてから、髪の毛をはらった。

 まぁ、成功した。

 防護マスクとかつけてなくてよかったね~。


 後は、「浮遊魔法」の何かの掛け合わせで、空から偵察してみよ。


 ん~、ちょっとした魔力の暴走なのに、なんでこんなに追ってくるんだろ?

 まあ、魔法の操作はうまくないから、こっちの魔力で対処できる。


 捕まりたくはないし……でも、街を何個か破壊しちゃったのは事実だけど、ね。


「でも、殺意むき出しで来られたら……ねえ。私も逃げるしかないし」


 魔法で作り出された監視用の妖精が、私に気づかず通り過ぎる。


 魔力探知、気配探知の要素を、魔力で強引に下げているからね、ちょっとやそっとじゃ見つからないよ。


 あっ、ちなみにさっき見つかっちゃったのは、立ち去ろうとしたときにずっこけて、音が立って見つかっちゃったんだよ。


 どうやら私の全魔力量は「測定不能」レベル。

 ……つまり、どれだけ魔力があるか分からないほど多すぎってこと……らしいよ。


 自分でもよくわからないけどね!


 そうぼやきながら、手に入れている魔法の種類を確認する。


「ううぅ……『不死魔法アンデッド・マジカル』かぁ……。これのせいだな、元凶……」


 罪悪感がひどい中、この魔法を見つけてしまっため息を止められない。


 これのせいで、私は寿命で死ぬことは無いし、自殺もできずに、生き残ってる羽目になる……もちろん自殺なんてしたくないけど!


 にしても、何でこんなことになったんだろ。


「やっぱり、私が『魔王の末裔』だから?」


 梨花りかの最後つぶやいた一言。

 転生された理由は……「魔王の末裔」だから。


 そりゃ、やっぱり魔力は多いんだろうな。

 じゃあ、その根源である魔王を倒せば、きっとこの力は消える……はず。


 少ない可能性でも、やってみなけりゃわかんないよね。


「よし、頑張って魔王を見つけて、倒そう!」


 叫んだはいいものの、その魔王がどこにいるかわからないから困ってるんだった。

 はあ、何もできることないじゃん。


 逃げることくらいしか、私にはできそうにないのかな……?


 うーん、やっぱり、情報とかを仕入れる情報屋、というか仲間がほしいな。


「まあ、ほぼ無差別殺人犯になり果ててる私の仲間になりたいなんて人は、頭がおかしいだろうな!」


 自分で納得しながら、焦る。

 どうにかできないかな、もう少し私が制御出来たら……。


「……何してるんですか?」


 後ろから声をかけられて、垂直飛びに飛んでしまった。

 そして恐る恐る後ろを向くと、女性が私を見つめている。


 どうして私を見つけられたんだろ……?


「もしかして………ランさん?」


 直球……。

 実は、監視カメラかなんかであの森も監視されていたらしくて、アクアは妖精だからなのか見つかってないんだけど、私の声は丸聞こえ。


 そして名前はばれてるんだけど、何で私がランってわかったの⁉


「丁度良かった」


 女性は顔色一つ変えず、にこにこと笑ったままだ。


「ランさんに頼みたいことがあったんですよ」


 えーと……私が指名手配犯って、この人は知っているのだろうか……?

 むやみに巻き込んじゃ悪いし、正直に言っておこう。


「いやでも、魔法警察に追われてる奴だよ? 私。だから、関わらない方が……」

「だからこそ、必要なんだよ」


 鋭い女性の声に、私はビクリと震えた。

 悪寒がする。


「じゃ、ついてきて」


 くいっと指を折り曲げられ、私は身構えた。

 しかし、足だけは自分の言うことを聞かず、どんどん女について行ってしまう。


「えっ⁉ なにこれ⁉」

「一定時間だけど、相手を操れる魔法具マジカル・アイテムをつけてるの。まあ、初対面の人、しかも五分間だけだけどね。

 それに、解除魔法コールド・マジカル使われたら意味ないし」


 女はこちらを向かないで言う。

 私は解除しようと思ったが、何故かためらった。


 女から、悪い感じは消えている。

 別に、いい奴……なのかな?


「ここ」


 浮遊魔法で浮かびながら、私たちは町の前に来ていた。

 全てが透明な、ガラスに似た物質でできていて、光が反射し合ってる。まるで……。


「巨大な鏡みたい……」

「その通り」


 女がうなずいた。


「ここは鏡町かがみちょう。あなたには、ここを支配している悪魔たちを……倒してほしい」

「はっ?」


 想像していた言葉とまるで違った。……だから。


 素っ頓狂な声が、私の口から出ていた。

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