第27話 魔王軍幹部 ③
平原と丘が交錯する地で魔王軍幹部を見据えて、アラシが指輪を嵌めた左手を掲げた。
途端に眼前の城門を塞ぐように水の壁が出現した。
「貴様………」
「それなりにはデュラハンのことは、知ってる。
まがりなりにも俺たちは冒険者なんだからな」
「ナイスだね、アラシ!
これで敵さん、不利になっても城に逃げ込めなくなったよ !」
「……確かに先手はそちらに取られた。
だがな、こちらは、
どこまで耐えられるかな?」
ベルディアが自らの鎧の中をまさぐる動きを繰り返す度にアンデットナイトが数を増やしていく。
瞬く間に千を越えた。
増殖してゆく敵を見ながらアラシが指示を出した。
「めぐみん、最大火力だ。
今日は、身体を動かす体力があればいいからな。いくぞ! えーてーフィールド !」
雄叫びと共に発動した魔法の球体がベルディアとアンデットの群れを包み込んだ。
普段は透明のその光は、虹色に輝き物理的圧力を加えて締め上げている。
そしてアラシの前から強引に魔力を高めている めぐみんの正面まで引きずられて……左手を動かしながら、更に三つ目の魔法が発動した。
「
撃て、めぐみん!」
「何人たりとも我が前を塞ぐこと能わず!
いきますよ、エクスプロージョン!!」
可能な限りの近距離で放たれた爆裂魔法は、閃光を放ち猛烈な爆風が敵を飲み込んだ。アラシたちは、衝撃に必死に耐えて立っていた。
爆裂魔法の膨大な魔力消費にふらついているめぐみんにすかさずねりまきが『ヒール』を使う。
今回、最大火力でと言われたので魔力のほとんどをつぎこんでしまったのだ。
流石に不味いので彼女は指輪から蓄えていた魔力を吸収した。
以前と違い、爆裂魔法を放てばそれで終わりと言う考えはない。
しっかりと事後の事態にもそなえるということが身に付いたのだ。
めぐみん自身の精神も成長している証である。
「ありがとうございます、ねりまき。
皆、戦闘体制を解いてはいけませんよ !」
それでも爆裂魔法を受け、ベルディアなどはその直撃を受けたのだ。
死なないまでもかなりのダメージを受けたのではないか?
そう思われた時に煙が晴れた。
直径二十メートルはあろうかと言うクレーターの真ん中にベルティアは立っていた。
もちろん無傷ではない。
出現していたアンデットナイトも大部分が消滅し、残っている者もボロボロの姿で本来の能力を発揮できないだろう。
ベルディア自身も跨がっていた馬の姿はなく、左手に抱えている兜の頭の飾りが取れていた。
そして……
「やってくれたな……」
苦々しげに吐き捨てる首なし騎士を面白いように見つめていた、あるえが指摘した。
「鎧の内部に隠していたその水晶。
それが壊れていたら、もう手下は呼べないんじゃないかな?」
会話の最中に小柄な銀髪の少女が駆け抜ける。
ベルディアの背後からの奇襲は……予測されていた!?
「あんまり俺をなめるなよ?
どうやら、こいつの短剣は魔を祓う力があるようだがな !
当たらなければどうということはない」
追撃でフルプレートの脚で思いきり蹴られ、人形のように転がった。
「仕切り直しといこうじゃないか。
ちなみに、さっきの爆裂魔法で俺を阻んでいた障壁は消えたぞ」
アラシはぼろ雑巾のようになってぴくりともしない銀髪の少女を見た。
ねりまきが駆け寄って懸命に回復魔法をかけているがこの戦闘中は復帰は見込み薄だろう。
そばにいるあるえ・めぐみんを見たアラシ。
二人とも不安な顔をしていた。
「ここまで俺を追い詰めたお前たちにとびきりの絶望を見せてやろう!」
暗黒騎士が相手を追い詰めるべく呪詛の言葉を発しようとした時、目の前の少年の雰囲気が変わった。
何の変哲もなく見える灰色の皮鎧が黄金色に光輝き、黒髪の頭髪が逆立っている。
本来は黒のマントが青く全員が知覚するほどに羽が見える翼の形状に変化した。
そしてその瞳は、紅魔族の証し、燃えるような深紅に輝いていた。
首なし騎士は一瞬気圧されてしまい、呪いの言葉を中断してしまった。
そして、それが彼の敗因に成る。
「調子に乗るなよ。
幹部と言っても最弱なくせに!
爆弾低気圧、アクエリアスシャワー !」
アラシが呪文を唱えた後、アラシは局地的な雷雨の中、ベルディアに突撃した。
残された三人娘は、未だ目を覚まさないクリスを守ってアンデットナイトと戦っていた。
「アラシ、怒ってたね 」
「うん、クリスを傷つけられたのが、そうとう頭に来たみたいだねえ」
「でも、首なし騎士に一人で突撃させて大丈夫かな?」
「問題ありません !」
「めぐみん?」
「アラシのあの鎧とマント。
あれは、それぞれが光を放っているのではなく、アラシ自身の光が溢れて、ああいう風に見えてるのです。
普段、封印している力を本来の状態に戻っただけです。
それに、アノ目を見たでしょう?
滅多に光らないあの男の目が燃え上がるように光輝いていたのを!」
「そうだねえ。それにアラシが降らせたのって聖水の雨みたいだしね」
「じゃあ私たちは、大人しく目の前にいるくたばりぞこないを片ずけるとしますか♪」
「めぐみん、君はさっき爆裂魔法で大量に倒したんだから、ここは私達にゆずっておくれ」
「そうだ、そうだ !」
「何を言うのですか、倒せるときに倒す!
経験値は、取れるときに取っておかないと !」
「横暴だ~ !
私だって敵を倒してレベルアップだよ。
さあ、インフェルノ!」
「ねりまき、君はせっかく渡された石化の盾を使いこなさなくちゃ!」
「あ、そうだった !」
「ふん、まさか聖水の雨を降らせるとはな……
さっきの爆裂魔法といい、いまいましい奴らだ」
ベルディアが毒舌すると、
「お前の本来の動きは、もうできないだろう?」
アラシも逆に挑発した。
「それでもだ! お前のその剣は、特別な魔法剣と言うわけでもないだろう !
なのに、何故この俺に痛手を負わせることができる?
結構、俺はお前に深傷を与えてるはずだ !
何故平気で動ける?」
不思議がるベルディア。
「俺がそういう身体だからだ !
傷が平気なわけでもないぞ?
時間と共に自動で傷も体力も魔力も回復するんだよ!」
アラシは律儀に答えていた。
「そんな理不尽な話があるか!お前は化け物か?」
驚愕するベルディアは叫んでいた。
「そんなわけあるか!
与えられた能力だけで生きていけるほどこの世界は甘くない。
連日のように鍛練して戦い続けてる。
何もしないでいては、そもそも、お前の前に立つことすらできなかったろうさ!」
ベルディアの疑問に答えるアラシ。
会話の最中も二人は剣の応酬をしていた。
首なし騎士は、そうとうなダメージを受けていて、今やその鎧もボロボロだが動きは鈍っていない。
加えて先程指摘したように、アラシの剣は特別な魔法剣などではない。
大事に手入れをしているが、連日のように使いづめなのだ。
魔法で補強していたとはいえ、ここまでもっていたのが不思議なのだ。
「ヌオー!」
「セイヤー!」
二振りの剣がぶつかり合い、片方が折れた……
「とどめだ。ダークオブセイバー!」
真っ向から切り下ろす暗黒騎士に対して、アラシは折れた剣の持ち手から光を出現させた !
「潮来圓明流、変位抜刀霞斬り!」
駆け抜けざまに胴を切り払い。
振り向きざまに、その左手ごとベルディアの兜を真っ二つにした。
「……見事だ。 この俺を倒したのだ、胸を張ってよいぞ」
「よせよ。 俺は勝てるように方策を練り、デュラハンのお前の力を押さえるように行動した。
マトモな剣の技量ならずっとお前が上だろう?」
「それも勝負と言うものだ。
ルールを決めた試合ではなく、生死をかけた闘いなのだからな。
お前は、国に仕える騎士には向いておらんな !
自分の信じる者達の為に戦うといったところか?」
「国が俺を支配するのは許さない !
俺が戦うのは、俺の大事な者達の為だ。」
「……もっと早く貴様に会いたかったな」
「そうだな、一度くらいは酒を酌み交わしたかったな」
「ではな、楽しかったぞ !
それとな、そこの娘よ。
地上に降りて来ている時は人間並みなのだから、接近戦はしない方が良いのではないか?」
そう言って形が薄れていき、魔王軍幹部ベルディアは消えた。
後には、暗黒騎士の大剣と割れた兜が残った。
アラシが振り返ると、あるえとねりまきに支えられて、クリスがゆっくりと近づいてきた。
そしてエリスが姿を表す。
「私のこと、ある程度感づいていたようですね。」
「クリスもだが、エリスは大丈夫なのか?」
「正直、全く被害がないわけじゃあないんですよ。
しばらく天界にいるかもしれません。
まあ、仕事も溜まってますし片がついたら、また来ます。
ああ、クリスに関しては、回復魔法で対応できるから大丈夫ですよ」
テレポートなのか、特別な手法なのか、瞬間的に見えなくなったエリスと別れてから、自分達も帰還することにした。
「それにしても、ベルディアは、もしかしたら途中からアラシに敵意は持っていなかったのではないですかね?」
「そうかもしれないな……」
答えるアラシだが、隣でまだふらついているクリスを見て彼女を横抱きにした。
「わっわっ、アラシ、恥ずかしいから下ろしてよ~ !」
「まだ回復してないだろ?
それにしても、エリスもダメージを受けるとはな。深刻じゃなければいいが」
「うん、心配だよね」
二人の会話をじっと見ている三人娘。
「うらやましい !」
「私もして欲しいかな !」
「正妻は私ですよ!」
「ふうん、めぐみん、そこは自分だけが嫁だ~ って騒がないのかな !」
「めぐみんが私達を認めてくれて何よりだね♪」
「うるさいですよ !
今回はしかたなくクリスに譲るだけです。
調子に乗らないでください!」
「おーい、アクセルに戻るぞ?ベルディアの剣と兜は誰かが持ってくれ !」
「今、行きますよ !」
アラシ達はアクセルの街にテレポートする準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます