第16話 邂逅

【めぐみんside】


 私達は、アクセルの冒険者ギルド裏手に来ていた。


「ここがアクセルか、けっこう大きな街だね」


 あるえが物珍しげにキョロキョロしている。


「用があるのは、ギルドくらいだからな

 全員、スキルポイントが溜まったら、テレポートを覚えてくれ !

 緊急脱出にも使えるし、場所を決めて落ち合うにも便利だからな」


「でも私は、これから回復魔法を覚えなくちゃいけないんでしょう?」


「ねりまきも、ポイントがたまってからで良い」


 そうして私達がギルドに入ろうとすると、空き地のほうから、騒がしい声がした。


「ウヒョウ、大当りだぜ !」


「私のパンツ返して~ !」


 そこには、ゲスい顔をした女物の下着を振り回すサトウカズマと、片手をショートパンツの上から押さえて涙目になっている銀髪をショートカットにした盗賊風の少女がいた。


「カズマ、あなたは一体何をしているのですか?」


「おお、めぐみんか?昨日ぶりだな

 この娘に盗賊スキルを習ったんだが、スティール対決になってな

 盗れたのが、このパンツだ !

 言っとくが、ただで返す気はないぞ

 俺も、それなりにリスクを背負っているんだからなあ !」


 私は、何か言い返そうとしてやめた。

 あっさり自分をパーティーから放り出した男だ。

 ここで言うことを聞くはずがない !


「まあ、そういうわけだから !

 一緒にいる美人のお姉さん達も、余計な口出しは……?」


 カズマが違和感を覚えたのか、自分の手を見た。

 先程まで振り回したパンツが無かった。

 慌てて見回すと、ちょうどアラシが銀髪少女にパンツを手渡しているところだった。


「そこの物陰でも手早く履いてきな。」


「うん、ありがとう

 私は盗賊職のクリスだよ」


 


「俺はアラシだ……ゲームセンターとは関係無いアラシだ !

 混血の紅魔族と云うことに成っている、それより早く!」


 顔を紅くして物陰に隠れたクリスの方をみていると、 カズマがこちらに近寄ってきた。

 かなり不機嫌な表情だ。


「ずいぶん余計な真似してくれたな !

 正義の味方にでも成ったつもりか?」


「正義 ? 俺が正義か……クッ クッ クッ 」

何故か、可笑しそうに笑っているアラシ

 

「これは、俺自身のためでもあるし、お前自身のためでもあるぞ、サトウカズマ !」


 アラシがずいっと前に出ると、気圧されたカズマが一歩下がった。


「俺としては、あの娘に貸しを作って、俺達に協力してもらうようにしたいんだ !

 そしてカズマは『アクセルのクズ男』の評判を返上したいだろう?」


「お前、ちょっと何言ってるんだよ?」


「そこにいるクリスの連れの女騎士と俺達全員は、お前が女物のパンツを振り回して絶叫してたのを見てるわけだ !

 それに昨日は、往来でめぐみんを見捨てようとしていたのを、街の住人にも見られてるだろう?」


 苦虫を噛み潰したような顔になったカズマを他所に、着替え終わったクリスを手招きしたアラシ。


「うん、何かな?」


「スティール対決って云うことだけど、

 カズマがこう言う対応をする原因はクリスにあるんだろ?」


「うん……最初、私がカズマ君の財布を盗って、取り返すためのスティール対決で、確率を下げるために小石を大量にポケットに入れたの……」


 クリスの告白にあるえは、なんとも言えない顔をしていた。


「理不尽なことをされたと感じたから、それなりの対応をしたってわけね、呆れた」


 ねりまきが、やれやれと首を振っている。


「原因を聞けば、なんとなく分かりますが、

 カズマの対応は、あなたのパーティーの評判が悪く成るだけで、この先良い事はありませんよ」


 思わず出てしまった私の言葉に、


「まあ、そうは言ってもカズマは納得できないだろう

 年下に見える俺達に色々言われて、不愉快だと顔に書いてある

 だからこそ、騙した形になったクリスは財布の中身を全部渡したらどうだ !」


 言われたクリスが、おずおずと不機嫌な少年に近寄り、初めに盗った物と自分の財布を中身ごと差し出した。


「ごめんなさい

 君は言わば初心者で私を頼って来たのに騙すようなことしたのは私なのに………

 だから、ごめんなさい!」


「もう、いいよ !

 スキルはちゃんと教えてもらったし、クリスは謝ってくれたからな

 でも勝負なんだから、戦利品の代わりに財布の中身はいただくぞ !」


「それじゃあ、私は割りのいいクエストを探しに行くから !」


 その場を去ろうとするクリスにアラシが声をかけた。


「ああ、ちょっと待ってくれ

 ベテラン冒険者の助っ人を頼みたい」


「レベル38の究極戦士には、てほどきは要らないんじゃないの?」


「耳が早いな

 でもな、俺はともかく、ここにいる あるえと ねりまきには案内が必要なんだ

 それに、手っ取り早くクエストに行って金を稼いだ方がいいだろう?」


「OK、一緒に追いていくよ

 アラシ、よろしくね。」


「決まりのようですね、我が名はめぐみん !

 よろしくです」


「あるえだよ、よろしく」


「我が名はねりまき、よろしくお願いします」


「おい、俺の時と全然違うな?

 紅魔族特有の名乗りはどうしたんだよ?」


「サトウカズマさんでしたか?

 私とあるえも、アラシから色々聞かされたから、無用のトラブルは避けることにしたのよ !」


「まあ、そう言うことなんだけどね

 君が望むなら仕方ない !

 我が名はあるえ !

 紅魔族随一の発育にして、作家を目指すもの!

 どうだい、こんなもので?」


 五人になった私達一行がぞろぞろと歩いて行く。


「ダクネスは、カズマ君に用があるようだから放っておこう、じゃあねぇ ダクネス !」


「ああ」


 残されたダクネスが、おもむろにカズマの方を振り向いた。


「じゃあ、私たちも行くか、カズマ」


「ちょっと待て!

 なんでお前が一緒に行動することになってるんだよ!」


 ギルドの依頼ボードから無造作に一枚ちぎって受付に向かった。

 空いていたのは、露出気味の若い女性の受付だった。


「え、グリフォンとマンティコアの縄張り争いのクエストを受けるんですか?

 高レベル向けの塩漬けクエストですよ?」


「問題ない

 俺のレベルは足りてるし、魔法使いが複数いるから破壊力はある

 ベテラン盗賊のクリスが参加するから、不意打ちの心配もない

 首とか、証拠に持ってくる必要もないんだろう?」


「ええ、まあ討伐証明は、冒険者カードに記録されますから大丈夫ですけど」


「それじゃあ、行ってみよう!」


 受付を済ませてさっさと出ていった一行を露出過多な受付嬢が呆然と見送っていたと思ったら、大声が聞こえてきた。


 ◇◇◇

【受付嬢ルナside】


「気に入らねえなぁ~ !

 高レベル冒険者で女を何人も囲ってよ?気に入らねえぞ!」


ギルドの問題児の声が響いてきた。


「じゃあ、いつものごとく突っかかって殺されてみるか、ダスト?」


「どういうことだよ、ティラー?」


「さっき行ったのは、盗賊の女の子を除いて全員紅魔族よ !

一番小柄なめぐみんって娘は森でも建物でも容赦なく破壊してデッカいクレーターにしちゃう、はた迷惑な爆裂魔法を使うのよ !」


「リーンの言う通りだぜ !

 先頭を歩いてた黒髪のガキわな、この街でも鼻つまみだったあの『ヘマナリュウ』の手足へし折って使い物にならなくしちまいやがったんだ !

 ガキを魔法使いだと思って油断してたヘマナリュウを片手で持ち上げて地べたに叩きつけたんだぜ

 しまいには、相手が泣いて命乞いしたくらいだ!」


「キース、それ本当なのか?」


「俺は、現場に居て見てたんだから間違いねえ

 あの黒髪のガキはな、毒とか呪いとかも効かねえんだよ !

 ダスト、お前が突っかかるんなら、死ぬ覚悟で行けよ !」


「チっ、そんなんじゃ割りに合わねえよ !

 やめだやめだ !」


「まあ、あいつらは、ここにずっといるつもりもないようだしな」


「そういうこと、触らぬ神に祟りなしってね

 最近来たもう一組のパーティーが、いかにも初心者って感じなのよ」


「おい、そっちにも紅魔の娘がいただろう?」


「あぁ、あっちは大丈夫だ !

 紅魔族の異常なところは、目立たなかったからな」


「よし、ターゲットは決まったな !

 近いうちにそっちの狙い目のパーティーに難癖つけて、どうにかしてモノにしてやる !」


「あんたはその前に私に借金を返しなさい!」


 大声で話していたので、私や酒場にいる他の冒険者にも筒抜けだった。

 結果、あの高レベルのパーティーに手を出す危険性を皆が共有したと思うわ。


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