実技実習 4v4攻城戦

 私達は赤チームのみんなと別れて攻撃拠点へと歩いて移った。クロエちゃんとルナちゃんが別々のグループになるのはなんとなく不思議だ。

「クロエちゃんの魔術は氷だったよね」

「そうだね」

「どんな感じ?」

「ちょーーーー強い」

 ルナちゃんは両手をいっぱいに広げて言った。

「あのね、クロエちゃんの魔術は、魔弾を打ち込んで、打ち込んだ場所から好きなタイミングで氷の塊を発生させるの」

「へえ」

 それってどう強いんだろう。

「メリナ、これってどう強いの?」

「......まあ出力次第かな。好きなタイミングってのは強いね、剣にも罠にも盾にもなる。障害物を自前で用意できる点も強い。相手の地の利を無効化できるから」

 メリナの言うことは説得力があり、そう考えるとやっぱり強い。攻防一体のツヨ能力......。


「そういえばみんなの魔術ってどんなの?」

 戦略上聞いておかねばと思って、私はみんなへと聞く。

 みんな誰から話し始めるか戸惑っていたが、ぽつぽつ話し始めた。

「私は、基本的に糸を引いて首をひっかけたり、物引っ張ったり、移動したり出来る」

 糸.....へえ、メリナとは結構一緒にいるけど、そんな魔術なんだ。なんかグロい。でもメリナっぽい魔術だなとも思う。

「あっ」

 そういえばブリジットと対立した時に、先制でブリジットを地面に組み伏せていて、あの時は不思議に思ってたけど、なるほど合点がいった。あの時は「ひれ伏せ」って言ったのが魔術かなって思ってたけど、あれは多分あの瞬間に糸をどうこうして、地面に縛り付けてたんだろう。


「ルナちゃんはどう?」

「綿を詰める魔術だよ!!」

「綿?」

「こう人形をつくって綿を埋めたら、私の思いどおりに動かせるの」

 かわいい!! かわいいルナちゃんにそっくりのかわいい魔術だ。この前、お風呂場で聞いていたけど、あれがメインウエポンになるんだね。


「私は、爆破です」

 爆破!?

「こう、ゆっくりうごく魔弾を差し込んで、爆破させられます」

 へえ、元気なジンジャーちゃん、らしい、といえば確かにらしいのかも。

「あとは、爆破地点では魔術が使えなくなります。魔術解除アンチマジックです」

「アンチマジック? すごいね」

 メリナが感心したように言う。メリナが他の人と話しているところみたことないから感動した。

「凄いんですよ! だから大きい爆破にすると有利なんですけど、そうすると反動があってインターバルが必要になるんです」

 ジンジャーちゃんはアホ毛をぶんぶん振り回しながら話すけど、正直会話について行けない。

 アンチマジック? 戦いの場の魔術の知識が乏しくて、よく分かんないけど、

「強い魔術にはそれなりの反動があるんだね」

 強大な力には相応のインターバルがあるんだということは分かった。


 次は私か......

「私はねえ」

「いやコゼットはいいよ」

「そんなあ!!」

 メリナが私をいじめる!!


「でもほら、弓使えるし!!!」

「どれくらい使えるんですか?」

「そうだね、一回試し撃ちしてみよっかな」

 袋から弓を取り出して、木の幹に向かって弓を引いてみる。弓の引き方は、この間インターネットで調べた我流も我流。

 矢をあてがって、調べたやり方で構えて、弦を引いて......

「ぐぎぎ......」

 弦を力いっぱい引いても全然弓がしならない。ギシッギシッと力を込めて弓に負けないようにした。これは長弓だ。もっと軽い弓か滑車付きのがよかった。

「っっ!!」

 バシィィンと弦が弾ける音がして、矢が幹を貫いて刺さる。魔力を込めると本物の矢以上の能率を見せた。手がジンジンする。


「速いね。魔弾よりずっと速いから、これはこれで脅威だけど」

「これって、どれくらい術壁を削れるんだろう」

「これを何発も当てなきゃいけないのは、骨が折れますねえ」

 スピードは申し分ない、火力は要観察、継戦能力は難あり。という当初の予想通りに評価される。

「どれくらいの距離飛ぶの?距離次第なら魔弾の範囲の外から叩けるかも」

「距離自体は結構飛ぶけど、基本離れすぎると全く当たらない」

 私の技量が枷になる。距離だけ活用できる手法があるといいけど。

「見た感じ、外せば負け、ど真ん中に当てなきゃ負け、耐えられたら負け、ただ綺麗に入れば避けられない、って感じだろうね」

「まあまあ厳しい」

「そんなもんでしょ」

 魔弾にさえ術式を使用するので、私は弓に頼らざるを得えない。はあ、と息をつくと、

「コゼットちゃん!!」

 ルナちゃんがどしどしと近づいてきた。腕にはいっぱいぬいぐるみを抱えている。


「ルナから、これ」

「ぬいぐるみ? どうして」

「魔力を通したら、デコイになったり、いろんなことが出来るから」

「そんな、せっかくのぬいぐるみなのに!」

 ルナちゃんはあんなにぬいぐるみを大事にしてたのに、どうして戦いの場にもってくるんだろう。

「あのね、コゼットちゃん。ぬいぐるみひとつひとつ、ルナと同じなの。つまりね、みんな魔術師ってこと。魔術師だから、戦うんだ」

「うん」

「だから、傷つけるつもりで使ってよ」

 心が痛む。わたしは、これを手にする資格があるのかな、なんて思ってしまった。だって、彼女はぬいぐるみをすごく大事にしてたから。


「あ、あのー、私もなにか預ける感じですか?」

「え、いや別に。大丈夫だよ」

 ジンジャーちゃんがそわそわしている。

「まあ、あげますよ。これ。何も出さなくて、仲間はずれなんていやですから」

 ジンジャーちゃんが紐の生えた布の薬球みたいなものを手渡してくれた。

「これは?」

「煙幕弾です。もしもの時にどうぞ」

「わーい、助かる!!」

 ぬいぐるみと違って精神的に扱いやすい。痛くもないし。これこれ、こういうの待ってた!

 私達は、攻撃拠点のキャンプに移った。置いてある大きな籠にはその他の補給品と同じように、トランシーバーが置いてある。そして机上に地図を置いた。防衛拠点周辺の地図。

「チームの指揮はコゼットがやって」

 私が? 魔術戦闘の経験がないのに?

「無理だよ、私なんかじゃ」

「コゼットしかいないんだ。この場をまとめられるのは」

メリナがそう言って、みんなの視線が私に集まる。うっ.....

「じゃあ責任重大だけど、私がみんなを動かすね」

 上手く出来るかはわかんないけど、みんなそっちの方が上手く連携できるなら、そっちの方がいい。


 私はペンを取り出して、地図をなぞりながら考える。

「じゃあ基本的なことを確認しながら、考えを整理しよう」

 この密林の拠点からブリーフィングが開始された。

「どっちの拠点サイトを攻めるの?」

 机に持っている地図をみんなで覗き込むと、サイトは西と東に一つづつ、すぐに往復するには時間のかかる距離にある。徒歩だと4分くらい?まあまあの距離。

「Aにしようか」

「どうして?」

「近いから」

 それ以上は考えていない。

「近い方が私達の奇襲性が高くなる。施設内で待ってる時間が伸びれば伸びるほど、建造物の構造を調べられて相手に有利になる仕組みだし」

 うーん。どうしよう。ちょっと考えさせてと告げて、なるはやで考える。

 相手の守るべき拠点は二個。

 相手から悟られない内に動けば単純な話2対4で戦えるはず。拠点から魔力を検知できるようなシステムを組まれると、私達のアドバンテージは無くなって、不利。2対4でもその二人に二人削られると、他サイトからの合流で2対2に戻る。そのときも、こっちは消耗してるから不利か。

 検知網はお互い大事だけど、拠点から検知網を広げるのは、一人だけ防御拠点を離れることになるので相手にもリスクがある。


 隠密行動で各サイト間の真ん中から、突っ込むのは? 

 地図では建造物内の状況が分からない。建物の情報は防衛側しか握ってないのだ。こっちに索敵系の魔術があれば選択肢に入るけど、そうじゃないから、パス。

「うーーん?」

「どんな感じ?」

「どーしよ」

 全く何も思いつかない。何より私がダメ過ぎる。このコゼット・オンフレとか言う奴が青チームに数的不利をもたらしているな......

 なんとなく私の手持ちのカードをみると、魔術に劣る弓矢、デコイや索敵が出来るぬいぐるみ、煙幕弾。これによって私の仕事量が一に近づけばいいわけで......

 うーん............


「ルナちゃん」

「どうしたの?」

「デコイはどんな感じでうごくの?動かせる距離と、同時に動かせる限界はある?」

「拠点を覆えるくらい遠くまで動かせるよ、距離によるけど5,6体くらいなら」

「分かった......」

 なら、活用したい。

「ルナちゃん、このぬいぐるみ、使ってもいい?」

 私は預かったぬいぐるみ達を抱える。

「うん。リーダーが使ってあげて?その子たちのためにも」

 ありがとう、ルナちゃん.....

「ジンジャーちゃん」

「どうしましたか!」

「ごめん! ジンジャーちゃんはみんなとは別行動で」

「そんなあ!!」

 爆破でBサイトを攻撃できたらそっちに人を振れるかもしれない。彼女のアホ毛がぴょこぴょこと、私の言葉で様々な反応を返した。私は話を続ける。


「爆風でデコイを悟られるのを隠して。索敵拠点を攻撃できればそれがベストなんだけど」

「撹乱ですね!お任せ下さい!」


「メリナ」

「うん」

「メリナは私とルナちゃんとAサイトを強襲。この作戦はメリナが主力。Bサイトに人を振ってAサイト内で、メリナと他の生徒で、一対一を四回繰り返したい。メリナってクラス内で最強でしょ?」

「そうだよ、と言いたいけど、クロエとの一対一は分からない」

「それは私達がバックアップするから」

 これなら私によって生まれる数的ビハインドを消せる。


「相手が集合してサイトに入ってきたらどうする?」

「私がクリスタルの解除をして、ルナちゃんは人形でサイト入り口でハラスメントして足並みを崩して。相手は急がなきゃいけないから、上手く再集結リグループ出来ないはず」

「わかった」

 一通りの作戦を考えて、後はアドリブだ。ここからは速さがものを言う戦いだから。

「じゃあみんな、円陣組もう」

「え〜」

 メリナが露骨に嫌そうな顔をする。でもメリナはわたしの言うことには逆らわない。

 円陣を組んで、円陣の真ん中でみんなで手を重ねた。

「みんなで勝とう!!」

「「うん!」」

 みんなで勝つ。それが青チームのモットーだ。

「青チーム、作戦開始!」

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