第8話 どんなボスでも調伏(ちょうブラック!)

 ”なあ、俺たちな何見せられてるんだ?”

 ”これダンジョン討伐だよね?”

 ”RTAなんだけどw”

 ”風華ちゃんですら着いて行くのやっとw”

 ”止まってあげてブラックwww”


「ブ、ブラックさん!? ちょ、ちょっと!?」

「どうした?」


 後ろを振り返ると、風華さんが息切れしながら汗だくだった。

 何が起きたのだろうか。

 

 もしかして暑いのか?

 そういえば、女子は体温が高いと聞いたことがある。

 

「あ、あの……早すぎます」

「早い?」

「はい。それにモンスター、どうやって倒してるんですか?」

「? いや、出てきた瞬間に呪いを付与してブラックパンチしてるだけだよ」


 死の宣告は俺の能力の一つだが、雑魚を倒すにはこれ以上ないほどうってつけだ。

 左手でそっと触れて呪いを付与した後、右拳でカウントをゼロにする。


 ”当然のように言ってて草w”

 ”ブラックパンチ!”

 ”風華が追いついてない速さ……ヤバくない?”

 

 コメントを見ると、ちょっと速すぎたらしい。

 いや……そうか。


 俺たち配信者は、視聴者を楽しませる為にやっている。

 急ぐことが、決して良いとは限らない。


 おそらくわざと汗だくになっているのだろう。さすが風華さん、体温調節もできるのだ。


 ……見習うところだな。


「わかった。なら面白い物を見せよう」

「面白い物、ですか?」

「ああ」


 すると、前から魔狼が現れた。

 数十体くらいだ。もう結構奥に来たので、魔力もそれなりに漲っている。


 俺は、ふうと息を吸う。


「呪力には様々な術があるが、体内の経絡けいらくという気を解放して使ってるんだ。それが、魔力とは違うとこだな」


 ”なんか凄そう”

 ”呪力なんて使ってる人いないから、面白い話”

 ”つまりどういう事だってばよ”


「風華、言霊は知っているか?」

「い、いえ!?」


 その瞬間、魔物たちが襲いかかってくる。

 風華さんは、光の剣を構えた。彼女は配信映えのあるカッコイイ剣を持っている。


 うらやまブラック!


 ま、俺も地味だけど術を見せるか。


『う・ご・く・な』


 その瞬間、魔物が足を止めた。ぷるぷると震えて、動かない。


 ”え、なにこれ?”

 ”どういうこと?”

 ”ブラック様なにしたの!?”


「これって……?」

「金縛りだ。声というものには音波がある。そこに呪力を乗せて『言霊』の呪術を使えば、呪いは付与される」


 そう言いながら俺は1人1人、死の宣告を付与していく。

 振り返り、風華さんに視線を向ける。


「ま、地味な術だ」


 その瞬間、カウントが0になって魔狼が倒れ、轟音が響いた。


「……な、何を言ってるの?」


 ”ヤバすぎwwwwwwww”

 ”こんなの誰が勝てるの?w”

 ”ブラック様、あなた一体今まで何してたんすかw”

 ”トレンド入りしてます。言霊”

 ”マジでえげつないw”

 ”ブラックヴォイス!”


 よく見ると、配信は同時接続数は75万人とんで2224を突破と書かれている。

 さすが……風華さんだ。


 恐ろしい数字、俺でなきゃ見逃してるブラック!


「ここからは少し魔物も強くなる。離れるなよ」

「はい、ブラック様!」


 ”さんから様へ”

 ”気づいてないブラックw”

 ”なんだこのカップル”

 ”こりゃ惚れるわw”

 ”わいの風華ちゃんが……”

 ”これが世の理ブラック”


 風華さんの頬が赤い。もっと涼しいところにいかないと。

 そのとき、俺はとんでもないものをみた。


 魔物を相手に戦っていたのは――幼馴染の御船みふね美琴みことだ。

 

 なんでここに? いやそれよりも――。


「きゃああっああ」


 どうやら敵が強いらしい。それに1人だと?


 ……まったく。


 それから俺は言霊と金縛りからの死の宣告で敵を倒した。


「あ、ありがとうございます。――え、ブラックさん!?」


 ぺこりと俺に頭を下げる。

 ああ、気づかないもんだな。


 ”人助けブラック”

 ”この子かわええ”

 ”黒髪ロングすこ”


「え、君内さん!?」

「もしかして、御船さん!?」


 ”知り合いパターンw”

 ”そんなことある?w”

 ”美少女確保!”


「なんでここにいるの? それも一人なの?」

「……ええとね、実は誕生日プレゼントであるドロップを狙ってたんだけど、なかなか出なくて焦ってて……」

「そうだったんだ。パーティ―も組まずに?」

「今日、みんな仕事とかリアル都合入っちゃって。だから、それで――って、配信中!? え、あ、あえあ、ああ!?」


 ”イイハナシダナー”

 ”こんなカワイイから誕生日もらえる奴、うらやまけしからん”

 ”ブラック様、仲間になりたそうな目で見ていますよ!”


 ……まったく。


 でも、無事でよかった。

 美琴は、いつもいい奴すぎるからな。


「……風華の知り合いというなら、手を貸そう。このブラックで良ければな」

「え、いいんですか?」

「歓迎だよ! 頑張ろうね!」


 ”黒髪美女が仲間になりました”

 ”なにこのハーレム配信”

 ”お前もブラック様の仲間にならないか?”


 しかし誰の誕生日の為なんだろう。


 ちょっと……羨ましいな。

 とはいえ、今はブラックだ。


 普段、世話になっている分、付き合おうか。


 だが俺はブラック、キャラは大切に。


「だがあくまでも補助だ。ヤバイと思ったら助けてやる。このブラックがいれば問題ないだろう。風華、視聴者は君の活躍も待っている、ここからは二人で頼む」

「は、はい!」

「わかりました。――御船さん、よろしくね」


 それから二人は、初めてとは思えない見事な連携で敵を倒していった。

 御船の能力は怪力で、力が強い。君内はさんは光の剣でバタバタと。


 ”何この二人w”

 ”え、ヤバくね?w”

 ”よく見たらこの子、結構有名な子じゃない?”

 ”ほんとだ。見たことあるかも”


 ……いいなあ。俺もそんな能力なら、もっと強くて格好よかったんだろうな。


 そして美琴が狙っていた指輪をドロップしたときには、大きな広場に来ていた。

 気づけば、最奥だ。


「やった! ありがとうございます。ブラックさん、君内さん!」


 とても綺麗なブラックリング。


 ほ、ほしい……。


「喜ぶといいなあ……」

「誰にあげるの? 御船さん」

「ええとね――」


 ”何この青春”

 ”うらやまブラック!”

 ”見てるだけで泣けてくる”

 ”ブラックめっちゃほしそうwwwwww”

 ”ガン見されてて草”

 ”ブラックの為にももう一本頼むwwwww”


 どうやらバレていたらしい。恥ずかしいブラック。


「べ、別に欲しくない。指輪ではないが見せてやろう俺のコレクションを――」


 そして俺がポケットに手を突っ込んだ瞬間、声が聞こえた。


 ああ、もうここまで来ていたのか。


 ”で、でたああああああ”

 ”マズイブラック”

 ”これヤバい奴じゃね?”

 ”で、でけええええ”

 ”これはヤバイブラック”

 ”うわ、ミカエルだ!”

 ”この前より強くね?”


 空の上から降りて来たのは、天使のような風貌の女性だった。

 確か名前はミカエルだ。ダンジョン図鑑で見たことがある。


 実際には初めて見るが、神々しいな。


 その横には、部下天使たちがいっぱいいる。


 カッコイイ……。ブラックではないが、こいいうのもありだ。


 欲しい。


 だが――。


「風華、御船、俺がやる。部下ぐらいは任せられるな?」

「は、はい」

「わかりました!」


 ”かっこよすぎ濡れた”

 ”お も し ろ く な っ て き た”

 ”絶対死なないでブラック”

 ”風華ちゃんいけええ!”

 ”御船ちゃん推し!”

 ”ミカエル⇒A級災害指定ボス”


 それから俺は、ニヤリと笑って――飛んだ。

 

 ミカエルは、俺に向かって神々しい光の魔法を放ってきた。

 それをコートを使ってひらりと避ける。


 ”かっこよすぎだろ”

 ”魔法耐性凄いって聞いたけどやばいな”

 ”いや動きがヤバイ”

 ”これ呪力なのか? 身体能力えげつない”


「ウギヲロアスア!」

「そういえば、【あみだくじ】にはこんな使い方もあるんだ」


 後ろでは、俺の呪力によって浮いているスマホドローンがある。

 その視聴者に声をかけながら手を翳すと、黒い糸が広がっていく。

 それはミカエルの両手両足を縛った。


 ”ただの道を調べるだけじゃないんだ”

 ”使い勝手めっちゃいいな”

 ”ブラック様、やべえ”


 ちらりと下に視線を向けると、風華さんと美琴が戦っていた。

 雑魚ぐらいは余裕らしく、配信も盛り上がっている。


 ふむ、いいことだ。

 

 だがもっと面白くさせないとダメだ。


 俺は、配信者だからな。


 ――よし……こいつもコレクションに加えよう。


 俺は、呪いを付与した。


 頭の上にカウントダウン。だがいつもの黒い文字と違って、白い文字だ。


「新しい術を見せよう」


 ”なんか色が違う”

 ”これは何!?”

 ”気になるブラック! いやホワイトだけど”


 魔物も気づいたらしく、凄まじい攻撃を放ってきた。

 背中から手を20本ほど出すと、それぞれに剣を構えている。


 か、かっこいい。

 俺もそんなの出したい。


 すると次の瞬間、全ての攻撃で俺を刺殺しようとしてきた。


 ”ヤバすぎだろ”

 ”ああ”

 ”なんで……全部避けれるんだ”


 ビュンビュンと剣が空を切る。

 思っていたより速いが、問題ないブラック。


 その時、部下と戦っている風華と美琴に声を掛ける。


「配信も二時間だ。そろそろフィナーレといこう。下がってろ」

「は、はい」

「御船さん、こっちへ」


 次の瞬間、地面に降り立った俺は陰陽五行を展開した。

 黒白の模様が広がって、俺に加護がかかる。


 そして部下に呪いを付与。


 さらに呪力を込めた。


 部下たちのカウントダウンが、凄い速度で下がっていく。

 これは、呪いに集中しているからだ。


 ”こ、こんなことできるの!?”

 ”すげえ、おそろしい”

 ”ブラック様やばすぎ”


 もちろんミカエルについた白文字もだ。

 

 そして――。


「――調伏完了」


 カウントダウンがゼロになった瞬間、天使ミカエルが光に包まれた。

 部下は黒色だったので地面に倒れ、そして消えていく。


 ”え、何が起きた?”

 ”消えた?”

 ”ちょっとまて空から何かが――”


 すると、ぽんっと小さな天使がでてくる。

 俺の手元にきて、ペコリと頭を下げる。


 デフォルメされていて、かわいい。


「ミカミカッ!」

「よろしくな。――あ、言い忘れてたな。これは調伏ちょうぶくした。わかりやすくいうと使役だ。もっとわかりやすくいうと、ちょうブラックだ」


 するとコメントが、一気に流れていく。


 ”え? ボスを調伏”

 ”それってスライムとかにしか使えないんじゃないの?”

 ”は?”

 ”え、なにいってんの? A級災害クラスだよね?”

 ”え、どういうこと?”

 ”やばすぎるだろ”

 ”おいおい”


「嘘だよね、ブラックさん」

「ブラック様……?」

「どうした二人とも? いや、嘘はついてないぞ!? ほ、ほら、さっき見せようとしたコレクションだ」


 すると俺は、ポケットから調伏コレクションをだした。


 その札には、魔物の名前と絵、ランクが書いてある。

 これは、調伏した後に呼び出すときに使うものだ。


 以前、ポケ〇ンにはまっている時に必死に集めていた。

 ダンジョンモンスター、略してダンモンと勝手に呼んでいる。


 ちなみに札の中は50畳ぐらい屋敷が広がっているらしく、美味しい食事と執事とプールがついてるらしく、快適らしい。


「ミカミカッ!」


 すると、小さなミカエルが俺のほっぺにキスをした。

 なかなかカワイイ子だ。

 

 調伏すると俺のことが好きになるらしい。コレクション同士戦わせようとしたが、かわいそうなのでやってはいない。


 するとまたコメントが流れていく。

 猫好きが多いから、おそらくカワイイで溢れているだろう――。


 ”そういえば、半年前ぐらいにダンジョンボスが軒並み消えたってニュースしてたよね”

 ”ああ……ボスがいなくなったらダンジョンは消滅するから、それで話題になってたやつ”

 ”ちらっと見えたけどA級のブルトリス、殺戮のアルアスまでいるじゃん”

 ”やりすぎブラック”

 ”1人でポケ〇ン殿堂入りしてんよ”

 ”ヤバすぎ”

 ”ブラックさん、そろそろ気づいて”

 ”ブラック様wwwwwwwwwww”


「ブラックさん、ヤバすぎですよ」

「ブラック様、もう擁護できないです」


「ど、どうした? 俺、なんかやったのか?」


 コレクションってオタク趣味だから誰にも言いたくなかったが、つい口が滑ってしまった。


 ダンモンを1人で楽しんでるのは、やっぱり引かれたか。


 ブラック、一生の不覚……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る