第5話 パパ、村を見つける


 ふぅ……なんとか10000BPまで戻ったか。気付けば森の中で唯一ここだけ地面が剥き出しになっている。これはもう見る人が見たらミステリーサークルだ。



 もしかして、ミステリーサークルもBP集めをして出来たんじゃないか?



 おっと……アホくさい思考回路は封印しなければ……度々奏音と口喧嘩になることがあったが、大抵俺が適当なことを言っていたせいでもあるしな。



 それにしても、結構動いていたが赤ちゃんは起きる気配がない。いや、ぐっすり眠っているので全然問題はないのだがここまで動いていても起きないとはな。もしかして将来は大物になるか?

 


 ひとまず、5000BPを支払って地図を購入だ。



『畏まりました。周辺のマップを表示致します』



 ディスプレイかよっ!! まぁ紙で渡されるよりはいいか。手荷物になってしまうし。でもなんか……ワクワク感とか……返して……



『表示致しました』



 目の前にディスプレイが出現し、この森の周辺地図が映し出された。



 現在地はこの【クルティガの森】か? だとするならば……南に【ゴロ村】という村があるのか。



 もしかしたらこの子を捨てた親がいるかもしれない。そうじゃなくてもこの死後の世界の先輩に会えるかもしれない。



 他に選択肢は無いな。南のゴロ村を目指すとしよう。




 ……




 ………………




 南は、どっちだ?



 ねぇねぇ、南はどっち?



『方位磁石をお求めですか?』



 だと思ったよ!!




 ◆ ◆ ◆ ◆




 方位磁石で方角を調べ、南に向かって歩くこと数十分。クルティガの森を抜けることが出来た。抜けた先で真っ先に目に入ったのは大きな風車だ。



 よかった。見るからに人が住んでいる匂いがする。いや、本当に匂うわけじゃ無いが。廃村とかじゃなさそうだ。



 ひとまず風車を目指して歩く。周りを見渡せば、穀物を育てているのか畑が広がっていた。



 日本でも田舎に行けば田んぼを見ることが出来るが、広大な大地に点在する畑と家があることから、ここが日本ではないことを理解させられてしまった。



 死後の世界なら日本ベースであってもいいものだが……どちらかといえば海外っぽい。海外に行ったことはないから知らないけど。



 周りの景色を見ながら歩き続けると、風車を中心に住居と思われる建物が立ち並んだ、ザ・村という印象の場所に辿り着いた。ここがゴロ村かな?



「おう! にいちゃん、見かけねぇ顔だな。旅人かい?」



「え、あ、はい。ここはゴロ村ですか?」



「そうだぜ。小麦しかねぇ田舎のゴロ村とはここのことよ。それにしても珍しいな。こんな辺境に旅人が来るなんてよ」



 うーん。怪しまれているか? いや、どちらかというと田舎にありそうな、人類皆友達! といったフレンドリーさを感じる。


 よし、この人に相談してみるか。



「すみません、実は——」



 それから作り話を交えてこの村に来た経緯を説明する。



 旅の途中、森の中で子供を拾ったこと。この子の親を探していることなどだ。


 話の中で、この人は村長の息子で力自慢のデルさんだということを知った。四十歳手前のイカしたムキムキおっさんだ。



「なるほどな……この村は小せぇ村だから誰かが結婚したり子供が生まれたりしたら村を挙げてお祝いするんだけどよ、ここ最近子供が産まれたって話は聞かねぇな……とりあえず親父に聞いてみるか。来いよ、案内するぜ」



「すみません、ありがとうございます」



 優しい。なんと優しいのだ。出会ったばかりの見ず知らずの人間をここまで気遣ってくれるなんて……死後の世界は平和らしい。



 デルさんの後を追うようにして村の中に入る。デルさんはどうやら村の中では比較的大きめな建物へ向かっているようだ。そうだ、せっかくだし歩きながら聞いてみるか。


「あの、デルさんは死ぬ前は何を?」


「死ぬ前? にいちゃん、変なこというんだな。まさか不細工すぎて死人にでもみえたか?」



 あっれれ〜? おっかしいぞ〜?



 どうやらデルさんには死ぬ前の記憶がないらしい。ある方が……おかしいのか? それとも、この世界に長くいると記憶がなくなっていくとか——



 なんか失礼なこと聞いちゃったかな……



「親父、今戻ったぜー」



思考の沼にはまっていると、どうやら目的に到着したようだ。



「なんじゃ、もう戻ったのか?」


「畑の奴らはまだだよ。それよりも村に来客だぜ」


「ほう、こんな田舎に訪れる者がいるとはのう」


「突然お邪魔してすみません。実は——」



 デルさんにした説明をもう一度する。村長は顎を右手の指でさすりながら話を聞いてくれた。一応死ぬ前うんぬんの話はやめておこう。俺は空気が読める男だ。



「なるほどのう……残念じゃがこの村の子ではないじゃろう。子供が産まれれば真っ先にわしの耳に入るはずじゃ。ここ最近じゃと……三年前にクルドのところで産まれたっきりそういった話は聞いておらんな」



「そうですか……」



 うーん、親がいるかもしれないと思ったが当てが外れたようだ。



「それで、その子はどうするつもりじゃ? 旅に連れて行くにはちと幼なすぎるであろう」



 もし親がいなかった場合のことも一応考えてはいた。警察や保健所に連絡して、赤ちゃんを引き取ってくれる施設に預けるという選択肢だ。



 だが……この村を見た感じ警察も保健所も身寄りのない子供を受け入れてくれる施設も無さそうなんだよなぁ。



 小さいコミュニティだからみんなが顔見知りであり、身内のような信頼で成り立っている村なのだろう。



 もちろん、預けると言えば快く引き受けてくれるかもしれない。



 だが、そうはしたくないと思った。



「あの……よろしければこの村でこの子の育児をしてもよろしいですか?」



「この村でか? わしらは構わんが……お主の旅はいいのか? 村には子供がいない夫婦もおる。引き取り手がおらずとも赤ん坊一人くらい皆で面倒はみれるぞ?」



 どうなるにせよ、俺はこの子の今後に責任を持ちたいと思った。それは何故か。



 俺は、この子に救われていると思ったからだ。




 そりゃそうだろ。




 妻と娘を残して先に死んでしまって、本当は泣き叫びたい。もっと一緒にいたかった。死後の世界なんかで独りぼっちになりたくなかった。



 だが、目を覚ましてすぐにこの子に出会ったお陰でそうならずに済んだ。死後の世界で思うのもおかしい話ではあるが、生きる意味を感じさせてくれたんだ。



 今この子には俺が必要だ。俺がいなければ死んでしまう。そう思った瞬間、それを無視して嘆き悲しむことなど出来なかった。




 俺はこの子に救われたんだ。




「はい。出会ったのも何かの縁ですからね。出来れば私の手で成長を見守ってあげたいと考えています」



「そうか。であれば村の外れにある空き家を使うといい。他にも困ったことがあれば何でも相談するんじゃぞ?」



「宜しいんですか? いえ、すみません。我が儘を聞き入れて下さってありがとうございます」



「何を言うか。村人が増えるのはワシらにとっても嬉しいことじゃ。貴重な労働力であるからな。赤ん坊の世話をしているとき以外はしっかり働いて貰うぞい?」



 働かざる者、食うべからず。



「はい。よろしくお願いします!」



「おう、どうやら話はまとまったみたいだな。よろしくな! えっと……」



「あぁすみません。私、神谷史郎カミヤ シロウと申します」



「カミヤ シロウ? 驚いた。貴族様か?」



「え? いえ……貴族ではありませんが」



「ということは他国の出身か? 名字があるからてっきり貴族かと思ったぞ」



 え、貴族なんているの? 時代背景がわからないな……というか、よくよく考えたらこの家照明が無い。電気が無いほど田舎なのか? 風力発電だと思ったが。



『先程からずっと申しております死後の世界ですが、何か勘違いをなされてませんか? ここは死後の世界などではなく、神谷様が理解出来る言葉でいうところの異世界です』




 ……




 …………ほぇ? 今、なんと?



『異世界です』




 へぇ。




 なんじゃそりゃああああああああ!? カミングアウト唐突すぎるだろぉぉおおおおおおお!!

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