第31話 リザードマン狩り
今回の依頼は、街の南にある「リリノン河」に咲くという「リュウノシタ」と呼ばれている花の採取だ。
リュウノシタはリュウゼツソウ科の花で、肉厚な葉がドラゴンの舌のように見えることからその名が付けられたらしい。
名前だけではなく、リュウノシタの花弁を使った匂い袋がモンスター避けになることから、「ドラゴンの加護を得られる」と旅人に人気なのだとか。
特段珍しい花でもないが、河川地域には亜人のリザードマンが現れることもあり、この採取依頼はEランク以上しか受けることができないらしい。
「ふむ。リザードマンか」
「厳しい?」
「いや、全く。この前は上位種のポイズンリザードマンを倒したからな」
上位種でも簡単に倒せたし、問題はないだろう。
むしろ歯ごたえがなさすぎてもう少し強敵が現れたほうが良かったくらいだ。
そして、街を出て30分ほど。
目的地のリリノン河に到着した。
穏やかな風とせせらぎの音。河川敷に腰掛けてのんびりしたくなる雰囲気だ。
ざっと見渡したところ、何匹かリザードマンの姿がある。
彼らものんびりと日向ぼっこをしている様子。
だが、ヤツらはとても好戦的で、人間を見ると集団で襲ってくる。
ミリネアには採取に集中してもらい、俺は周囲に徘徊しているリザードマンを手当たり次第に倒していくか。
「何かあったら声をかけてくれ」
「わかった。トーマも気をつけてね」
「ミリネアもな。周囲警戒は怠るなよ」
まぁ、ミリネアならいざとなったらリザードマンくらい倒せそうなので心配はしていないが。
というわけで、一旦ミリネアと別れて近くのリザードマンの群れへと向かう。
さて、どうやってモンスターどもを倒すか。
リザードマンのレベルは15程度なので俺の敵ではないが、囲まれると少しだけ面倒だ。
やるなら各個撃破。
奴らの弱点を狙って、1匹づつ的確に狩っていくのが賢明か。
いつものように【投石】スキルを使ってリザードマンをおびき寄せよう。
と思ったのだが──。
「しまった。4匹来てしまったか」
一匹だけ釣ろうと思ったが、周囲のリザードマンも反応してしまった。
意外と仲間意識が強いモンスターだからな。
「まぁいい、他の奴らも来る前に終わらせるか」
こちらに歩いてきていたリザードマンたちが、俺の姿を確認するやいなや、一斉に走り出した。
彼らの武器は、鋭い爪と強靭な尻尾攻撃。
上位種のポイズンリザードマンだと毒の粘液を吐き出すが、彼らにその攻撃はない。
死角からの尻尾攻撃にさえ注意していれば問題はないだろう。
「はあっ!」
最初の2匹の攻撃を難なく躱した俺は、聖剣アロンダイトでリザードマンの尻尾を切断した。
「……ウギッ!?」
彼らの動きがピタリと止まる。
リザードマン系のモンスターは尻尾が弱点なのだ。
尻尾を切断すると、彼らは一時的に動けなくなるという特性がある。
理由はよくわからないが、メスはオスの尻尾を見て強さを判断するらしいので、彼らにとって尻尾は命よりも大切なものなのかもしれない。
「まずは2匹」
「ギャッ!」
足を止めた正面の2匹を両断。
同じように遅れて襲ってきた残りの2匹も、尻尾を切断した上で処理する。
黒い煙が風に乗って霧散し、小サイズの魔晶石が転がった。
「……よしよし」
アロンダイトの手応えも申し分無い。
というか、手にしっくりと馴染むような感じがしてすごく使いやすい。
この強さなら、尻尾を切る必要なんてないか?
次の獲物はいないかと周囲を見渡したが、他にリザードマンの姿はなかった。
ちょっと残念だが、これでミリネアもしばらくは安全に採取できるだろう。
それから、上流に場所を移動しつつ3時間ほど採取した。
結局、倒したリザードマンは合計10匹ほど。
手に入れた魔晶石は10個。こっちもなかなかの儲けだ。
ミリネアはどれくらいリュウノシタを集めたのかとリュックを見せてもらったが、おびただしいほどの数があった。
大樽で4つ分くらいはありそうだ。
これは相当な儲けになるな。
錬金屋も、しばらくリュウノシタに困ることはないだろう。
「……よし、採取はこれくらいにして街に戻ろうか、トーマ」
「わかった。ちょっと腹も減ったしな」
日が傾きかけているし、街に戻るくらいで丁度、夕飯時だろう。
それからまた30分ほどかけて街に戻り、ギルドで査定をしてもらったのだが、あの受付の男がめちゃくちゃ驚いていた。
まぁ、ミリネアの小さなリュックの中からカウンターに乗り切らないくらいのリュウノシタが出てきたらそうなるよな。
ひとつひとつしっかりと査定をしてもらった結果、獣人税を差し引いても数千ライムの儲けになった。
ミリネアの尻尾も嬉しそうにくねくねと動いていた。
しかし、採取系の依頼で数千ライムの儲けになるなんて相当すごい。
まぁ、毎回採りまくってしまうと薬草が飽和状態になって採取依頼がなくなってしまうからほどほどにしないといけないが、無限収納のおかげでかなり楽に稼げるようになったはずだ。
「ふっふっふ~ん」
ギルドを出たミリネアも上機嫌の様子。
そんなミリネアが意気揚々と言い放つ。
「よし! 今からご飯を食べに行こう!」
「……え? 飯?」
「そ。晩ごはん。今日は私が奢っちゃうよ!」
確かにもう日がくれかけているし、夕食の時間なのに間違いはない。
だが、俺に奢るって、いいのか?
「大丈夫なのか? その報酬って、セナたちのための金だよな?」
「何言ってるの。今日はトーマのおかげで大儲けできたんだよ? お礼しなきゃ私がセナに怒られちゃう」
「そうか……まぁ、そうだな」
別に礼なんていらないんだが、セナってそういうところにうるさそうだしな。
手ぶらで帰しただなんて、何をしてるんだい! と怒っているセナの顔がありありと想像できる。
「わかった。それじゃあ、焼肉にでも行くか」
「おっけ、やきにく……ふぁ!? 焼肉っ!?」
ミリネアの耳がピンと立つ。
「ちょ、ちょっと待って!? 焼肉って、結構お金……取られるよね!?」
「そうだな。聞いた話ではひとり5000ライムほどかかると思う」
「ごせ……」
今度はシナっと垂れるミリネアの耳。
なんだか面白い。
「や、や、焼肉がいいの? 絶対?」
「ん? いや、別に他の店でもいいぞ? だがまぁ、その店の格でミリネアが俺にどれくらい感謝しているかがわかってしまうが」
「そっ……む、ぐっ……」
眉間にシワを寄せ、非常に難しい顔をするミリネア。
「……すごい感謝してる……から……焼肉、連れて行く……」
「冗談だ。安い酒場でいい」
「……っ!? んもぉぉぉおおお! トーマぁぁぁ!?」
ミリネアが顔を真っ赤にして、バシバシと俺の脇腹をどついてくる。
ちょ、なんだかめちゃくちゃ痛いんだけど、ミリネアってば本気で殴ってないか?
可愛いからつい冗談を言ってしまいたくなったが……これは自重したほうが良さそうだな。
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