「…少年は少女のことが好きだった。だからこそ守りたいと思った。

自身を犠牲にしても、生きていて欲しい、と願った。

 だがその想いは少女も、同じだった。

 少年を庇い、宇宙人に刺し貫かれた少女は、死に際に少年にこう、言ったんだ。

『私が死ぬことで、君が苦しむことになるのはわかってる。

残された者の痛みがどれほど痛いのか知ってる。

…でも、それでも。

たとえどれだけ苦しんだとしても。

君には、生きていて欲しい』

 そうして少女が死して間もなく、戦いは終わった。

少年は少女の望み通り、生き残ったんだ。

だが、少年は生きてはいなかった。病院ここに入った後も、世界を、少女を憎んだ。

人の目を盗んで何度も死のうとした。

けど、出来なかった。

あの言葉が呪いになっていたんだ。

 その呪いは、永遠に少年を苦しめる。

そうして少年は、死ぬことも出来ず、かといって生きることも出来ず、

死にたがりのまま、屋上に立っていたんだ」

「…それが、君なんだね」

 ようやく、長い話が終わる。

終わってみると、何ともくだらない話だ。

俺と彼女は互いに独りよがりの罰を受けた。ただそれだけだ。

「ひとつ…聞いてもいいか?」

「なあに?」

…コイツの先は長くない。ならコイツのことを知っても意味が無い。

だけどこっちだって長々と話したんだ。向こうの事を知る権利はある。

 「…どうして記憶を失っても、お前はお前でいられるんだ」

自分というものを確かめられない。例え他人の記憶を見れたとて、主体が無ければ意味が無い。だというのに、どうして。

「なんだ、そんなこと。

記憶が無くっても、アタシはアタシ。

言ったでしょう?魂がアタシ自身を覚えているって。

記憶が無いから、出会うもの全てに素直でいられる。ありのままでいられるんだ」

「…やっぱり強いんだな、お前は」

それは誰にだってできることではない。

俺には……出来ない。だって俺には…

「それに、アタシがアタシを忘れても、誰かがアタシを覚えていてくれてる。それに気づいたの」

そう言ってこちらに指を向ける。

「…それって俺のことか?」

「もちろん」

そう言って笑う。力は無いが、芯のあるいい笑顔だ。





 「あ~あ、誰かさんの長話を聞いてたら眠くなってきちゃった。アタシ、もう寝るね」

と、

体をベッドに倒し眠そうに言う。

「……眠ったらまた記憶は無くなるのか」

「うん。でも全然不安じゃないよ。

また起きたらキミがアタシのこと、教えてくれるでしょ?」

「ああ。もちろんだ」

力強く頷く。

「良かった…じゃあ、おやすみ。また…あした…」

そう言って、静かに眠り始めた。

本当に幸せそうに。

深く深く眠っている。

「ああ……また、アシタ」

俺は起こさないように静かにベッドの傍から離れ、病室を後にした。

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