第18話 材料集め3

「ど、どうしよう! 所長さんいなくなっちゃったよ」

「帰り道はわかるし、いいんじゃないか?」

「よくないよ! 集める材料わからないし、そ、それに、こわいモンスターとか出るかも……」


 言葉にするといやぁな不安が広がってくる。

 風の音も、虫の声も、小さく葉っぱがこすれ合う音も気になっちゃう。

 キョロキョロあたりを見てると、遠くのほうでガサガサっと、葉っぱがこすれる音が聞こえた。


「ひぃぃ⁉︎」


 今のは風? それとも、モンスター⁉︎

 わたしは両手をクロウの腕に巻きつけた。ぜったいに、ぜーったいに離さないよう、強くしがみつく。


「おい、爪立てるな」

「だってだって、クロウとはぐれたら、わたし森から出られないよ!」

「はぐれないだろ。魔力で居場所わかるって、まえにいわなかったか?」

「そ、そういえばいってたかも。でもでも、こわいもんっ! はぐれてる間に、こわいモンスターに食べられちゃうかも!」


 こわいモンスターと必死に戦ってるわたしの絵が頭にうかんだけれど、なんと、全部負けちゃった。パクッと食べられる未来、そんなのイヤ!


「しょ、所長さん探そう? クロウ、所長さんの場所わからない?」


 クロウはただくいっと首をかしげた。

 わからないってことかな。


「それより鳥だろ、鳥」

「えっ。所長さんは?」

「そのうち見つかる」


 探さないで見つかるはずないよ!

 わたしの心の声はとどかず、クロウはさっさと歩き出してしまう。


「ええっ! まってよ。所長さんいないのにムリだよ!」


 クロウは首だけ振りかえって、ムッとした顔で森の奥をアゴで示す。


「なら待ってるか? あんただけ。ここで」


 わたしはいきおいよく首を横にふった。それだけはぜったいイヤ!

 クロウにおいていかれないように、さらにしがみついておそるおそる歩く。

 木がいっぱいあるからうす暗しい、足もとは草で見えないし、たまに土がぐにゃってするし、所長さんはいないし……。

 クロウはどんどん先に行こうとするし、本当に大丈夫なの?


「ね、ねえ。鳥の場所わかるの?」

「さあ」

「やっぱりさっきの場所にもどろうよ。所長さんも探してくれてるかも」

「あんただけもどるか?」

「……いじわる」


 ひとりでもどれるはずないって、わかってるくせに!


 それからもあの手この手で引きとめてみたけど、クロウは全部ムシ!

 もーっ、本当にこわいモンスターが出たらどうする気⁉︎



 おっかなびっくり歩きつづけていると、わたしたちの目の前を大きくてキレイな鳥が横切った。

 フクロウくらい大きくて、虹色をしているすっごく目立つキレイな鳥。


「く、クロウっ。あれって……」

「しーっ。でかい声をだすな。逃げられるだろ」


 大あわてで自分の口を手でふさいだ。

 逃げられるってことは、やっぱりあれって、不夜鳥⁉

 うそー! 本当に見つかるなんて!


「クロウ、どうやってつかまえるの?」


 不夜鳥は太い枝の上で羽根を休め、のんびりと毛繕いをしている。今がチャンス! だと思うけど、びっくりさせたら逃げちゃうかも。


 クロウはじーっと木の上の不夜鳥を見て、ふしんそうに目を細めた。


「どうしたの?」

「べつのヤツがいるな」

「え? どういうこと?」

「気配がふたつある。今のあんたのチカラだと……まぁまぁ強そうな敵って感じか」

「……へ?」


 気配が、ふたつ?

 それって、もしかして……。こわいモンスター⁉

 ぎょっとしながらあたりを見て、次にクロウを見る。クロウは木の上をにらむように見ていた。

 わたしもクロウの視線の先を追ってみて、ビシッと体がかたまる。

 だってだってだって。木の上に、大きな目がひとつだけあったんだから!


「ひっ……むがっ」

「ばか、でかい声出すなっていっただろ」


 とっさに悲鳴を上げそうになったところを、うしろからはかいじめにして口をふさがれた。

 鼻も口もぐっと押さえてくるから、ふがふがと変な声だけがでる。

 トントンとクロウの手をたたくと、クロウはチラッとわたしを見下ろした。


「でかい声だすなよ」


 何度もうなずくと、ようやく手が離れた。

 しずかに、でも深く息をはきだして、あらためて一つ目モンスターを見る。


「クロウ、あれって」

「木に擬態してるみたいだな」

「ぎたい?」

「……変そうしてるみたいな感じだ。ほら、あの枝の上、木の葉みたいになってるが、よく見たら違うだろ」


 えー! ほんとだ!

 鳥が羽根を休めている上の葉っぱが、よく見たらすごく不自然。緑の葉っぱだけが、無理やりくっついているみたいな。枝がない。どうやらあの緑の葉っぱもどきが、モンスターの体だったみたい。

 葉っぱモンスターってこと⁈


「どうしようクロウ。帰る?」

「は? あそこに鳥がいるだろ」

「でもモンスターもいるし」


 今だったらまだ気づかれていないみたいだし、逃げられるはず。


「あのなぁ。なんのために来たんだよ」

「それはそうだけど……」


 クロウをなんとか説得させようとしていると、突然「ギャアギャア!」と、鳥の悲鳴と翼をはばたかせる音が聞こえた。

 いそいで木の上を見ると、あの葉っぱモンスターが、緑の細長いツタのようなもので鳥の足をとらえていた。

 虹色の羽根をした不夜鳥は、なんとか抜け出そうと必死に羽根をばたつかせている。


「たいへん! クロウ、助けなきゃ!」

「さっきまで帰ろうとかいってただろ」

「い、いいから、はやくはやく!」

「はいはい」


 適当な返事をしたクロウの手が伸びてきて、ぎゅっと手を握られた。

 そういえば体の一部が触れてないといけないんだっけ。とりあえず離れないように握り返す。


 クロウは人差し指を上に向けると、指先にくるくると小さな風のうずをつくりだした。

 ときどき緑の線が走っていて、かすかに光る。


「ちょうどいいし、鳥もやるか」

「えっ⁉︎ だめだよ! 鳥は傷つけないで!」

「はぁ? たく、コロコロと注文が多いヤツだな」


 クロウはぶつくさ文句をいいながら、モンスターのほうを見て、急に真剣な顔つきになると、そのまま指先をふるった。

 クロウの指から放たれた風は、草や木を切りたおしながら進んでいく。

 もしかしてあれって、カマイタチ?

 そんなこと思ってる間に、クロウのカマイタチが、鳥をとらえていたツタを切り裂いた。

 その瞬間、鳥は大きく羽ばたいて空へと逃げていってしまう。


「ほら見ろ。逃げられたじゃねえか」

「う。ま、まぁまぁ。それよりクロウ強いね! すごい!」


 とりあえず褒めごまかし。

 すると、クロウがサッと目を細め、前を向く。

 その瞬間、ドンッとかべに何かがあたったような鈍い音がした。


「な、なに⁉︎」


 おどろいて見れば、目の前に緑のツタが。

 つかまる⁉︎

 恐怖で腰をぬかしそうになったけど、よくよく見たらツタは怒ったようにドカドカ空中をたたいている。まるで、とうめいなかべでもあるみたいに。


「クロウ、こ、これは? 大丈夫、なの?」

「あー……このかべ、もろいな」


 クロウは突然わたしを片手でひょいと抱え、肩にかつぐと、そのまま大きくジャンプして木の上に飛びのった。

 その瞬間、パリンっとかべが割れた音がする。

 もしかして、とうめいなかべが、割れた? あのままいたら、ツタでぐるぐる巻きにされてたかも⁉︎ ううん、もっとひどい攻撃で傷だらけになってたかも。


「く、クロウ、勝てそう……?」


 いきなり視界が高くなって、おっかなびっくりクロウにつかまりながらたずねる。木の上だからバランス崩したら落ちちゃう。

 それより、勝てないっていわれたらどうしよう!


「サクッとたおすほうがいいな」


 クロウはそういって、また指先に風をつくると、あの一つ目葉っぱモンスターに向かってカマイタチを放った。

 伸びてくるツタを次々切り裂いて、クロウのカマイタチは葉っぱモンスターを真っ二つにしていた。


「わ、す、すごい……」


 一撃でたおしちゃった。

 クロウって、やっぱり強いの?


「ほら、降りるぞ。つかまれ」

「う、うん」


 クロウがわたしを肩にかついで、地面に降りる。つま先でトンっと軽く地面におりてた。人みたいなのに、本当に人じゃないんだ。


「あのモンスターから何かとれたりしないのか?」

「さ、さぁ。どうだろう?」


 そんな使えないって目で見られても。モンスターのことはまだあまりくわしくないもん。


 とりあえず地面にたおれているモンスターに近づく。血とか出てなくて、なんだか置物みたいな。生きてた感じがしない。ふしぎ。

 木の棒でおそるおそる突っついていると、遠くから聞き覚えのある声がした。


「おーい、リディルちゃーん」

「所長さんの声だ! 所長さーん!」


 パッと立ちあがって、声がしたほうを向く。葉っぱをかき分けながらこっちに向かってきている所長さんがいた。

 わたしに気づくと、駆け足で近づいてくる。


「ああ、いたいた。ケガはないみたいだね」

「はい! クロウがたおしてくれました」

「おー。さっそくモンスターたおしたのか。えらいえらい。優秀だね」


 所長さんに褒められちゃった!


「ああ。バジルクロックか。けっこう強いのによくたおせたね」

「強かったんですか?」

「わりと。こいつは頭の上にひとつ色の違う葉が生えていて、それがアイテムの材料になる。ほら、これ」


 所長さんが葉っぱモンスターの頭のてっぺんから、黄色い葉っぱをぷちっと採った。


「ほんとうだ。色がちがいます」

「こいつの魔力保持がここなんだよね。リディルちゃんも慣れたらわかるようになるよ」


 やっぱり所長さんは物知りですごい!


「おいリディル。それより逃げた鳥はどうすんだよ」

「うっ」


 せっかく見つけたのに、逃げちゃったんだよね……。


「鳥って、もしかして、あの子?」


 所長さんが上を指さした。その指先を追うように視線を向けて、びっくり。

 なんと、あの逃げちゃったと思っていた鳥がもどってきてたんだから。

 綺麗な虹色の翼をはばたかせて、鳥はクロウの頭の上にのった。


「おい」

「まぁまぁ、クロウ。どうしたの? ケガしちゃった?」


 鳥に話しかけてみると、その鳥はくちばしで自分の羽根を突っついた。どうしたのかと思っていると、くちばしに綺麗な羽根を一枚くわえている。しかも、それをわたしに差し出してきた。


「え! くれるの⁈」

「くわっ」

「リディルちゃん、受け取ってあげな」


 そっと羽根を両手で包むように受け取った。すごい綺麗。なんだかキラキラしているような感じがする。


「おい、一枚とかケチんな」


 クロウが文句をいうと、鳥がくちばしてクロウを突っついた。


「いって。丸焼きにされたいのかこのクソ鳥」

「ぐわーっ」

「も、もうクロウやめなよ。せっかく羽根くれたんだから。ごめんね。羽根ありがとう!」


 お礼をいうと、鳥はまた自分の羽根をつっついて、自分の羽根を採って渡してくれた。しかも、それを四回も! ぜんぶで五枚も羽根もらっちゃったよ!


「あ、ありがとう!」

「くわっ」


 鳥は「どういたしまして」というみたいに鳴いて、そのまま飛び立っていった。


「ありがとうー!」


 大きく手をふって、綺麗な羽根五枚を手にクロウをふり返る。


「やったね!」

「なんか納得いかねー」

「ええ! どうして? せっかく羽根くれたのに」


 クロウといい合いをしていると、所長さんがわたしの手から羽根を一枚とって、観察するみたいに羽根をながめた。


「うん。ちゃんと不夜鳥の羽根だね。材料もそろったし、街にもどろうか」

「え?」


 所長さんは、はぐれていたあいだにほかの必要な材料を全部集めてくれてて、なんともう回復薬の材料集めが終わっちゃった。やっぱり、所長さんってすごい!

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