第7話 わたしの召喚獣は男の子!?2
古びたドアノブをまわして、扉をあける。
「入って! せまいけど」
部屋の中に入ったクロウベルは、いやそうに目をすがめた。
「本当にせまいな」
「しょうがないよ。わたし、ビンボーだもん!」
わたしが今住んでいる家は、すきま風が入ってくるような小さくてオンボロの家。わたしみたいな子どもでも貸してもらえて、お家賃も安いのがこのお家くらいだったんだ。
ふつうは、召喚士候補者でも子どもだけで住まない。
タマゴを見つけた子は、親と一緒にきて、ダメだったらそのまま帰っちゃうから。
みんな家のお仕事を手伝っているし、お金持ちの子はガッコーてところに行ったりするからいそがしいんだって。
わたしも家のお仕事を手伝っていたんだけど、帰るまえに別のタマゴを見つけちゃって、なんだかんだそのまま街に住んでいる。
このお家には、わたしのほかにも、何人か召喚士候補者が住んでるみたい。ただ、わたし以外はひんぱんに入れ替わっちゃうんだって。みんな優秀なんだなぁ。
「あ、とりあえず座って! お茶用意するね」
これまたオンボロのテーブルとイスを手で示すと、クロウベルは静かにイスに腰かけた。座ったとたん、ギィィィと、不安になる音が響いていたけど、しょうがないよね。ビンボーだから!
手早くお茶をいれて、クロウベルのところにいく。向かいのオンボロイスにわたしも座った。また、ギィィィと不安な音がした。
興味深そうにわたしの部屋を見ていたクロウベルに「ねぇねぇ」と話しかける。
「あなた、タマゴから生まれたよね?」
「そのタマゴってのは、ゲートのことでいいんだよな?」
「ゲート?」
聞いたことない言葉に首をひねる。
そんなわたしを見て、クロウベルは目を細めた。
「ふぅん。こっちではタマゴ型なのか」
クロウベルはのんびりとお茶を飲んで、いやそうに顔をしかめた。すっごく変な顔をしてる。お口に合わなかったのかな?
って、それよりも、たしかめなきゃ!
「えっと、もしかして、もしかしてだけど」
ドキドキする胸を押さえて、ぐいっと男の子に顔を近づける。
「あなた、
「召喚獣? ああ、そういう呼び方をしてるのか。なら、そうだ」
「ほんとう⁉」
うなずいた男の子にさらに顔を近づける。
「ほんとにほんっとうに、召喚獣なの? わたしの?」
「そうだ」
男の子のうなずいた声が、何度も頭に響きわたった。
わたしの、召喚獣。わたしの。
ということは、わたしは、ついになれたんだ。あこがれの、召喚士にっ!
「やったーっ!」
両手を大きくあげてバンザイをした。そのままガッツポーズをしてくるくるまわる。
って、よろこんでる場合じゃない。交流を深めないと!
男の子の手を両手でガシッとつかんで、あらためて自己紹介をする。
「よろしくね! わたしはリディル・ベロワーズ。十二歳! えっと、クロウベル?」
「クロウベル・S・エトワール。クロウでいい」
「クロウ!」
今まで召喚した子たちは人の言葉を話せなかったから、なんだか不思議な感じ。名前もあるみたいだし、クロウは今までの子とちがうのかな?
「クロウは、どうして人の姿をしてるの?」
わたしは立ち上がって、まくらの横においていた分厚い本を持ってクロウのところに戻る。
何度も何度も、どんな子がくるかなってドキドキしながら読んだから、ボロボロの図鑑。これまでにやってきた召喚獣がのっている、召喚獣図鑑だ。
わたしはその図鑑の適当なページをめくって、クロウに見せる。
「召喚獣って、こういう、動物みたいにちっちゃくて、ふわふわしてるんじゃないの?」
クロウはわたしから図鑑を受け取って、パラパラとページをめくった。
「人型もきたことあるだろ?」
「知らないよ? のってなかったと思う」
「先先代がきたことあるはずだ」
「うーん。わたしは聞いたことないかなぁ……」
「変だな……」
クロウはむずかしい顔して腕を組んだ。
「えっと、召喚獣ってことは、なにかできるんだよね? クロウはなにができるの? やっぱり雷? 手バチバチしてたし」
ふつうは召喚獣と交流を深めつつ、召喚獣のできることを探っていくらしいんだけど、クロウはお話しできるみたいだし得意なことは本人に聞くのが一番!
「個体の能力のこと聞いてんのか?」
「ん、と、たぶん?」
クロウの使う言葉はちょっとむずかしいけど、たぶんあってると思う。
「それなら、なんでも」
「へ?」
すっとんきょうな声が出た。
目をパチパチまたたくと、クロウは目を細めてあやしく笑う。
「だから、なんでも」
「なんでもって? 召喚獣はひとつのことしかできないって教わったよ?」
エリーさんたちから聞いていた話とちがう。
首をひねりながら、床に積み上げられていた本に近づく。背表紙を順番に見て、『召喚獣について』というタイトルの本を見つけてそーっと引き抜く。
うまく引っ張り出せずに、上にのっていた本が崩れて床に散らばった。
「なにやってんだ」
「こっちのほうが早いかなって……」
「散らばったのに?」
「うっ」
呆れた視線が床をなぞった。そんな目をしなくてもいいのに。
むくれたまま、クロウにとった本を手渡す。クロウがパラパラとページをめくりだしたのを見て、わたしは床に散らばった本をまた積み上げていく。
本当は本棚とかあるといいんだけどね。ビンボー暮らしのわたしのお家にはそんな高価なものはない。
一個一個折れてないか確認しながら元に戻していると、わたしのとなりにしゃがみ込んだクロウがくいっと首をかしげる。
「情報が欠如していないか?」
「どういうこと?」
「人型のことも書いてなければ、俺たちの世界のことも書いてない。てっきり先々代がこの地に降り立ったときに、いろいろ伝わってると思ってたんだがちがうのか?」
「えっと、よくわからないけど、召喚獣はちがうところからくるっていうのは聞いたよ?」
「それだけか?」
「うーん。あとは召喚獣がいるとひとつ特別なチカラが使えるとか、召喚士になると将来安泰とか!」
こぶしを握って力説する。
「ふぅん。きな臭いな」
「え。臭い?」
ドキッとして自分の匂いを嗅ぐ。
たしかにビンボー暮らしだから高い石鹸とかは使えないんだよね。服もあんまり持ってないし……。
「ばか。そうじゃねぇよ。まぁ、なんでもいいか。こっちとしては、あんたがバンバンチカラを使ってくれりゃそれでいいしな」
「わたし?」
「そ。あんたのところに行きたいってヤツが多すぎて、エネルギーの循環が滞ってるんだよ」
「へ?」
クロウのいっている意味がさっぱりわからない。なんだかむずかしい話をしているみたい。はてなマークを浮かべていると、クロウがめんどうくさそうに手を振る。
「あー。いい、いい。説明したってどうせわからないだろ」
なにそれ。失礼しちゃう。わたしだって、説明されたらちゃんとわかるもん。
「で? あんた、やりたいこととかないのか?」
「やりたいこと?」
「チカラを得て、なにがやりたかったんだよ」
そういうことか! そんなのは決まってる。だって、そのために召喚士を目指したんだから!
「それはもちろん! お金! いーっぱいお金をかせぐの!」
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