思い想いの恋心 短編恋愛小説集

土蛇 尚

僕の渇き

 そのレシートには僕の未練がある。


 財布の中にある皺だらけのレシートは、最後の1日コンビニで買い物をした時のもの。あの日はひどい雨で駅の外には人の塊が出来ていた。


 合計1140円、ビニール傘と水。傘だけ買ったらまるで僕が彼女の為だけに動くほどにはまだ未練があるみたいだから水を買った。


 別に未練なんてない。ただ濡れるのは良くないし、僕は喉がすごく乾いてたから。


 だけどそのレシートはどう見ても、雨の日に傘を買ったレシートで彼女の為の買い物をした記録だった。


 あの傘は今どこにあるのだろう。彼女のアパートの玄関にあって欲しいとも思うし、どこかに捨てられて欲しいとも思う。新しい恋人にその傘使っていいよーとか言ってたら嫌だな。


 僕は、いつになったらこのレシートを捨てられるだろう。いつになったらこの渇きは消えるだろう。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る