第32話 (回想) 記憶がない日常

僕が目覚めた時、病院のベットの上だった。

暫く、僕はぼんやりと映る天井を眺めていた。

「よかった、目を覚ましたのね。先生、呼んでくるわね」

女は早々と病室を出て行った。


足音が消えたと思ったら、先生と看護婦を連れて女が戻ってきた。


「よかった…意識を取り戻したんだね。もう、一週間も眠っていたんだよ。

改めて、担当医の天野雄一あまのゆういちです。よろしくね」


僕は一週間も眠っていたのか……


でも、なんで、僕は病院で寝ていたんだろう?


しかも体のあちこちに痛みを感じるし、包帯を巻いている。

顔の傷もめっちゃ痛い……。

ケガでもしたんだろうか……。僕はやっぱり、不運星人だった。


天野先生は僕の下瞼と上瞼を開け、瞳孔にペンライトの光を当てる。


眩しい……僕は思わず目を細める。


「取りあえず、術後処置をした後で内診も含めて血液検査、X線、

脳異常がないか検査していきましょう」

「はい…。あの…先生、退院はいつ頃になりそうですか…?」

「そうですね、検査に異常がなければ体の回復も含めて3ヵ月の経過観察後、

退院ということになると思いますが…」

「そうですか…ヨロシクお願いします」

「大地君、頑張ってケガの治療をしていきましょうね、それじゃ…」

天野と看護婦は病室を出る。


「よかったわね。命が助かっただけでも不幸中の幸いだわよ。

秋霖学園はダメだったけど、普通の木田山高校には間に合いそうよ。

ごめんね、お母さんも大地にプレッシャーをかけすぎたと、反省しているの。

許してね…、ずっと、仕事、仕事でろくに顔も合わせなかったものね」


え、この人がお母さん? でも、僕は母の顔をよく思い出せなかった……。


母だけじゃない…父の顔さえも記憶にはなかった――――ーーー。


「実はね、お父さんとは離婚したの」


え…?


「大地には言わなかったけど、実はお父さんと上手くいってなくてね、

離婚した後の事を考えると……私も仕事しないといけないって…

必死だったの……やっぱり、子供には心配かけたくないから」


そう、だったのか……。


僕の存在に気付いてなかったわけじゃなかったんだ……


あんなに嫌っていた両親なのに、僕の目には何だか母の姿が小さく映り、

本当は寂しい人なんだと、母の別の部分が見えたような気がした。

今更だけど、もしかしたら、父も父なりに何か理由があったんじゃないかって、

そう思う。


コンコン。


ノックする音が聞こえ、看護婦が入室して来た。


「臼井さん、処置室へ行きましょうか 」

 

看護婦の名札には【三南淵里緒奈みなぶちりおな】と書いてあった。

黒髪を後ろに束ね、黒縁眼鏡をかけていた。真面目で頭いい感じの優等生系

タイプの女だ。満更、悪くはない。歳は25,26ってところか。

意外と胸はあり結構ふっくらとしていた。

屈むと豊満な胸は白衣からでも形がわかるほど、揺れていた。


「あ、その前に検温を測りましょうか」


里緒奈は前屈みになり大地のパジャマのボタンを外していく。


むぎゅ…ぼよ…んん……


む…胸が…僕の顔に触れている。ドキッ…かああああああ……

僕は顔から火を噴くようにカッカッと熱くなってきた。

ヤバい…これはヤバい…ぐんぐん立ってきている、、、、

「じ…自分で測れます!」

僕は看護婦から体温計を取り上げる。

「そう? じゃ、お願いしようかしらね」


里緒奈は体制を整え、大地からその身を離す。


僕の興奮した体は落ち着きを取り戻した。な、なんだったんだ…今の突起は…

それも僕の初めての身体の異常で、頭の中は困惑していた。

そんなことは もちろん誰にも喋ることができず、僕はたくさんある検査に

集中することを決めた。


ピピピピ……

体温が測り終えた音が聞こえ、僕はゆっくりと脇下から体温計を外す。

「36.2」

「はい、了解。熱はないようね」


里緒奈は検温を記録している。


「さっき、身体に触れた時、熱かったから熱があるかと思っちゃったわ。

でも、熱がなくてよかったわ。さあ、行きましょうか」

「はい」

「あ、歩ける? 車椅子持ってこようか?」

「大丈夫です。歩けますから」

「そう。さすが若いだけあって回復も早いわね(笑)」

僕はゆっくりとベットから下りる。

「それじゃ、お母さん、全ての検査が終わり次第 こちらから連絡しますよ。

多分、今日一日かかるかと……」

「あの…それじゃ、仕事行ってきても大丈夫でしょうか?」

「ええ。まあ、歩けているから大丈夫でしょう…」

「それじゃ、宜しくお願いします」

「はい…」


母は病室を出て仕事へと向かった。


そして、僕と看護婦は検査室へと向かう。


「お母さん、君が事故に遭った時、めちゃくちゃ心配して慌ててかけつけてきて

くれたのよ」

「え?」

「いい お母さんじゃない(笑)」


お母さんが……? 僕にはお母さんの記憶がなかった……

いいお母さんだと言われてもよくわからなかった……。


「里緒奈さんって何歳ですか?」

「何歳に見える?」

質問返し?

「25か26歳ですか?」


里緒奈さんは呆気にとられたような拍子が抜けた顔をしていた。


「驚いた…ビンゴだわ、26歳よ」


よし、やっぱり!! 僕は心の中で小さくガッツポーズをする。


「なんで、わかったの?」

「えっと…何となく…」

「じゃ、私のスリーサイズわかる?」

「え、え、え、何を言ってるんですか? それ、セクハラですよ」

95、63、87ってとこか…って、僕も何を心の声で答えてる…

「答えは95、63、87。自分で言っちゃったからこれはセクハラじゃないよ」

マジか……ボン・キュ・ボン。男が喜ぶまさに理想の体形だ。

「大地君はまだ中学生だもんね。大人の女の身体には興味ないか…残念(笑)」

「……」かあああああ、、、、、

マジ、この女、僕を誘ってるのか……


思春期真っ盛りの僕が興味がないわけないだろ!!


まさか、これが僕の本来の姿だろうか? 

ホントの僕はめちゃくちゃエロかったのか……

今、めちゃくちゃ素の自分が出ているんですけど……





夕方5時頃、全ての検査が終わり、病室に戻った僕はクタクタになった体を

休息させていた。7時の夕食まで まだ2時間もある…僕はいつの間にか気持ちよく

眠りについていた――――ーーー。


その頃、仕事が終わった母が天野先生に呼ばれ、検査結果を聞いていることなど

僕は夢にも思っていなかったのだったーーーーー。











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