第7話 Spring――春、現実は計算通りにならない

寒い寒い冬は短く、あっという間に暖かな陽射しを迎え、

季節は春――――、


僕は窓際の一番後ろの席に座り窓越しに見える桜の花を眺めていた。

頬に手をつき、不貞腐れた顔が窓に映る。

「今日から1年生を担任することになった猪上里子いのがみさとこです。

ヨロシクね」


え!? 

僕は初対面なのになぜか馴染みのある苗字が少し気になっていた。

猪上!? どこかで聞いた名前だ……

教壇に立つ担任は見た目は20代前半にも見えるほどに若い。

背は低く、小柄でキャシャな体系。胸もなさそうだ。

バスト78ってところだろうか。

チェッ。無意識に舌打ちする。

担任が女ならどうせ胸はボーンとある方がいいに決まっている。

少し屈めば胸の谷間が見えるくらいあってもいい。

僕は思春期が来るのが遅すぎたせいだろうか、最近、時々、女子の体のラインが

気になってたまらない。女子軍も男子達の視線をそそるようにスカート丈を短く

しているし、中には制服のカッターシャツを第2ボタンまで外している子もいる。

それこそ屈めば胸の谷間が見える。鼻血ブーの距離感だ。

高校生活初日から刺激強すぎるだろ。

高校生にもなると男女共に色気づいている。まさに高校デビュー盛りか。

髪の色を茶髪にし軽く化粧をしている女子をチラホラと見かける。

めっちゃくちゃ大人っぽく見える。

しかもスカートから伸びる美脚は男心をゾクゾクさせ僕は無性にムラムラしてきた。

いかん……。僕は慌ててズボンの上から先立つものを両手で押さえる。

ビンビンしている。僕の体に何が起こっているんだ?

これも男の本能だろうか……初めての経験だった……。

机が死角になっていてよかったとホッと溜息が一つ零れた。

よし、落ち着いたみたいだ。

―――が、僕は空気のように存在感がない男だ。

それは、高校生になっても同じだということに僕は気づいてしまった。


誰とも視線が合わないーーー。気のせいだろうか?

いや、気のせいではない。


誰も僕のことに無関心だったーーーー。

『やっぱり……僕は存在感がない……』

僕は愕然と肩を落とすーーーー。


「先生、歳は何歳ですか――!!」

「もう、女性に歳なんて聞くもんじゃないよ(笑)。28歳です」

「全然イケてるじゃん」

「結婚してるんですか?」

「あ、それはヒミツです」

「してないんだね(笑)」

クラスメートの声がやけに遠く感じる。というか、中学の時よりも僕の存在は

増々、薄くなっているような気がするのは気のせいだろうか……。

見渡すクラスメートは初めて見る子もいれば、なぜか中学で見かけた子もいた。

「先生、兄弟は?」

「このクラスの子達はよく質問してくるね。…いるわよ。兄がね。

確か、中学の生活主任だったかしらね」


え? 兄?


あっ……思いだした。猪上先生、、、中学ン時の生活主任と同じ苗字だ。

まさか兄妹きょうだいだったとは……。世間って狭すぎじゃねー!?

ビンゴだ。担任は猪上先生の妹だった。全然、似ていない……

それに今、僕が通っているこの高校は僕が受験した秋霖しゅうりん学園では

ない。やはり、僕は不運星人だった。

肝心な時にツキを落としてしまう。

だけど、なぜか僕には秋霖しゅうりん学園を受験した記憶がなかった。

あの日、家を出た時の記憶は薄っすらと覚えているんだけど、秋霖しゅうりん 学園に行った記憶がなかった。

ここは、おそらく滑り止めに受けていたEランクの高校だろう。

なぜ、僕がそんな低レベルな公立の一般的な高校を受験していたのか

わからないが、今、僕がここに居るってことは名門高校である秋霖しゅうりん

学園に落ちたことになる。


まるでサイコロゲームだ。何度も同じ場所を繰り返す。

僕はまた振り出しに戻ったみたいだ。


「もう質問は終わり、出席を取ります」


「相沢さん」 「はい」

「井浦君」 「はーい」

「上田さん」 「はい」

「岡本君」  「はい」

「加西さん…」 「はい」


……え!? とばされた…


高校になっても僕はやっぱり存在感がなかった。

そう、僕は空気のように軽い存在だ……いや、それよりも…なんだろう…

クラスメート達との温度差を感じる……。


何だか僕はまた一人ぼっちになったみたいだーーー。


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