秋田剣・継承之刃

けいティー

第1話 解かれた封印

 秋田県鹿角市にある詩国うたくに遺跡。青森や岩手の県境に近いこの場所は、山奥が故に徒歩でしか行く方法は無い。しかも道は整備されておらず、道無き道をひたすらに突き進んでいくしかないのである。そこへ1人の男性が険しい山の中を通り、遺跡にやってきた。

「ふー、やっと着いた。」

 彼の名は山王さんのう太郎たろう、若き考古学者である。彼は詩国遺跡の調査の為にやってきた。

「さて、調査開始しますか!」

 山王は懐中電灯を手に、遺跡の中を見回す。

「ん?これは何だ?」

 山王が見つけたもの、それは古びた剣だった。伝説の聖剣の如く地面に突き刺さっている。まるで引き抜く者を待っているかのように。

「剣か…?」

 山王は引き寄せられるように剣の元へ向かう。

「この剣に遺跡の秘密が隠されているのかもな…。」

 両手で持ち手部分を持って、剣を引っこ抜こうとする山王。しかしその剣は簡単には抜けない。

「かなり固いな…。だがこのくらいで諦めんぞ!うおおお!」

 見事引き抜くことに成功した。山王は尻もちをつく。

「いやーしんどいなこれ。ってかこの剣は一体…。」

 その時、剣を引き抜いた場所から邪悪なエネルギーが暴風と共に一気に放出された。

「今度は何だ?」

 飛ばされないように山王は何とか踏ん張る。同時に5つの球状の発光体も放出され、どこかへ飛んでいった。

「私を眠りから覚ましたのはお前か?」

 風が収まると、山王の目の前には身長2m以上はあろうかという程の大男が立っていた。

「お、お前は何者だ!?」

 すぐに立ち上がり、その大男と距離を取る山王。

「お前から名乗れ。」

 その大男は言う。

「何だ?偉そうに。」

「偉そうではない。偉いのだ。」

「は?どういうことだ?」

「しょうがない、私から名乗ろう。私は郡神こおりのかみの1人、鹿角郡神かづののこおりのかみグンナンブ。」

 確かにローブのようなものを羽織り、右手には大きなピッケルを持っていて人間として見れば奇怪な見た目をしている。

「お前は人間じゃないのか?」

 山王は恐る恐る問う。

「そんな下等生物と一緒にするな。さあお前も名を名乗れ。」

「俺は山王太郎、考古学者だ。」

「山王太郎、お前には感謝している。およそ2000年の眠りから目覚めさせてくれたからな。」

「2000年…。2000年前、何があったんだ?」

「お前に言う必要は無い。ここで私に倒されるのだからな。」

 ピッケルを構えるグンナンブ。

「おいおい、お前俺に感謝しているんじゃ無かったのか?恩を仇で返すとはこのことだな。」

 山王は余裕をかましているように見えるが、足は震えていた。

「それが私、いや私たちの礼儀だ。さあシノクニクスに変身して戦え。2000年振りに勝負だ!」

 意気揚々とグンナンブは言う。

「変身して戦う?どうやって?」

 その時、剣の刀身が光りだした。

「ん?秋田剣?カードをかざす?」

「何をぶつぶつ言っている?」

「この剣が俺の脳内に語りかけてきたんだ。この剣の名前は『秋田剣あきたけん』、そしてシノクニカードを刀身にかざして変身する!やり方はだいたい理解した!行くぞ!」

 山王がそう言うと、山王の目の前に1枚の黒塗りのカードが出現した。それを受け取ると、秋田剣の刀身にカードをかざす。

『Blank,Nanmone!』

 剣から音声が流れて、山王太郎はアイア◯マンのような質感のスーツを纏った戦士に姿を変える。目の部分には秋田県の形を横にしたような形状の意匠があるこの戦士の名は『シノクニクス』だ。全身黒ずくめであり、この姿は『シノクニクス ナンモネ』という名前である。

「これが…俺か…!」

 初変身に感動する山王ことシノクニクス ナンモネ。

「この憎き姿…。まさしくシノクニクス…!勝つのは私だ!」

 グンナンブは突然ナンモネにピッケルで攻撃を始める。

「危ねえ!」

 ナンモネは攻撃を間一髪回避する。

「戦いはやったこと無いが、今の俺なら行ける気がする!はあ!」

 ナンモネは秋田剣でグンナンブに攻撃する。グンナンブはピッケルで攻撃に対応する。剣とピッケルがぶつかり合い、火花を散らす程のバトルを繰り広げる。

「流石シノクニクス。なかなかやるな。」

「そっちも流石神ってところだ。だが、これで終わりにしてやる!」

 ナンモネはシノクニカードを刀身にかざす。

『Nanmone,finish charge』

 秋田剣から音声が流れて必殺技待機状態に入る。

「2000年の恨み、今ここで…!はああ…。」

 グンナンブはピッケルを大きく振りかぶり、エネルギーをピッケルにチャージする。

「今だ、シノクニスラッシュ!」

 ナンモネは秋田剣を振り、グンナンブに向けて斬撃を飛ばす。

「くらえ!」

 グンナンブもチャージしたピッケルから斬撃をナンモネに向けて飛ばす。飛ばした斬撃はぶつかり合い拮抗したように見えたが、勝利したのはナンモネの斬撃だった。その攻撃はグンナンブに直撃する。

「何だと…。またしてもシノクニクスに負けるのか…。ぐわああ!」

 攻撃を食らったグンナンブは粒子となって消滅した。

「勝った…。しかしあれは何だったんだ?」

 ナンモネは変身を解除して山王の姿に戻る。さて、邪悪なエネルギーが放出された際に同時に出てきた5つの発光体はどこへ行ったのか。その答えはこの山の麓に位置する鹿角市の市街地にあった。


「うわあああ!」

 逃げ惑う人々。その人々を追うように歩く5体の異形の大男と大女。それは奇しくも発光体と数が同じだった。そしてグンナンブと同じようにローブを羽織り、手にはそれぞれ違った武器を装備している。

「警察だ!武器を捨てろ!」

 警察が駆け付ける。そして拳銃をその5体に向ける。

「人間ごときが、消え失せろ!」

 5体の中の1体が警察の方に手をかざすと、次の瞬間大きな爆発が起きた。

「郡神にたてつくからこうなるのよ。」

 大女は不気味に微笑んで言う。


 この状況を秋田剣は感じ取った。秋田剣はまた山王の脳内に語りかける。

『鹿角が危ない。』

「何?またさっきと似たような敵か?」

 山王はその声に答える。

『そうだ。だが今からでは間に合わない。着いた頃には市街地が壊滅している可能性が高いからな。』

「じゃあどうするんだよ?」

『山王太郎、短い間だったが世話になった。』

「え?」

 突然の別れムードに困惑する山王。

『お陰で鹿角郡神を倒すことが出来た。ここからは私1人で戦う。』

「1人でって、どういうことだ?お前は剣だ、剣は使い手がいないと力を発揮出来ないのが普通だろ?」

『普通の剣ならそう言える。しかしこの私、「秋田剣」は違う。私は一時的に人間の体無しで、シノクニクスを作り出して戦うことが出来る。こうしてはいられない、向かわなくては。ありがとう山王太郎。こうなってしまったのはこの遺跡に郡神を封印した私の責任だ。』

「いや、俺が剣を勝手に抜いたから…。」

『私がここに封印しなければ君も私、秋田剣を抜くことなんて無かった。君をこれ以上2000年前の因縁に巻き込む訳にはいかない。ではさらばだ。』

「お、おい!」

 秋田剣は市街地に向けて飛んでいった。


《この話の登場人物》

 ・山王太郎→若き考古学者。秋田剣を引き抜いたことで郡神を復活させてしまうが、秋田剣にシノクニカードをかざして変身する戦士「シノクニクス ナンモネ」となり、郡神の1人、鹿角郡神グンナンブを撃破した。

 ・鹿角郡神グンナンブ→鹿角郡、鹿角市の力を使う郡神。大きなピッケルを用いて戦う。

 ・秋田剣→郡神を2000年の間封印していた剣。自我を持っており、剣の使い手の脳内に直接語りかけることで意志疎通を行う。また、刀身にシノクニカードをかざすことで秋田剣の使い手を「シノクニクス」という戦士に変える。

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