第13話 寂しくて強いバラ

「もし何かあったら、お母さんと美羽ちゃんにすぐ連絡するから。万一の時は……警察に電話する」

 自分の放った言葉の重苦しさに、気がひけてくる。だけど、このまま部屋でおとなしくイリスが見つかるのを待つことは出来そうもなかった。

「連絡来たらすぐ出られるように、スマホから目を離さないようにしてる。本当に気をつけて」

「わかった」

 うなずきながら答え、とにかく急がなければと電話を切ろうとした時、また美羽ちゃんの声がした。

「心春ちゃん……グッド・ローズ」

 なにそれ。

聞く前に美羽ちゃんは電話を切ってしまった。あんなに泣いていたくせに、アニメのセリフらしきものを言う余裕はあるのかと、心春は半ばあきれた。でもおかげで、はりつめていた気分がちょっと和らいだ。

心春は大急ぎで制服から着替え、スマホと財布をショルダーバッグに入れると、階段を駆け降りながら「イリスを探してくる!」とだけ言って、玄関を飛び出した。

 家の中からお母さんが何やら大声で叫んでいるのが聞こえたけど、無視して自転車にまたがった。どうせ、止めようとしているのに決まっている。

 心春は、吹きつける風にぐらつきながらも、自転車を漕ぎだした。

 夜の街には風音だけが響いていて、ひとけもわずかだ。

一刻も早くイリスを見つけて帰ろう。

怖さを振り切るように自転車のスピードを上げ、向かい風の中、やっとのことで坂を上り、線路ぎわの『花のお邸』に着いた。

頼りない街灯の光が、壁沿いに並んだバラの木々にぽつんぽつんと咲く花を照らしている。

自転車をその脇に止めながら、心春はイリスが以前話したことを思い出していた。

「知ってる? ここのバラって春と秋の二回咲くんだよ。でも秋には、ちょっとしか咲かないの。それが少し寂しくて、でもみんなと違っても平気よって強い感じもして、気に入ってるんだ」

あの時、電車のドアにもたれかかって外を見ていたイリスは、どんな表情(かお)をしていたんだろう。

 フラッシュライトをつけたスマホで辺りを照らし見ると、その光を反射して鉄道のレールがぬらりと光った。

 線路に沿って歩いていくと少し先に、ひとり、侵入防止フェンスの方を向いて立っている人がいた。背格好がイリスに似ている気がする。

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