第一章 魔法少女、異世界に立つ

魔法少女、ステータスオール0からの追放

魔法少女ミリタリーマジックキャスター――通称MMC、彼女たちは地球を異世界エーレンゼルの侵攻から守っていた。そして現在、最終決戦が行われている。


お互いに総力戦だ。その激しい戦いに少女たちの命は一つ、また一つと華々しく散っていく。その戦いの最中、エーレンゼルは最強の手札を切ってきた。

それは自分たちの創造神を、地球に送り込んできたのだ。

疲弊したMMCには、神と呼ばれる規格外の化け物を相手にする余力はなかった。

だが、一人だけその存在に立ち向かう者がいた。


その者の名は柏木 智子。あだ名はトモ。彼女も魔法少女である。ただし、非正規イリーガルと呼ばれる政府非公認の魔法少女だった。

他のMMCからは蔑まれ侮られていた彼女は今回の作戦には、今まで参戦せず潜伏していた。 今この時のために、力を温存していたのだ。


魔導生命体クーリガー起動開始ゲシュタルレット!」


彼女は相棒の名を叫ぶ。ここからは私の戦いだ。そう宣言する。


 その言葉と共にクーリガーよりピンクの光があふれだした。

 二秒ほどでその光が収まると、先ほどのみすぼらしい格好の女子高生はいなかった。


 その光の中から出てきたのは12歳ぐらいの美少女だった。透き通るような肌に、ほんのりとチークが頬に載っている。

 ぼさぼさだった赤茶けた髪はピンクの髪に巻いたツーサイドアップに、薄汚れた服はきらきらと光るフリルのついたスカートや身体のラインが出たドレスに、更にシュシュが両手と右足に巻かれている。

 そしてそのかわいらしい格好に不釣り合いな身の丈ほどある大剣を右手で地面に突き立てあらわれたのだ。

 先ほどとはまったく違う姿。その姿は別人にしか見えないが、


「やっぱり、私一人でやんなきゃだめ? 親玉って神とか言ってるやつでしょ? 勝てるわけないよ。死んじゃうよ!」


 この期に及んで情けないことをいうのは紛れもなく柏木 智子その人で間違いなかった。


相棒のクーリガーはそのトモの姿に、「諦めて、いきますよ。マイスター」と促す。

しかしなかなか止まらない。視線の先にはゆっくりと空から降りてくる神の姿があった。

そして神が地面にたどり着くと一通り泣き言を吐くと満足したのか、諦めたのかは解らないがトモは大剣を地面から引き抜き、疾駆する。


――ここから先は酷く曖昧な記憶だった。

最後の記憶は体中の痛みと、神を切り裂いた記憶だけ。



そして気付けばトモは白い霧の中にいた。夢の中の様で、酷く現実感のない空間だった。


「ここどこ?」


その何気ない一言に、答える声があった。


「やぁ、やっと気づいたかい? 悪いけど君には勇者になってもらう。

君を呼んだだけで大分力を使ってしまったから、何もあげられないけど頑張ってね!」


突然トモの前に白い人影が現れると、何の説明もなく勇者にしたという。

正直意味が解らない。


「ちょっと! 勝手なこと言わないでよ! せめて説明を!」


 まだはっきりとしない意識の中、トモは声を絞り出した。


「うーん。あまり時間がないんだけどなぁ。 君が倒したエーレンゼルってとこの神様いるじゃない? あれ僕らの世界に飛んできちゃったんだよね? 君が殺しそこねてね? だから、何とかしてほしいんだよ」


そういうと、白い人影はにやりと笑う。

トモは思わず身震いする。本能的に信じてはいけない物だと思った。


「悪いけど、私には関係ない! 帰してよ地球に!」


「それは無理さ。僕は力を使い果たしている。 さぁ勇者よ! 使命の為にこの名もなき世界を旅してくれたまえ!」


そういうと、トモの視界から白い人影が急に遠いところへ離れていく。

そして襲われる浮遊感。まるで空間自体が伸びていくような感覚にトモは襲われた。

これは不味い。有無を言わさずに雲隠れするつもりだ。


「ちょっとまちなさいよ! あんたそもそも誰よ!」


「誰かって? 神様さ、この世界に無数にいるね。 あと君、呪われてるから少しだけ治したけど、やっぱ僕の力足りないみたいごめんね?」


そしてまたトモの視界が暗転する。

今度は意識の断絶はない。

眼を開くとそこは石造りの祭壇の上だった。その前には白いローブを着た人間が何人もいる。その中の一人、王冠を被った老人が歩み出てトモに話しかけてきた。


「あなたが神託にあった勇者さまですかな? しかし……、まさか魔族とは……」


トモの姿をみて困惑の色を見せる老人。その視線は侮蔑の色が見えトモは不快に感じる。先ほどから、勝手なやつらばかりに絡まれているせいかトモの言葉も梁が付いたようにとげとげしくなる。


「いや勇者になったつもりなんかありませんけど……。 てか魔族? え?」


老人はトモの言葉に答えるつもりはなく。すぐに後方に指示をだした。


「神官長ステータスを確認しろ! 早く!」


すると何やら、髭を蓄えた老人がトモに近づくと大きな水晶に触れるように促してくる。とりあえず触らないと話が進まなさそうだ。気は進まないがトモは触れてみることにする。

すると、空中に四角いウィンドウが浮かび上がりこのように書いてあった。


 POW:0 CON:0 SPD:0

 DEX:0 MANA:0 LUC:0


称号:§Θn 神技:§Θn クラス:なし 主神:×××


その表示にどよめき立つ一同。

そして段々と険しくなる表情、トモは嫌な予感を感じた。すぐにその予感は的中する。


「こやつを即刻、森に捨てよ! 魔族の姦計か……、偽物の勇者を送りこんできおったのだ! 殺すなよ? 死をトリガーにして発動する呪いかもしれん! 結界の外に捨ててくるのじゃ!」


最初に話しかけてきた老人は激昂して、トモを追い出すつもりのようだ。

トモは反射的に身構える。戦うこともできるが、状況が分からないまま戦うのは、事態の悪化をもたらすかもしれない。


トモはおとなしく捕まることを選択した。

その道すがら、トモは大鏡で自分の身体を確認することができた。

その姿は、魔法少女の身体はそのままに、衣装というか、全体的に変わっていた。

赤いゴシックドレス風のワンピースにフリフリのスカート、髪色は赤に黒が混じり、ツインテールのゆるふわカール。背中は大胆に空いている。ここまではいい。


空いた背中からは蝙蝠の羽、頭からはヤギの様に立派な角が右側頭部に生えている。

そして悪魔のしっぽが生えていた。


――「呪われてるから少しだけ治したけど、やっぱ僕の力足りないみたいごめんね?」


先ほどの自称 神のことばをトモは思い出す。


「全然なおってないじゃん!」


トモがいきなり大声を出すと、兵士たちは身構えた。

しかし、すぐに何もないと解ると、規則正しくトモを護送し始める。

城をでて、街を抜け、城門を抜ける。

そして、すぐ近くにある森の入り口の前につくとトモは弓で脅され、「行け」と合図される。酷い扱いにトモは憤るが今は仕方がない。

相棒のクーリガーは沈黙したままだ。

トモは角を撫でると諦めて森の奥へ消え去るのだった。


その日トモは勇者となってすぐに、異世界で追放された。

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