第12話 セレベス海海戦②

西暦1946(昭和21)年/共和暦246年2月11日 フィリピン南西部 セレベス海


 サクソニア共和国海洋軍の主力艦隊が一つ、赤蛇せきじゃ艦隊は、ミンダナオ島西部で抵抗を続ける米軍を叩き、かつハルゼー率いる第3艦隊を迎え撃つべく、航空軍の支援を受けながら西進を続けていた。


 航空軍の支援が届く範囲内での戦闘に最適化されているとはいえ、万が一それが間に合わなかった場合に備え、各艦の対空兵装は強化されている。大型巡洋艦と駆逐艦は米軍のそれよりも長射程の12.7センチ連装両用砲を標準装備しているし、巡洋艦も新型の15.2センチ連装両用砲によって高い対空戦闘能力を得ている。


 だが、それでも艦隊旗艦「パーペイ」に立つレーベル提督の表情は冴えなかった。なにせエメーリティアの機動艦隊はただでさえ数が多い上に、航空戦力を航空軍の活動範囲外から展開する能力を持っているのだ。現在もフィリピニシアに展開する航空軍は、自分達の数倍はいるレシプロ機の大軍相手に苦戦している。


「提督、レーダーに反応。方位297より数十単位の敵機接近を確認。速度は時速400キロメートル程度です」


 対空監視レーダーの操作要員より報告を受け、レーベルはため息をつく。過去の戦争にて十数機もの敵機の編隊を相手にした戦闘を経験した事はあるものの、流石にここまでの大軍は未経験であった。これに対してマリーナ方面の部隊とローダス率いる黒龍艦隊はよく勝てたものだろう。


「全艦、対空戦闘配置。敵機は全方位から仕掛けてくる。その前に1機でも多く、先に落とすぞ」


「了解!」


 命令を受け、輪形陣外縁部に位置するアスター級巡洋艦は、4基ある主砲を敵機群の方角へ指向。自身のレーダーで正確な距離と方位を算出する。


「目標、捕捉完了」


「砲撃開始!」


 命令一過、4基8門の主砲が火を噴く。アスター級巡洋艦のN16・55口径15.2センチ連装砲は、最大射程が27キロメートルにも及ぶ長射程砲であり、自身の射撃管制装置と一体化した照準用レーダーに対空監視レーダー、そして小型レーダーを搭載する事で間違いなく敵機の至近距離で炸裂する近接信管持ちの榴弾が組み合わさる事により、高い長距離対空戦闘能力を有していた。


 果たせるかな、敵艦隊を漸く視界に捉えた米軍艦載機の目前で黒い硝煙の花が咲き乱れ、音速で飛んでくる弾片が機体の外板を切り裂く。それは距離を詰めるに連れて、輪形陣外縁部にある駆逐艦も、12.7センチ連装砲を指向。敵機群に向けて一斉に砲撃を放つ。


「なんだ、この対空火力は!?」


「一方向から無策に近付くな!全方位から仕掛けろ!」


 1機、また1機と火だるまに包まれて落ちていく中、米軍の攻撃隊は取り囲む様に展開し、猛攻を仕掛ける。対地ロケットを装備した〈ベアキャット〉は駆逐艦に対して猛攻を仕掛け、〈アベンジャー〉も続く。


 戦闘は拮抗状態にあった。米軍は物量によって対空戦闘能力を飽和させ、駆逐艦から優先的に撃沈していく。アスター級巡洋艦も15.2センチ連装砲や7.6センチ連装砲で全方位に弾幕を張り、粘り強く抵抗していく。だが余りにも数が多すぎ、装填中に距離を詰めてきた機は航空魚雷を投下。増速して回避機動に入る。


 対空戦闘が終わり、攻撃を終えた敵機は帰投していく。「パーペイ」の艦橋ではレーベルが報告を受けていた。


「此度の戦闘で、巡洋艦2隻、駆逐艦4隻が沈没。巡洋艦1隻が大破、その他にも多くの損傷が出ております。現在、第3・第8航空師団が敵艦隊へ攻撃を仕掛けておりますが、彼我との戦力差を見るに、厳しい事になるでしょう」


 幕僚の報告に、レーベルは大きくため息をつく。とはいえフィリピニシアを完全占領するためには、米艦隊をこの場で撃退しなければならなかった。


「潜水艦部隊に支援を要請しろ。我らだけでは骨が折れる事間違いない。必勝のために取れる手全てを取るのだ」

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